私たちの生活の中で、必ず必要となってくる「衣・食・住」。アパレル業界はまさにこの「衣」の部分を担っているため、業界としてはなくなることもありませんし、業界全体の売り上げは、少しずつ上昇傾向になっているというお話も耳にするようになりました。
しかし売り上げが上昇傾向にあるというのは、全てのブランドで見られる傾向ではなく、個別に企業を見ていると、売り上げが低迷している企業も多く見られます。アパレル業界大手のワールドに関しては、2015年には不採算ブランド500店舗の閉店を発表し、2016年にはそのおかげで利益は前年度より倍増したものの、実質販売店やブランドを閉鎖することにより、売上高に関しては大きく落としてしまうことになりました。
原因としては、消費者の好みの傾向が変わってしまったということ、また「服を買う方法」の多様化や新しい市場の登場が原因となっております。そのため、リアルなショップでアパレル販売員としてのキャリアを始めたい方によっては、企業選びという点で、非常に気をつけなければ、せっかくアパレル販売員として勤務できたのに、不況で退職を余儀なくされる…ということにもなり兼ねないのです。
今回は、この不況の原因についての解説や、消費者の好みの変動について、そして企業選びで失敗しないためのポイントなどについて、解説させていただきます。
「衣類の販売不振」と呼ばれる、3つの原因とは?
ファッションが提供するオシャレというものは、自己満足で楽しむものという側面と自分の身なりを整え、よりよく見せるという側面の2つを持ち合わせております。自分の身なりを整えるという側面に関しては、自分の体型や顔つき、雰囲気に合うベストな着こなしをすることで見え方が変わり、ビジネスであれば売り上げアップ、恋愛であれば恋人ができる、モテるようになるという効果が期待できます。
「絶食系」の増加
しかし近年「絶食系」と呼ばれるタイプの方が増えている傾向があり、それが原因で衣類販売の不振が続いているのでは、と囁かれております。「絶食系」とは、「仕事での成功」「モテる」などの本能や欲望、興味関心を持ち合わせていない方を指している言葉で、積極的にアプローチができない「草食系」よりも、さらに上のステージに上がった方のことを「絶食系」と呼びます。
外部からの視線を気にすることがなく、「服は着れるものなら、なんでもいい」というスタンスを持つ絶食系の方が増えたことで、衣類にお金を払う人が減り、衣類の販売不振に拍車をかけているのです。
消費者の好みの傾向の変化
男性・女性問わず、消費者の好みの傾向が変わったことも、不況と呼ばれる原因のひとつではないかと言われております。まず全体的な傾向としては、シンプルさと素材感にこだわりを見せたアイテムが好まれているように見られます。派手な柄物などよりも、シンプルな白のTシャツやシャツ、パンツやスカートなどを街で見かけることも多く、さらに素材に関してはカシミア100%などの高級素材が使用されたアイテムが、多く販売されるようにもなりました。
こうした消費者の背景やニーズに合ったアイテムをリリースしているブランド・ショップの販売実績は、非常に上昇しております。現に、ユニクロやGUを展開しているファーストリテイリングの売上高は1兆円を超えており、アパレル業界において売上高第1位になるほどです。2位のしまむらも勢いを上げており、5,000億円ほどの売上を計上しており、こうしたブランドが売上高を上げている背景から読み取ると、現在は「シンプルで」「素材がよく」「さらに安い」というような、極上のファストファッションが好まれる傾向が見られております。
とはいえ金額の高いアイテムは売れないのか、といわれれば実はそうではありません。金額の高いアイテムは主に男性層の消費者に好まれており、1足20,000円以上の靴や、100,000円近いバッグが、非常に多く売られているのです。男性のファッションというのは、流行り廃りがあまりなく、大きなトレンドもありません。
そのため1つ1つのアイテムを使用する期間も長く、高い金額を払っても、長く使えるアイテムが欲しいという傾向が強く見られるのです。自分だけが知っているというほどの小さなファクトリーブランドが展開する、こだわりの製法、素材、機能、歴史的背景を持った高額なアイテムを、男性の消費者は求めているようです。
反対に、女性アイテムのトレンドは流行り廃りが非常に激しく、安いアイテムを大量に購入する傾向には変わりはありませんが、そのなかでも素材や耐久性の良い、ファストファッションに人気が集まる傾向が見られております。
「スマートフォンアプリ」という、新しい販売市場の登場
実はリアルなアパレルショップの販売不振と言われている最大の理由は、この「スマートフォンアプリ」にあるという声が多数ございます。
現在、「メルカリ」や「BASE」をはじめとしたスマートフォンアプリを使用して、登録・出品無料で誰でもインターネット上に個人のアパレルショップを立ち上げられるようになりました。
オーナー自身が以前まで利用していたアイテムはもちろんのこと、独自で開拓したルートや海外からの仕入れ、せどりなどによって、特定のブランドで今季発表されたアイテムを安く仕入れることができるようなオーナーもおられ、リアルなアパレルショップでの販売価格よりも安く価格を設定し、販売している様子も目にします。
ブランドファンであるお客様の中には当然、「そのブランドのアイテムであれば、1番安いお店で購入したい」と考えられる方もおり、こうしたスマートフォンアプリで一通りアイテムを検索した後、同じアイテムをリアルなアパレルショップで試着し、安い方のショップで購入する、という流れが主流になってきました。こうした背景により、お客様がリアルなショップで購入するきっかけは、「そのショップのアパレル販売員と仲が良くて、その人に会いに行きたいから」や、「セールによって、アプリで販売されてるアイテムとあまり価格が変わらなかったから」というようなものになっております。
スマートフォンアプリの販売市場で起こるトラブル
もちろんスマートフォンアプリでの購入の場合、安いというメリットはありますが、基本的に個人と個人のやり取りになりますので、トラブルなども相次ぐケースがございます。
例えば料金を振り込んだのに、いつまで経っても商品が到着しないことや、やり取りの中でのちょっとした出来事が原因で、ショップに低評価をつけられるなどがあります。また入金確認後の発送、というプロセスを経てアイテムが届きますので、手元に届くまでにタイムラグがあり、デートに着て行きたい服、結婚式のドレスなど、緊急を要する買い物には不向きになっております。
また商品サイズなども素人感覚で測られたものであり、大抵が「ノークレーム・ノーリターン」を規約に販売をしているため、実際に着た際に、サイズなどが合ってなかった場合でも返品等をすることができなくなっております。さらに、出品者が見落としていた小さなシミなどの汚れがある場合もあり、やはりリアルなショップほどの責任感や安心感などは持ち合わせておりません。
しかし実際にこうしたアプリが人気を集め、多くのユーザーが利用しているという現状を踏まえると、スマートフォンアプリという新しい市場が登場したことは、リアルなアパレルショップの販売不振に王手をかけたことは間違いないでしょう。
企業選びの時に、チェックしておきたいポイント4選
販売不振、という影響が1番見える部分は、やはり年間の売上高になります。大抵の場合、企業のホームページなどを見ることで、過去の売上水準が記載されているので、そちらをまずは調べることを忘れてはいけません。上場しているアパレル企業などであれば、決算情報は必ず記載されておりますが、そうでないアパレル企業の場合、もしかするとホームページに掲載されていない可能性もございます。
そした場合は「企業名+売上+年度」などのキーワードで検索し、できるだけ見つけられるよう、検索するようにしてください。もし見つかった情報上で、売上高が年々上がっている状態なのであれば、企業の将来性を期待できるのかもしれませんが、反対に年々下がってきているのであれば、企業の将来性に少し不安が残ってしまうかもしれません。
ただし、もしかすると企業自体の方向性を転換しているためや、ワールドの例のように不採算ブランドを切り離したことによる売り上げ低下がある場合もございます。
また「売上」は公開していても、「利益」を公開している企業は少数派です。売上が立っていて順調そうに見えていたとしても、手元に残る利益がなければ、企業を運営していくことはできません。ワールドの場合は、売上は大きく下がってしまったものの、店舗運営費や人件費などといった固定費を削ることで、利益は2倍になったということでしたので、会社の利益自体は確保されているという状況です。
利益については調べても出てこない場合、気になるようであれば、面接で聞いてみるのも良いかもしれませんが、こうしたお金についての質問は非常にシビアな内容になっていますので、質問をする際には注意が必要です。
また資金力という側面でいうのであれば、「求人を掲載しているサイト」をチェックすることもおすすめです。世の中には非常に多くの求人サイトが存在しており、それをチェックすることで企業の資金力などを予想することができます。求人サイトでいうと、有名なところではリクルートが展開している「リクナビネクスト」や、マイナビが展開している「マイナビ転職」、エン・ジャパンの「エン転職」、インテリジェンスの「DUDA」などが挙げられ、その他アパレル求人の専門媒体もいくつか存在しております。
そうした公式の求人サイトに掲載ができるということは、ある程度の資金力は持っている、という判断を持っていてもいいでしょう。特に「リクナビネクスト」などに関しては、求人を見るユーザーの数が非常に多いということもあり、求人掲載料金が1ヶ月で40万円ほどする場合もありますので、採用に対してそうした金額を支払うことができる、というのは、ある程度の資金力があり、採用に真剣に取り組まれているという姿勢を見ることができます。
一方で「ハローワーク」にのみ掲載されている企業については、事前にインターネットなどでよく調べておくことをおすすめいたします。
ハローワークの求人というのは、実は無料で掲載することができ、「求人にお金をかけれない(あるいは、かけたくない)」という意識の企業が、掲載することが多い傾向になっております。
もちろん全ての企業がそうした理由ではないのですが、それでも資金力という面に関していうと少し不安が残ってしまうかと思われますので、もし気になる企業が見つかった場合は、事前にしっかりとリサーチしておきましょう。
セレクトショップというのは、特定ブランドのアイテムだけを販売するのではなく、注目度やお客様の趣旨に合わせて、様々なブランドのアイテムを取り扱うショップのことを指します。特定のブランドだけを取り扱うショップであれば、そのブランドに似た系統が好きなお客様や、そのブランド自体が好きなお客様のみが対象になってくるのですが、セレクトショップでは様々なブランドのアイテムを取り扱うことができますので、お客様層も非常に広がることがメリットとして挙げられます。
また、雑誌などで注目を浴びているような、こだわりの製法や素材、背景を大切にしながら少人数でひっそりと展開されているファクトリーブランドなどを取り扱うこともでき、そうしたアイテムを求めているお客様からは、セレクトショップは重宝される存在となっているのです。
セレクトショップの店長クラス以上のキャリアアップでは、バイヤーになる道も用意されております。バイヤーとは少数派のニッチなファクトリーブランドから大人気ブランドまで、様々なブランドの中から「自店で売れる商品」を見極め、仕入れを担当する役割を任されている職業になります。
自社ブランドの範囲内ではなく、もしかするとインターネットでもなかなか情報がないようなブランドも含めてリサーチをし、仕入れを担当することになりますので、専門ブランドのみ展開している企業のバイヤーに比べると、非常に大変で根気のいる作業をしなければなりません。しかし自分で選び、間違いなく売れると踏んで仕入れた商品がどんどん売れていく様子を見た時に、セレクトショップのバイヤーとして、大きなやりがいを感じることができるでしょう。
また、そうした多くのブランドを目にするため、視野が非常に広がるという利点もあります。自社ブランドだけではなく、様々なブランドのコレクションを見ることができるので、感性が高まり、センスが磨かれることは大きなポイントです。
これは、前述の「セレクトショップ」に近しいお話かもしれませんが、専門店は今、売り上げを大きく伸ばしており、非常に注目されている業態になります。
例えば、スニーカーやブーツなどの靴が欲しい場合、「トップスやパパンツ、アクセサリーなども置いている一般的なショップ」と、「様々な種類の靴だけが置いてある専門店」であれば、どちらの方が自分が欲しい靴が手に入ると思われるでしょうか。
答えは後者になるかと思われますが、専門店でかつ、セレクトショップであることに大きな価値を感じるお客様が増えているのです。
例でいうと、「atmos」という靴専門のセレクトショップが、非常に売り上げを伸ばしており、急激に店舗展開をしている様子が目立っております。
「atmos」は、もともとネットショップだけで展開しているスポーツシューズのセレクトショップだったのですが、NIKEやadidas、PUMAといった有名ブランドの、海外限定モデルや生産の少ない希少なモデルを取り扱っていることが、ストリートブランドが好きなユーザーの中で話題を呼び、今は東京や大阪などの街を中心に店舗展開を見せております。
実際に足を運んでみると、周りのショップに比べてお客様の数も圧倒的に多く、どんどん商品が売れていく様子を目にすることができます。
専門セレクトショップなので、小さめから大きめのサイズの在庫を確保できるため、足が小さすぎる、もしくは大きすぎて他のショップで買い物ができないというような悩みを持つお客様でも、安心して流行りのお洒落な靴を買うことができる、というメリットが、多くのお客様を呼んでいるのでしょう。
専門セレクトショップでは、「○○といえば〜…」といったような代名詞を持つことができ、それがお客様の認知に繋がるということ、またその専門アイテムに対して悩みを持つお客様が濃いファンになってくれるという利点があるため、勢いに乗っている専門セレクトショップの求人を見つけた際には、応募を検討しても良いのではないでしょうか。
まとめ
アパレル業界も、全体的な売り上げが上がっていると囁かれているのは、ファーストリテイリングのユニクロやGU、しまむらなどのファストファッションのクオリティが以前にも増して高くなり、「この価格でこの品質」という点にお客様が魅力を感じているということが背景であって、利益をどんどん落としている企業もたくさん存在しております。
前述の通り、ワールドも不採算ブランドを500店舗閉鎖、450人の希望退職者を募った背景もあり、さらには三陽商会、東京ソワールといった大手でさえも、厳しい経営状態に苦しんでおり、下手に調べずに内定をいただいた企業に就職してみたものの、経営不振で退職を余儀なくされる…ということになってしまっては、元も子もありません。
もしこうした経営状況などを調べることが苦手であれば、転職エージェントを利用してみるのも、いいかもしれません。
転職エージェントは実際に、求人を出している各企業と接触し、経営状況なども調べていることが多いので、気になる企業の将来性や経営状況を親身に相談に乗ってくれます。またセレクトショップや専門店などの求人で、転職エージェントにのみ公開しているものもある可能性がありますので、そうした求人がないか、問い合わせてみるのも良いでしょう。
せっかく憧れのアパレル業界で働くのであれば、長く働けることが本望だと思います。正しい企業選びを通じ、あなたが末長く活躍できる企業で働けることを、応援しております。