保育現場での「発達」というワードを連想すると、体が大きくなったり、自力で出来ることが増えたり、精神的に大人になることでしょう。しかし発達心理における「発達」とは、赤ちゃんから高齢者までに至る、すべての年代を指しています。
乳幼児期では子どもと親との関係、そして学校に通うようになると友達や先生との関係、大人になれば職場や家族との関係など、生きている環境が変化することで人間は少しずつ「発達」していきます。そして、これまでは気にならなかったことにストレスを感じたり、悩みが生まれたりすることもあります。
子どもから大人まで、それぞれの年代の「発達」を支援する専門家が「臨床発達心理士」です。特に保育現場では、子どもの健やかな成長のために、発達心理に基づいた専門的な支援を行うことで、子どもたちだけでなく保育士にとっても大きな力となっていきます。
今回は発達心理学に基づいて子どもの健やかな成長を援助する「臨床発達心理士」の資格についてご紹介していきましょう。
臨床発達心理士ってどういう資格なの?
臨床発達心理士は生まれてから高齢者までの幅広い年代に対し、発達心理学に基づいて支援を行う仕事です。なかでも新生児や乳幼児、発達障害や知的障害の人、育児不安などを抱える保護者などを支援するケースが多いでしょう。
また国家資格ではなく、「臨床発達心理士認定運営機構」が認定する民間資格です。発達心理学を中心に、その他の心理学・社会学・教育学・保育学など、人間の発達に関する幅広い・専門的な知識が求められます。
臨床発達心理士を申請するためには、大学や大学院で発達心理学や隣接する学問を学び、研究職や公認心理師などの職業に就いていることが必要です。また高い専門性を保つために、資格の有効期限が5年に定められ、更新時には審査が実施されることも大きな特徴です。
保育士と臨床発達心理士には関連性があるの?
保育士は子どもに寄り添って一緒に遊び、生活の援助をします。そこで床発達心理士は、子どもの発達中心に支援を行います。あわせて子育てに悩む保護者に対してもカウンセラーとして相談や助言を行います。どちらも子どもの成長に寄り添いますが、臨床発達心理士は専門的なアプローチが可能となります。
臨床発達心理士が活躍する場面
とくに臨床発達心理士が力を発揮する場面は、子どもの発達に関連して起こる問題への対処です。具体的に友達や家族、保育士など、人間関係や取り巻く環境、さらに子ども自身が抱える問題を注意深く観察します。また発達段階を確かめるために知能検査や発達検査などを行い、総合的に必要となる支援を組み立てていきます。
また保育士や保護者自身ができる支援を計画しながら、同時に支援も行っていきます。さらに保育園だけでなく、その他の施設、医療や福祉などの関係機関などと連携をとります。
臨床発達心理士が保育現場で役立つ場面は?
臨床発達心理士は保育園に馴染めないなど、人間観稀有の構築に困っている子どもたちや、その保護者に対して発達心理学を通した専門的なアプローチを行っていきます。そこで保育を学ぶだけでは気付けなかった視点で、子どもたちと接することができるようになるのです。
活躍の場としては専門知識を活かして、発達障害や知的障害を持つ子どもたちへの支援を行うことです。さらに保護者や同僚の保育士など、周りの大人と協力しながら子どもの健やかな発達を支援していきます。
また子育てに悩んでいる、思うように我が子を愛せない、といった保護者に対してカウンセリングを行うこともできます。特に子育て中の母親は、我が子と周りの子どもの些細な違いに敏感になり、それが原因となってストレスを感じてしまうことがあります。
そのような不安や悩みに対し、発達心理学に基づいた相談や助言を行います。必要に応じて支援計画を立案し、保護者のフォローも行います。子どもたちだけでなく、保護者対応の場面でも臨床発達心理士で学んだ専門的な知識は役立ちます。
臨床発達心理士は保育現場以外でも役立つの?
臨床発達心理士は子どもだけでなく、すべての年代の発達に関する専門家です。そのため保育現場以外にも活躍の場があります。
学校
身近な例としては、各学校で子どもや保護者の相談や支援を行うスクールカウンセラーがあります。発達段階に応じた支援計画を立て、教師や保護者と協力しながら子どもの発達を支援します。あわせて教師に対して研修会を行うこともあります。
フリースクールや発達支援センター
人間関係のトラブルや心身の障害などで学校に通えない子どもたちが、学校や社会に適応するために必要な支援を行う発達支援センターやフリースクールなどでも活躍しています。発達心理学の専門家として、学校や施設などを巡回して相談に乗ることもあります。
高齢者施設や障がい者施設
福祉関係でいうと、高齢者施設や障がい者施設などでも活躍しています。利用者を注意深く観察し、心理検査や知能検査を行って支援計画を立てます。発達心理学的なアプローチで、利用者の年代に応じた心身の発達を支援します。
企業
企業でも臨床発達心理士が活躍する場面が増えてきました。勤務する社員が抱えているストレスや不安などの相談、心理調査を実施します。職場内の人間関係、家族との関係、将来への漠然とした不安などを解消するために、計画を立てて支援していきます。
臨床発達心理士を取得するためには?
臨床発達心理士の資格を取得するためには、年1回行われる審査を通過する必要があります。心理系国家資格「公認心理師」の有無、学歴や臨床経験によって審査の内容は変わります。ただし「公認心理士」は2018年度以降に新設される国家資格です。
また2017年度から資格取得制度が新しくなりました。大まかな変更点としては、公認心理士取得者が申請できること、臨床経験のない発達心理学・諸科学の大学等の卒業者の申請ができなくなったことです。経過措置として、2019年までは旧制度で申請が可能です。
資格の申請条件とは?
申請条件には「公認心理師」取得者、発達心理学隣接諸科学の大学院修士課程修了者、大学や研究機関での研究職など、発達心理学について極めて高い専門性が求められています。
認定審査では取得している資格や学歴、臨床経験や職歴に応じて、書類審査・筆記試験などが実施されます。合格率は公表されていませんが専門的な知識が求められるため、取得は難しいと言われています。
臨床発達心理士の認定審査の問い合わせ先は?
気になる方・取得を検討している方に向けて、臨床発達心理士の認定審査を受験するための問い合わせ先を紹介します。
臨床発達心理士の認定審査を受験するためには、臨床発達心理士認定運営機構に「臨床発達心理士認定申請ガイド」を請求します。その後、申請書類を送付し、認定審査料を払い込みます。例年、ガイドは1月中旬から8月中旬、申請は8月あたりに行われています。
臨床発達心理士を取得して、子どもの健やかな発達を支援しよう
臨床発達心理士は、子どもだけでなくすべての年代の発達を援助するスペシャリストです。保育士は子どもたちとだけ接するため、「別の仕事」だと思う人もいるかもしれません。ただ保育士と臨床発達心理士は、「発達を援助する」点など共通点が多くあります。
子どもたちのなかには、専門的な発達支援が必要な子どもがいます。また、子どもとの向き合い方に悩む保護者も増えてきました。臨床発達心理士で学んだ専門的な知識を活かすことで、保護者や保育士を巻き込みながら、子どもの発達に寄り添うことができます。
とはいえ保育士として働きながら臨床発達心理士を取得することは、あまり現実的とは言えません。これから取得を目指すとすれば、発達心理学や関連する心理学等を学べる大学院修士課程に入ることから始めるのが現実的でしょう。
数年間、保育士としての仕事を中断して勉強に専念することにはなりますが、発達に関する障害やトラブルを持つ子どもの発達に専門的なアプローチができるのは、臨床発達心理士だけです。保育士のキャリアアップのひとつとして、臨床発達心理士取得を目指してみましょう。