赤ちゃんは、大人が想像している以上に、自分の意思を伝えようとしています。ただ、言葉をうまく話せないため、何を伝えたいのかをこちらが汲み取れないことも…。育児の場面では、赤ちゃんとの意思疎通の難しさが育児ストレスとなるケースが少なくありません。
言葉をうまく話せなくても、サインをつかったコミュニケーションをとることはできます。お腹が空いたとか、トイレに行きたいなど、自分の意思を伝えられるサインがあると、子どもは積極的にサインを出してコミュニケーションをとろうとします。
赤ちゃんの意思を汲み取り、コミュニケーションできるスキルを身につけることは、保育士としてのキャリアアップを考えるうえで重要です。それを持っていることを認定する資格に、「ベビーサイン講師」があります。
今回は、保育現場のなかで乳幼児クラスで子どもとコミュニケーションをする場面で役立つ「ベビーサイン講師」を紹介します。
ベビーサイン講師ってどういう資格なの?
ベビーサイン講師は、赤ちゃんを育てている保護者にベビーサインを教える専門家です。ベビーサインとは、主に6か月から1歳半の赤ちゃんとジェスチャーをつかってコミュニケーションをとる方法のひとつといわれます。
赤ちゃんは言葉を話すために必要な口の周りや下あごの筋肉によりも先に、指先や手の筋肉が発達します。そのため、言葉をつかった会話ではなく、ジェスチャーによって赤ちゃんとコミュニケーションをとるのです。
自分で座れるようになり、指差しができるようになった赤ちゃんであれば、ベビーサインを教えることができます。それぞれの赤ちゃんで成長の個人差こそありますが、だいたい6か月から1歳半がベビーサインを教えるのに最適な時期だと言われています。
ベビーーサイン講師の役割
泣くだけで赤ちゃんが何を伝えたいのかがわからず、子育てに悩んでしまう保護者も少なくありません。しかし、赤ちゃんとベビーサインをつかったコミュニケーションがとれると、「お腹が空いた」とか、「ここが痛い」といった赤ちゃんの意思を汲み取ることができます。
赤ちゃんと保護者をつなぐベビーサインを、保護者に教えるのがベビーサイン講師です。お腹のなかに赤ちゃんのいるお母さんや、赤ちゃんがベビーサインを覚え始める6か月になる前の保護者などを対象に、ベビーサインの講習会などを行います。
ベビーサイン講師は、国家資格ではありません。民間資格として、一般社団法人「日本ベビーサイン協会」が認定を行っています。基礎的なことを中心に学ぶ「ベビーサインアドバイザー」と、本格的な講座を開講できる「ベビーサイン認定講師」があります。
また、ほかの民間団体には、類似する認定資格も存在します。日本ベビーサイン協会が認定する資格は、類似する資格を取得している人は取得できないルールがあります。
ベビーサイン講師が保育現場で役立つ場面は?
ベビーサイン講師の取得をとおして、赤ちゃんとコミュニケーションをとれるようになるため、保育スキルの幅を大きく広げることができます。
保育士として保育を学ぶだけでは気付けない視点で、赤ちゃんの意思に寄り添った保育ができるようになります。
0歳~1歳児のクラスを持つ保育士に向けて
保育現場のなかでも0歳児や1歳児クラスを受け持つ保育士にとって、子どもたちとのコミュニケーションは楽しくもあり、難しさもあります。子どもによって表情や泣き方が異なるため、子どもの意思を汲み取るのは経験に頼る部分が大きくなりがちです。
ベビーサインによるコミュニケーションができれば、子どもの意思を汲み取ることができます。やりたいことやしてほしいことがわかるため、子どもにとっても保育士にとってもストレスフリーな保育ができるのです。
保護者に対してベビーサイン講習会を開く
ベビーサインによるコミュニケーションをしたい保護者に向けて、ベビーサインの講習会を開くこともできます。保育士とのコミュニケーション以上に、保護者とのコミュニケーションは、子どもの心身の発育にとって重要です。
たとえば食事のサインを子どもが覚えると、保護者がサインを出すだけで子どもが喜ぶようになります。トイレトレーニングをしている子どもであれば、言葉ではうまく言えなくても、自分の意志でトイレのサインを出してくれます。
子育てをしているママやパパの育児ストレス軽減
赤ちゃんを育てているときには、お母さんが「子育ての主役」です。しかしベビーサインで赤ちゃんとコミュニケーションができるようになると、お父さんも楽しんで育児に参加するようになります。
お母さんやお父さんに対してベビーサインを講習することで、「子どもが何をしたいのか、どうしてほしいのかがわからない」といった育児ストレスを軽減し、両親を「子育ての主役」にすることもできるのです。
ベビーサイン講師は保育現場以外でも役立つの?
ベビーサイン講師は、親子をベビーサインでつなぐ専門家ですから、保育現場以外にも活躍の場があります。むしろ、母子が一緒に活動する機会が少ない保育園以外で、専門的な知識や技術を活用する機会が増えてきました。
ベビーサイン講習会
もっとも活躍しているのが、ベビーサイン講習会を開催して講師をすることです。妊婦さんや赤ちゃんを育てているお母さんに対して、ベビーサインを教えます。母親の子育て中のストレスが和らげ、子育てが楽しくなるような時間を提供します。
赤ちゃんとお母さんのコミュニケーションをとる講座としては、ベビーマッサージやチャイルドボディセラピストなどもあります。しかし、これらの講座との大きな違いは、子どもとの意思疎通、言葉をうまく話せない子どもの意思表示というところです。
ベビーサイン講師を取得するためには?
ベビーサイン講師の資格を取得するためには、それを認定している日本ベビーサイン協会の講座を受講する必要があります。合格率は約80%といわれており、平均合格率約20%の保育士と比較しても、取得しやすい資格といえます。
ベビーサイン講師には、赤ちゃんとお母さんに基礎的なベビーサイン講習会を開ける「ベビーサインアドバイザー」という資格があります。知育も兼ねた遊びを通して、赤ちゃんとお母さんが効果的にベビーサインを学ぶことができます。
ベビーサインアドバイザー
ベビーサインアドバイザーは、赤ちゃんの成長やベビーサインなど9項目、合計5時間の講習会を受講し、試験に合格することで取得できます。試験では、講習で学んだベビーサインが出題されます。個別指導によるフォローアップもします。
ベビーサイン認定講師
上級資格として、日本ベビーサイン協会が認定するコースの講座を開ける「ベビーサイン認定講師」があります。コースの講座は全6~15回で開くことができます。さらに協会が派遣する講師や協会が開催するイベントなどにも講師として参加します。
ベビーサイン認定講師は、さらに専門的な内容の講座を6日間(土日を3回)受講し、試験に合格することで取得できます。また、8日間のコースもあります。こちらはベビーサイン認定講師として独立を考えている方向けで、開業に必要なノウハウなどを含めた講座です。
講習では実技を交えながらベビーサインのデモレッスンを行い、講習会を開講するためのビジネス面についても学びます。また、課題としてレポートや教材の作成などもあります。試験では、講習で学んだベビーサインについて出題されます。
ベビーサインアドバイザーは、保育士など保育に携わる人のほかに、自分の子育てに活かしたいお母さんなども、資格取得を目指して受講するケースが多いようです。そのため、子どもを連れて講習に参加することもできます。また、お父さんの参加も増えてきました。
一方でベビーサイン認定講師は、将来的に独立開業を目指す人が多く学んでいるようです。ベビーサインアドバイザーと異なり、子どもを連れて講習に参加することができません。
また、すでにベビーサインに類似する資格を取得している人は受講することができません。ボディランゲージなどをつかって、赤ちゃんとコミュニケーションをとる方法を学べる資格がほかにもありますが、ベビーサイン講師の取得を検討している場合は気を付けましょう。
ベビーサイン講師認定講座の問い合わせ先は?
気になる方、取得を検討している方に向けて、リトミック指導員を認定している日本ベビーサイン協会の問い合わせ先を紹介します。
日本ベビーサイン協会では、ベビーサインにかんする資格を取得できます。基礎的な「ベビーサインアドバイザー」、専門的な「ベビーサイン認定講師」の2つの資格があります。
主な講座:ベビーサインアドバイザー育成プログラム
受講期間 1日(講習5時間)
受講費用 30,000円(税別、教材代込)
受講条件 18歳以上、高卒以上、講師として適性なふるまいのできる方(ベビーサインと類似の資格取得者は受講不可)
主な講座:ベビーサイン認定講師育成プログラム
受講期間 6日間(レポート、教材制作課題あり)
受講費用 150,000円(税別、教材代、考査料込)
受講条件 18歳以上、高卒以上、6日間の講習すべてに参加できる方、講師として適性なふるまいのできる方(ベビーサインと類似の資格取得者は受講不可)
ベビーサイン講師を取得して、赤ちゃんの自主性を育てよう
ベビーサイン講師は、ベビーサインによって赤ちゃんの自主性やコミュニケーション能力を育てるスペシャリストです。言葉をうまく話せない子どもでも、ベビーサインをつかうことで保護者や保育士と意思疎通できて、自信をもって自己表現できるようになります。
赤ちゃんは、保護者や保育士とベビーサインをつかってコミュニケーションをとることで、言語的な能力や情緒を大きく成長させます。さらに、伝えたいことが伝わる感覚は、赤ちゃんが保護者への愛着や、自己肯定感をもつきっかけとなるのです。
また、子どもとうまくコミュニケーションがとれないことは、育児ストレスの原因のひとつです。育児に悩みを抱える保護者にベビーサインを教えることで、言葉をつかわずとも意思疎通が図れるようになり、子どもにも両親にもやさしい育児をするための支援ができます。
資格取得にかかる期間は短期間なので、比較的取得しやすい資格です。ただ、講座を開講する場所が限られているため、事前準備をしておきましょう。この資格を活かせる場面の多さを考えると、乳幼児クラスを受け持ちたい保育士のスキルアップに向いている資格です。