元気よく身体を動かして遊んでいる子どもたちの姿は、保育士として働く私たちにも元気を分けてくれます。ただ、運動遊びのなかで友達と同じことができずにしょんぼりした顔、うまくできずにイライラする顔を見ると、適切な支援をして、できるようにしてあげたいですね。
今までできなかったことができるようになると、子どもたちは自信をつけ、もっと難しいことに挑戦しようとする意欲をもちます。また目標を達成するために、感じる力や考える力、集中力などを自ら育てていきます。
運動遊びを通して、子どもたちが自ら成長する力を身につけるための支援の仕方を知ることは、保育士としてのキャリアアップを考えるうえで重要です。それを持っていることを認定する資格に、「運動保育士」という資格があります。
今回は、保育現場のなかで運動遊びをする場面で役立つ「運動保育士」について紹介しましょう。
運動保育士ってどういう資格なの?
運動保育士は、身体を動かすことを通じて、子どもたちの心を健やかに育む専門家です。松本短期大学の柳沢秋孝名誉教授が提唱している「柳沢運動プログラム」をベースに、運動遊びをすることで心と体の発達を促していきます。
子どもたちにとって、その運動が簡単すぎると飽きてしまいますし、逆に難しすぎるとやる気を失ってしまいます。運動保育士は、年齢や発達段階に合わせて、子どもたちに適した運動遊びを提供していきます。
平成24年3月に、文部科学省は「幼児期運動指針」を示しました。子どもの心身の健やかな成長に向けて、運動遊びへの取り組みに注目されるようになりました。そのなかで、運動保育士は子どもたちの発達に応じた運動遊びの専門家として、現場での活躍が期待されています。
幼児期は、たとえ年齢が同じであっても、子どもの発達には個人差があります。運動保育士は、身体を動かす子どもを注意深く観察して、心身の成長のためにステップアップとなる支援をしていきます。
運動保育士は、国家資格ではありません。NPO法人運動保育士会が運営している「運動保育士会こどもプラス」が認定する民間資格です。講座を受講して、試験に合格すると資格認定を受けられます。
運動保育士が保育現場で役立つ場面は?
運動保育士の取得をとおして、「柳沢運動プログラム」を基礎として運動遊びを学び、保育スキルの幅を大きく広げることができます。保育士として保育を学ぶだけでは気付けない視点で、身体を動かす子どもたちにきめ細かな接し方ができるようになります。
「運動遊び実践」コースで学んだことを活かして、子どもたちが楽しみながら運動遊びが好きになるように、運動遊びをリードします。身体の成長や運動機能の発達を促すために、遊びのなかに「次のステップ」となる運動を取り入れ、自然にできることが増えていきます。
「子育て脳機能」コースで学んだことを活かして、楽しく運動遊びをすることで、子どもたちの集中力を育てます。物事に集中する力が身につくと、子どもたちは記憶力や観察力といった脳機能を高めることができます。
運動遊びの専門的な知識を活かして、園内での運動遊びの計画を立てたり、同僚の保育士に助言したりすることができます。最近では、運動遊びに力を入れている園も増えてきました。専門家として、運動遊びやその指導のレパートリーを増やす取り組みをしていきます。
運動保育士は保育現場以外でも役立つの?
運動保育士は、運動遊びを通して子どもたちの心と体を育てる専門家ですから、保育現場以外にも活躍の場があります。少しずつではありますが、保育園以外でも運動保育士としての知識や技術を活かせる場所が増えてきました。
保育現場で子どもたちと運動遊びをする保育士に対して、オブザーバー的な立場から保育士に助言を行うことがあります。日々の運動遊びで気を付けることから、年間を通して子どもの発達段階を考慮した運動遊びの立案など、助言の範囲は多岐にわたります。
障がいをもつ子どもを預かる施設では、専門的な知識や技術を活かして、発達段階や障がいの状況に応じた運動遊びを行います。実際に運動保育士「運動遊び実践」コースの上級資格では、声掛けや運動遊びについての専門的な知識や技術を学ぶことができます。
アスレティックのように身体を動かしながら遊べるプレイルームなどがある施設では、子どもたちの運動遊びをサポートするスタッフとしても活躍しています。大規模な商業施設に併設される形で、子どもたちが楽しく運動遊びできる場所が増えてきました。
子ども向けスポーツ教室やダンス教室でも、子どもの発達段階に合わせた運動遊びへの知識がある運動保育士は活躍しているようです。幼児期は、運動遊びをすることで運動神経を成長させます。遊びのなかで、子どもたちができることを増やして、自信をつけさせます。
運動保育士を取得するためには?
運動保育士の資格を取得するためには、それを認定する運動保育士会こどもプラスの講座を受講する必要があります。合格率は公表されていませんが、平均合格率約20%の保育士と比較しても、取得しやすい資格といえます。
「運動遊び実践」と「子育て脳機能」の2つのコースがあり、それぞれに初級、中級、上級があります。どちらか一方だけでも取得可能ですが、保育士のスキルアップのため取得するのであれば、どちらも取得しておくといいでしょう。
資格の取得方法は、「運動遊び実践」コースの初級のみ、受講前にDVD教材を購入して事前学習する必要があります。その他のコースは、すべて講座を受講するだけで取得できます。また、初級のみ「運動遊び実践」と「子育て脳機能」の2コースを同時受講することが可能です。
講座を受講するために必要な資格は特になく、基本的に誰でも受講できます。保育士や幼稚園教諭など、子どもとかかわる職業の方だけでなく、それを目指している方、自らの子育てに活かしたい方なども受講しているようです。
受講期間は、初級が半日(2コース同時受講可能)、中級以降は2日です。短期間で集中的に学ぶことができるため、保育士として仕事をしながらの取得も難しくありません。ただ、お住いの地域によっては、最寄りの講座開催地の都合上、スケジュール調整が必要になります。
運動保育士認定団体の問い合わせ先は?
気になる方、取得を検討している方に向けて、運動保育士を認定している運動保育士会こどもプラスの問い合わせ先を紹介します。
「運動保育士会こどもプラス」では、運動保育士資格として、「運動遊び実践」コースと「子育て脳機能」コースを取得できます。それぞれ初級から上級まであり、目的や用途に合わせた資格取得が可能です。
運動遊び実践コース
初級
取得できる資格 | 運動遊び実践アシスタント |
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受講期間 | 半日(別途、DVD教材による事前学習が必要) |
受講費用 | 17,000円 |
受講条件 | 特になし(DVD教材による事前学習として、概論「運動と発育発達と脳機能」修了証が必要) |
中級
取得できる資格 | 運動遊び実践サブリーダー |
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受講期間 | 2日 |
受講費用 | 38,500円 |
受講条件 | 運動遊び実践コースと子育て機能コースにおいて、それぞれ初級を取得していること |
上級
取得できる資格 | 運動遊び実践リーダー |
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受講期間 | 4日 |
受講費用 | 68,500円 |
受講条件 | 運動遊び実践コースと子育て機能コースにおいて、それぞれ中級を取得していること |
子育て脳機能コース
初級
取得できる資格 | 子育て脳機能アドバイザー |
---|---|
受講期間 | 半日 |
受講費用 | 17,000円 |
受講条件 | 特になし |
中級
取得できる資格 | 子育て脳機能ディレクター |
---|---|
受講期間 | 2日 |
受講費用 | 28,500円 |
受講条件 | 運動遊び実践コースと子育て機能コースにおいて、それぞれ初級を取得していること |
上級
取得できる資格 | 子育て脳機能プロデューサー |
---|---|
受講期間 | 2日 |
受講費用 | 28,500円 |
受講条件 | 運動遊び実践コースと子育て機能コースにおいて、それぞれ中級を取得していること |
運動保育士を取得して「運動遊び」を重視した保育を
運動保育士は、近年注目されている運動遊びのスペシャリストです。文部科学省をはじめ、地方自治体や保育関係者の間で注目され、保育現場では子どもたちに大人気の運動遊びは、運動保育士にはその支援で中心的な役割が期待されています。
「運動」といえば、どうしても身体的機能の発達だけを意識しがちですが、実は体を動かすことによって心や脳の発達を促すことができます。遊びのなかで目標を立て、それを達成することで、子どもたちは自信をつけて生き生きと活動するようになります。
運動保育士は、子どもたちが次のステップに進めるために必要な支援を、運動遊びを通して行います。子どもたちも集中して取り組むことができるため、自然に先生と遊ぶ時間が楽しくなります。遊びのなかで子どもたちの成長を感じ取れるのは、保育士の大きなやりがいです。
資格取得にかかる期間が半日から2日と、保育士として働きながら短期間で取得できるのも魅力です。高い合格率とこの資格を活かせる場面の多さを考えると、保育士としてのスキルアップを考えている保育士は、ぜひ取得しておきたい資格といえます。