借金を返済していくことが厳しくなったら、個人再生を視野にいれる人はいるのではないでしょうか。
「個人再生ってどれくらい借金を減らせるの?」
「家を売らなくてもいいって本当?」
個人再生は、住宅を手元に残しながら借金を減額することができますが、誰でも利用できるわけではありません。また、個人再生といっても2種類の手続き方法があり減額効果も違います。
ここでは、個人再生の基本事項から解説し、メリット・デメリットや手続きの流れを紹介していきます。
目次
個人再生とは
借金を全額返済するのが厳しくなったときの最終手段の1つが「個人再生」です。個人再生は債務者を救済する法的な制度で、借金の総額を減額(圧縮)することができます。
例えば、500万円の借金を200万円に減らすことが個人再生では可能です。しかし、借金をゼロにすることはできませんので注意してください。
従って、再生以前より返済負担は軽くはなりますが、個人再生後も借金の返済は残ります。借金を減らす効果は5/1程度が相場で、返済期間は3年~5年になるのが一般的です。
個人再生と任意整理の違い
任意整理は、利息の負担を軽減する債務整理。従って、借金の元本自体を減額することは基本的にできません。つまり、利息を減らす任意整理よりも借金の元本自体を減らす個人再生の方が借金の減額効果は一般的に大きいのです。
- 将来にわたって本来支払うべき利息を免除
- 過去に20%以上の金利で返済していた場合、その超過分を残高の支払いに充当
個人再生 | 任意整理 | |
---|---|---|
借金の圧縮率 | 大きい | 小さい |
財産の処分 | 無し | |
職業・資格制限 | 無し | |
裁判所の手続き | 必要 | 不要 |
官報 | 記載 | 載らない |
債務整理対象の債権 | 選べない(全債権対象) | 選べる |
認可までに要する期間 | 約半年 | 約3カ月 |
個人再生と自己破産の違い
自己破産は、借金をゼロにする債務整理の手続きです。個人再生同様、合法的な制度ですが、簡単に借金を帳消しにはできません。
借金をゼロにするには条件があり、債務者の所有財産を売却・処分して債権者に分配します。個人再生の場合は、基本的に所有財産を売却する必要はありません。
個人再生 | 自己破産 | |
---|---|---|
借金の圧縮率 | 約1/5 | 借金を免除 |
財産の処分 | 無し | 有り |
職業・資格制限 | 無し | 有り |
裁判所の手続き | 必要 | |
官報 | 記載 | |
債務整理対象の債権 | 選べない(全債権対象) |
個人再生には「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」の2パターンがある
個人再生には、
- 小規模個人再生
- 給与所得者等再生
その違いを知らないと選ぶことができませんが、利用資格と借金の返済額の決定方法が違います。
2つに共通する利用資格の前提条件
個人再生を利用するには必須のクリアすべき条件が2点あります。
- 住宅ローンを除いた借金の総額が5000万円以下
- 将来、継続した収入が見込めること
個人再生は借金を減額したあとの返済計画に相当する個人再生案を裁判所に提出し、認可されたら返済をしていきます。そのため、将来の収入の有無をチェックする必要があるのです。
従って、収入が無い場合は個人再生は認められません。
また、住宅ローン以外の借金のトータルが5000万円を超える場合は、個人再生ではなく通常の民事再生の手続きになります。
小規模個人再生の要件
小規模個人再生は、主に自営業者、個人事業主のような収入が不安定な方を対象にした個人再生の手続きです。
継続した収入が見込めればOKなので、パート、アルバイト、会社員でも手続きはできます。しかし、無職、専業主婦のような収入のない人は小規模個人再生は利用できません。
また、全債権者の過半数の合意を得ないと再生計画案が認可されません。
給与所得者等再生の要件
サラリーマンのような月1の給与所得を定期的に得ている人が対象の個人再生手続きです。
- 定期的な収入が将来にわたってあること
- 収入額の変動が少ないこと
- 小規模個人再生のような債権者の同意は不要
ここで、小規模個人再生と給与所得者等再生の違いをまとめたものが下記の表です。
小規模個人再生 | 給与職者等再生 | ||
---|---|---|---|
申込資格 | 債務者が法人ではなく個人であること | 〇 | 〇 |
安定・継続した収入があること | 〇 | 〇 | |
住宅ローン以外の債務が5000万円以下 | 〇 | 〇 | |
給与所得が継続的にあり 変動がすくなく安定であること |
ー | 〇 | |
再生計画案の認可条件 | 債権者過半数の合意でOK | 債権者の合意は必要なし |
個人再生で債務がいくら圧縮(減額)できるのか?
個人再生で最も気になる部分が借金の減額効果でしょう。しかし、小規模個人再生と給与所得者等再生で減額の評価方法が違うのです。
- 民事再生法で定められた最低弁済額
- 清算価値の総額
- 再生後の返済金額が可処分所得の2年分以上の金額でなければならない
ここでは、個人再生の減額に関するルールと返済額を紹介していきます。
個人再生の最低返済額が法律で決められている
債権者に支払うべき最低弁済額の基準が民事再生法第231条2項で定められています。最低弁済額とは、「最低限、この金額は返済しなければならない」という金額で、個人再生したい債権の金額によって違います。
個人再生の債務金額 | 最低返済額 |
---|---|
100万円未満 | 債務の総額 |
100万円以上500万円以下 | 100万円 |
500万円超1500万円以下 | 総額の1/5 |
1500万円超3000万円以下 | 300万円 |
3000万円超5000万円以下 | 総額の1/10 |
例えば、500万円の借金なら、100万円返済すれば残りの400万円の残債は免除されるということです。一方、借金が100万円未満の場合は個人再生による減額効果が全くありません。
清算価値の総額と最低弁済額のを比べて再生後の返済額が決まる
清算価値とは、債務者が持っている財産・資産の総額をいいます。具体的な清算価値の対象となるものは以下の通り。
- 住宅などの不動産
- 車
- 装飾品
- 宝石
- 有価証券(株、小切手など)
- 預貯金
など
もちろん、住宅や車などは購入金額ではなく評価額になります。
この財産・資産の金額のトータルが、民事再生法の最低弁済額の基準額がより高額になる場合には、清算価値の総額が最低弁済額になります。
清算価値 < 最低弁済額の基準額 → 最低弁済額の基準額が適用
例えば、債務総額が500万の場合、最低弁済額の基準額は100万円になります。しかし、車の評価額が60万円、預貯金が200万円ある場合、清算価値は260万円となり、このケースでは260万円が最低弁済額になるということです。
従って、個人再生の返済金額は、言い換えれば清算価値の金額以上の返済をしなければならないということになります。
なぜ、清算価値を超える返済が必要なのか?
民事再生法の最低弁済額の基準額だけあれば十分なのではと思うかもしれません。
債権者にとって、個人再生の方が自己破産よりも不利益になる取引になるとしたら、個人再生を認めるでしょうか?
個人再生の負担額を自己破産より軽くしてしまえば、債務者にとっては有利になりますが、だとすれば、債権者側は「家や車を売ってお金を返してください」というスタンスになるでしょう。
少なくとも自己破産をするときよりも多くの金額を個人再生で支払うこと。これを保証するために清算価値の金額を最低限の弁済額とするのが清算価値保障の原則というわけです。
給与所得者等再生の場合、返済額は「可処分所得の2年以上」の基準もクリアしなければならない
一般的なサラリーマンの給与は、所得税、住民税、社会保険料などが引かれて支給されます。これを可処分所得といい手取りともいいます。可処分とは自分で自由に使えるお金を指します。
給与所得者等再生の最低弁済額は、この可処分所得の2年以上の金額に設定しなければならないということです。簡単な例で考えてみましょう。
- 個人再生対象の債務:300万円
- 手取り年収(税金・保険などを差し引いた金額):370万円
- 年間生活費:180万円
債務が300万円なら500万円以下の借金なので最低弁済額は100万円になります。可処分所得は年間190万円(370万円-180万円)になり、2年分なら380万円になります。
つまり、「給与所得者等再生」を選んだ場合、最低弁済額は100万円ではなく380万円が適用されます。
一般に収入が大きければ可処分所得は大きくなってしまいます。
個人再生は「小規模個人再生」が圧倒的に多い
サラリーマンは「小規模個人再生」と「給与所得等再生」のどちらか選ぶことができます。しかし、可処分所得によって最低弁済額が大きくなってしまうので、小規模個人再生で手続きを行うほうがお得なケースが一般的に多いようです。
債務者の視点に立てば、借金の返済負担はなるべく小さいほうがいいと思うのは普通でしょう。
実際に2018年1月から5月の裁判所の司法統計によれば、小規模個人再生の方が圧倒的に多いことが分かります。
小規模個人再生 | 給与所得者等再生 | |
---|---|---|
2018年1月 | 691件 | 55件 |
2018年2月 | 881件 | 57件 |
2018年3月 | 1064件 | 75件 |
2018年4月 | 1056件 | 69件 |
2018年5月 | 1030件 | 63件 |
個人再生の返済額の算出方法・条件のまとめ
- 最低弁済額
- 清算価値の金額
- 最低弁済額
- 清算価値の金額
- 可処分所得の2年以上の金額
自宅を守る「マイホーム特例(住宅資金特別状況)」
自己破産なら、自分の住んでいる家を競売にかけて、売却代金を債権者に配当します。つまり、生活の基盤である住宅を手放すことになるのです。
一方、個人再生には「マイホーム特例」といって、住宅ローンの返済は、個人再生の債務対象から例外的に除外し、住宅をキープすることができます。家を残しつつ、その他の借金の返済を個人再生で減額するということが可能なのです。
これは、個人再生の大きなメリットですよね。しかし、マイホーム特例が認められるには、クリアしなければならない条件がいくつかあります。
- 債務者本人が所有している住宅であること
- 住宅資金貸付債権(住宅ローン)であること
- 対象の不動産に住宅ローン以外の抵当権がないこと
住宅ローンは大きな金額になりますので、カードローンと違って担保が設定されるのが普通です。その担保に相当するのが抵当権とう債権です。
抵当権は、万が一住宅ローンの支払いが難しくなったときに、その住宅を売却して得た金額を住宅ローンの返済に充てます。こうすることで、住宅ローンの回収リスクを軽減するのです。
個人再生のメリット
債務整理は個人再生だけではなく、任意整理や自己破産も選択肢に入ります。しかし、個人再生が他の債務整理より優れているポイントをまとめました。
- 借金の総額を大幅に減額することが可能
- 住宅ローンがあっても自分の住んでいる家を残したまま手続きが可能
- カードローン会社からの催促が止まる
- 強制執行を止めることが可能
- 財産を売らなくて済む
- 職業の資格制限がない
ここでは、個人再生のメリットを解説していきます。
催促が止まる
個人再生の手続きを弁護士に依頼すると、弁護士からカードローン会社へ受任通知が送付されます。すると、それ以降は返済の催促が止まります(法律で禁止されている)。
強制執行が止まる
個人再生を手続きするということは、ローンの返済に困っている状況ですから、債権者が強制執行をして、債務者の給料や預貯金を差し押さえている可能性があります。
しかし、個人再生の申し立てをすると、強制執行を止めることが可能になるのです。
財産を売らなくて済む
個人再生では、最低弁済額を決めるにあたって、債務者の所有財産の価値を算出します。しかし、清算価値を評価するだけで、財産を手放す必要はありません。
一方、自己破産なら、財産を処分しなければなりません。手持ちの財産をそのまま残して置けるのは個人再生のメリットでしょう。
職業の資格制限がない
自己破産の手続きをすると、債務者から破産者になり、弁護士、警備員や宅建など一定の職業に就けなくなる制限が生じます。その場合は免責許可が確定し、復権すれば職業の資格制限は解除されます。
しかし、個人再生には特定の職業に就くことができなくなるような資格制限は一切ありません。
個人再生のデメリット
個人再生はいいことばかりではありません。借金を大きく減らす効果がある反面、マイナスの効果もあるのです。
- 信用情報に個人再生の事実が残る
- 官報に載る
ここでは、個人再生のデメリットを紹介していきます。
信用が低下する
個人再生の事実が信用情報に記載されると、事実上新しいクレジットカードの発行やローンの利用はできなくなります。金融ブラックと呼ばれる状態です。
信用情報はCIC,JICC、全銀協などの機関で管理されていて、貸金業者は閲覧可能なのです。個人再生、自己破産といった債務整理は、事故記録扱いをしますので、記録が残っているうちは、申込をしても審査落ちをしてしまいます。
事故記録は5~10年で削除されるので、もしカードやローンの利用を検討するなら削除後のタイミングがいいでしょう。
個人再生は借金を減らす効果がありますが、そもそも借金をきちんと計画的に返済できなかったわけですから、信用評価は下がってしまうのです。
官報に個人再生者の情報がのる
官報とは、政府が発行していて、個人再生や破産者が記載されます。そして、官報はインターネット上で誰でもみることできるのです。
- 債務者の氏名
- 住所
- 手続きの開始時期
- 届け出期間
個人再生手続きの大まかな流れ
個人再生の手続きの流れは、裁判所によって違います。例えば、個人再生委員が選出されるところもあればないところもあるのです。
ですから、手続きにかかる時間も人によって変わりますが、おおよそ再生計画案の認可・不認可が確定するまでは半年ほどかかると思っておきましょう。
こちらが、おおまかな個人再生の手続きの流れです。
- 裁判所へ個人再生を申し立てる
- 個人再生委員の選出 ※ 裁判所による
- 個人再生の手続き開始
- 貸金業者による債権の届け出
- 個人再生の再生計画案を提出
- 再生計画案の認可
- 計画にそった返済をする
個人再生委員の選任
東京地方裁判所では個人再生委員の選任が必須です。ですが、個人再生委員とは何なのでしょうか?
原則、弁護士のつかない債務者の場合に個人再生委員が選任され、弁護士がいるなら選ばれないのが普通です。
個人再生委員は個人再生を希望する債務者の補助をしてくれる人で、まず最初に債務者と面談をします。
個人再生の申立書を作成するために、債務者の財産、収入、債務などの状況を調査します。ここでは書類の提出も求められます。そして、意見書を裁判所に提出して個人再生の手続きを開始してもいいのかどうかを判断してもらうのです。
また、個人再生を認めてもらうにあたって多くの必要書類や提出物があります。裁判所に提出するものですから法的に問題ないかどうか個人再生委員がチェックし、都度アドバイスをする役割があります。
履行テスト(積立トレーニング)
個人再生が認められると、再生計画通りに返済をしていくことになります。そこで、個人再生の認可前の手続きの期間中に、履行テストを行います。
履行テストは再生計画をきちんと遂行できるかどうかチェックするもので、具体的には、個人再生委員が指定した預金口座に、再生計画の返済額同等の金額を振り込みます。テスト期間中はこの振込を続けねばなりません。
法律のエキスパートである弁護士の力を借りるのがおすすめ
個人再生を検討するなら必ず専門の弁護士に依頼しましょう。個人再生は簡単な手続きではありません。必要な書類も多く、法的に問題ない書類を作り上げることも知識のない人では無理でしょう。
そもそも、債務整理は個人再生だけではありません。任意整理、自己破産などやり方は他にもあるのです。その中で本当に個人再生を選択すべきかどうかは、債務者自身ではなく法律のプロの意見を聞くのが間違いありません。
もし、弁護士の相談料などが気になって利用をためらっているなら、国が運営している法テラスの無料相談を使いましょう。
まとめ
個人再生の説明、特徴や手続きの流れについて解説しました。
借金を減らす効果が高いので、返済に苦しむ人にとっては魅力的な救済制度です。
- 借金の総額を1/5程度に減らすことが可能
- 所有財産を手放す必要がない
- 個人再生すると新しいカードやローンが10年程度利用できない
減額できるから個人再生を利用しようと安易には考えないこと。デメリットも踏まえて検討すべきで、他の債務整理の選択肢もあるわけですから、本当に個人再生を利用すべきかどうかは自分一人ではなく弁護士などの法律のプロに相談をしましょう。