口約束でお金を貸すと、トラブルになりかねません。いくら仲が良くても、きちんと返済してくれるかどうかの保証はないのです。従って、金銭の貸し借りの事実を借用書にして書面に残すことが大切なのです。
ここでは、お金を貸す際の借用書の種類や書き方を解説して、それでも返済をしない人に対しての対処方法をご紹介します。
誰かにお金を貸すことになっても、効果的な借用書が書ければ、お金が戻ってこないリスクを最小限にできるので参考にしてみてください。
目次
「借用書」はお金の貸し借りを証明するもの!
親しい間柄なら、口約束でお金の貸し借りをすることがあります。貸す側が返済を期待しない場合や、信頼関係があるならばそれでも問題はおきないでしょう。
しかし、お金を返してもらえないときに「お金は借りたんじゃなくてもらったんだ」と言われてしまったらどうでしょうか?返済しない人が実際にいるからこそ、お金のトラブルがなくならないのです。
お金を貸した証拠が手元にないと、それ以上の追求をすることが難しくなります。お金を貸したとき、いつまでに返済するという約束を交わす書面のことを「借用書」といいます。
金銭のやりとりの場合には「金銭消費貸借契約書」とも呼ばれますが、どちらも同じ意味合いで今は使われています。
借用書・金銭消費貸借契約書の違い
借用書も金銭消費貸借契約書も、借り主が「私はお金を借りました」と証明するものになります。どちらも法的な効果は変わりません。
しかし、署名と書類の保管方法に違いがあります。
- 署名する人:借り主
- 書類の保管:借用書は貸主が保管
金銭消費貸借契約書
- 署名する人:借り主と貸主の両方
- 書類の保管:借り主と貸主の双方で保管
借用書・金銭消費貸借契約書の必要性
もし、借用書を作らずにお金を貸したら、どんなリスクがあるでしょうか。ちゃんと返済してくれるなら全く問題ありませんが、「借りたお覚えがない」などと言ってお金を返さない人もいるかもしれません。
そんなとき、お金を貸した証拠を相手につきつけることができませんよね。口約束だけでは、お金を貸した事実が残らないのです。
借用書があれば、それを根拠に催促をすることができます。もし自分の力だけでは無理だと思っても、借用書は、裁判でも有効な証拠として効果を発揮します。
万が一貸したお金が返って来ないときのことを想定して、借用書を作成しておくべきでしょう。
借用書・金銭消費貸借契約書の作成で必要な項目
借用書も金銭消費貸借契約書も、実はこう書かなければいけないといった決まったルールはありません。しかし、効果のない借用書を作成しても意味がありません。貸主と借り主の約束事は全て反映させるべきなのです。
ここでは、借用書・金銭消費貸借契約書を作成する上で必要な項目を紹介します。
必須事項
借用書においては、通常、次の項目を必ず記載します。
- 貸した金額
- お金を渡した日
- 返済方法
- 返済期日
- 分割払いの場合はその方法と期日
- 利息ありの場合は金利
- 借用書を作成した日付
- 借主の住所氏名と押印
金銭消費貸借契約書ならば、さらに次の項目も盛り込みます。
- 貸主の住所氏名と押印
民事訴訟になったときの、裁判管轄まで記載しておくのも珍しくありません。
ただし、せっかく借用書を作るならちゃんと効力のあるものを作成しましょう。例えば、お金を渡した日(お金を借りた日)はとても重要で、利息の計算の基準になります。
利息をつける場合の注意点
利息をつけて返済してもらうならば、借用書に利息を明記しましょう。では、金利は自由に貸主が決めていいかというと、利息制限法という法律で金利の上限が定められています。
貸した金額(元金) | 上限金利 |
---|---|
10万円未満 | 20.0% |
100万円未満 | 18.0% |
100万円以上 | 15.0% |
従って、この法律の範囲内で金利を設定しなければなりません。もし上限を超えた金利でお金を貸しても、超えた部分の金利は無効になります。
実際に法外な金利で利息を支払っていたら、借り主は過払い金の請求が可能になるのです。
利息の支払方法を明記しよう
返済の仕方は、一括と分割の大きく2通りがあります。
借りたお金+利息を一括で返済
- 返済期日に元金と利息を同時に支払う
- 元金を返済期日に支払い、利息は毎月返済していく
分割で返済
分割で支払う場合、「元利均等返済」と「元金均等返済」の2通りあります。
延滞したときには「遅延損害金」を!
借りたお金を返済日にちゃんと支払えば「遅延損害金」は発生しません。「遅延損害金」とは、返済日に支払わなかったときに、追加で支払う罰金のことで、利息同様に金利で定義されます。
利息は借用書に明記しなくても、5%で請求が可能でした。同様に、遅延損害金も書類で明記しなくても有効になります。
- 遅延損害金を借用書で定めていない
- 金利が5%以下
ただし、利息同様に遅延損害金にも上限金利が存在します。
遅延損害金の上限金利をまとめると以下の通りになります。
貸した金額(元金) | 上限金利 |
---|---|
10万円未満 | 29.2% |
100万円未満 | 26.28% |
100万円以上 | 21.9% |
もし、この上限金利を超えた遅延損害金を請求した場合、超過分は無効になります。
即一括返済を求める「期限の利益喪失」の条件
つまり、返済期日までお金を返さなくてもOKですというのが「期限の利益」です。
返済日に支払いを怠った場合、「期限の利益」を失います。その場合には一括で残金を返済しなくてはならなくなります。
そのため「期限の利益」が喪失する条件を明記し、ルールを破ったら、即返済を求めるようにしておきましょう。
- 元金や分割払いの支払が一度でも遅れたとき
- 借り主が他の借金をした
- 借り主が民事再生の申立を受けた
- 借り主が税金を滞納したとき
連帯保証人ありの場合
連帯保証人は借り主と同じ返済義務を負います。そのため、万が一借り主が支払いができない場合、貸主は連帯保証人に返済を求めることができます。
連帯保証人を金銭消費貸借契約書に記載する場合には、連帯して保証するという内容を記載し、連帯保証人の住所・氏名を記載して押印をします。
効果のない借用書を作らないためのポイント
借用書は、お金を借りた側が約束した日に返済しなかった場合に請求をするための根拠となる書類になるのでとても重要です。
返済期日、金額、利息などの内容が第三者にも正しく読み取れるものでなければならないのです。意味が何通りにも解釈できるような書面では意味がありません。
ここでは、借用書を書くために注意すべきポイントを紹介します。
金額は漢数字を使おう!
特に手書きの場合、借用書に記載する金額はアラビア数字(1、2、3…)でなく、漢数字を使うのが通常です。さらに、一、二、三、十は変造がしやすいので、それぞれ壱、弐、参、拾を使います。
追記もされないよう、例えば110万円なら、「金壱百壱拾萬圓」と、漢数字の冒頭に壱を付けた方が無難です。
もっとも、ワープロ打ちならば特に気にする必要はありません。アラビア数字の場合、3桁区切りのコンマはきちんと入れましょう。
氏名や住所は直筆!全てパソコンで書くのはやめよう
借用書の大部分はワープロ書きで構いません。しかし書類全てをワープロで作成するのはやめましょう。
直筆部分がないと、借用書が本物であることを証明しづらくなります。印鑑だけだと、自分の意思の関係ないところで捺すことだって可能なのです。
借用書の信頼性を下げないためにも、名前や住所などを直筆で書き込めるようにしておくと良いでしょう。
1万円以上の貸付ならば収入印紙が必要
契約書・借用書に記載された借入金額に応じて、収入印紙の貼付が必要です。1万円未満の場合は非課税です。
収入印紙は書類ごとに必要です。借用書の場合は通常1通なので、収入印紙は1通分でOKですが、金銭消費貸借契約書のように2通書類を作成するならば印紙も2通分必要になります。
よく勘違いされがちですが、書面に貼る収入印紙は税金であり、文書の法的効力とはなんの関係もありません。裁判になったとき、印紙が貼ってないからといって効力が弱まるわけでもありません。ただ、印紙税法違反となるだけです。
お金の貸し借りを実行した日付けは正確に!
お金の貸し借りにあたって書面を作っても、融資の実行が読み取れなければ意味がありません。
利息の計算をする際にも重要になりますので、融資実行の日付はきちんと明記しましょう。
借主としても、書面の日付に融資が実行されていない状態なら、黙っていてはいけません。書面訂正を請求すべきですし、もし応じてもらえないのなら、応じてもらえない経緯など、あらゆる証拠を集めておきましょう。
返済期日は確実に記載する
返済期日は確実に借用書に明記しましょう。もし日付が記載されていない場合、それは借金の返済ではなく譲渡とみなされる可能性がでてきます。
「20○○年○○月○○日」や「毎月10日」といったように返済期日を明確にしておくと、返済されなかったときには明確な契約違反となります。そうなれば遅延損害金の発生や期限の利益損失による一括返済の対処などできるのです。
借用書を自作する場合は、法律の専門家のテンプレートを参考にしよう
借用書のテンプレートはネット上に多くあるので参考にするのはいいのですが、そのまま利用するのはやめましょう。
お金の貸し借りならではの特殊な約束があれば、書き漏らさずにきちんと明記すべきです。
既にお金を貸している…後から借用書は作成可能?
借用書を作成する前に、お金を貸していても、契約書は後から作成することが可能です。その場合には、借用書ではなく「債務承認弁済契約書」となります。
借用書と本質的には変わりません。ただし、過去に貸したお金の返済という点が違うので、「貸主に既にお金を借りていて、返済する義務があることを認めて、その返済の方法を約束した文書」になります。
「債務承認弁済契約書」の作成で必要な項目
債務承認弁済契約書も、基本的には金銭消費貸借契約書に準じて記載すればOKです。過去の日付に金銭の授受があったことを明らかにしたうえで、未来の返済について明記すればいいわけです。
借用書に準じて過去の債務の弁済を約した書面を作成すれば、返済に関する念書となります。過去に借りた金銭について、いついつまでに返済しますという事実を署名押印して約束すれば、有効な書面となります。
貸した日付をはっきりと覚えていない場合
過去にお金を貸したわけですから、日付までは覚えていない人もいるでしょう。銀行振り込みで貸した場合は出入金の履歴を見れば分かりますが、手渡しだと貸した記憶はあっても日付まで正確には覚えていないことが起こりえます。
借用書が曖昧になってしまうと、反論の余地を生むことになり、信憑性が欠けてしまいます。
しかし、貸した日付を明確にできない場合には「○○年○月から○○年○月にかけてお金を○円借りて、○○年○月○日(債務承認弁済契約書の作成日付)に債務残高が合計○円残っていることを確認した」と記しておきましょう。
借用書・金銭消費貸借契約書の欠点
借用書はお金の貸し借りの約束を双方が認めたものです。トラブルを予防するためにも作成するほうがいいでしょう。しかし、借用書には弱みがあります。その弱みを知ることできれば対策をうつことができます。
ここでは、借用書・金銭消費貸借契約書の欠点をご紹介します。
確実に返済してくれるかどうかは分からない
借用書は互いの取り決めた内容が残るので、証拠能力として十分効果があります。しかし、だからといって、借り主が確実に返済をしてくれるとは限らないのです。
強力な借用書を作るなら「公正証書」!
借用書はお金の貸し借りに関する取り決めを明確にした約束です。しかし、互いに納得して決めたにも関わらず、実際に返済しない人も多くいます。
借用書や金銭消費貸借契約書は、お金の貸し借りの証拠能力は十分ありますが、返済してくれなかったときに法的に支払いを強制する力はないのが弱点といえます。
作成した公正証書の原本は公証役場に保管されるので、万が一紛失しても正本(債権者)・謄本(債務者)の再発行が受けられ、安心です。
債権者にとって公正証書は、心強い書面です。お金をちゃんと返してくれるか不安がある相手ならば、公正証書を作りましょう。
公正証書の作成フロー
公正証書は、個人で作成するものではありません。公証役場にいって公証人に作ってもらいます。公証役場は聞き慣れない方も多いかと思いますが、全国に約300件あります。
管轄というものが原則ないので、どの公証役場を利用しても構いません。
公正証書の作成フローは、公証役場によって多少違いが見られますので、必ずサイトや電話で確認をしましょう。おおよそ公正証書の作成フローは以下の通りです。
- 事前に貸主と借り主で相談し、公正証書に盛り込む内容を書き出しておく
- 公証役場に連絡して予約し、貸主と借り主双方で公証役場に行く。
- 公正証書の原案を交渉人に提出。内容を協議する。
- 数日後、公証人が公正証書を作成したらチェックする。
- 問題がなければ貸主、借り主の署名・捺印をして正式な公正証書を作成
公正証書を作るための原案を準備する必要がある!
公証役場に直接行っても公正証書は作成してもらえません。
従って、公証人に相談する前に、公正証書の草案を作成しなければならない。
あくまで公証人がするのは文章化です。当然、事前に作った草案をそのまま公正証書にするわけではなく、まず、公益役場で公証人に草案を提出し、説明をしなければなりません。
公証人が疑問に思えば質問を受けますので、きちんと草案を作る必要があります。
そのため、法的なアプローチが必要になってくるので法律の専門家である弁護士や行政書士のちからを借りて、公正証書の原案を作成するのが望ましいです。
お金の貸し借りで公正証書を作るということは、万が一返済がされなかった場合を想定しているわけですから、強制執行の内容(強制執行認諾条項)を細かく記述することが必要でしょう。
公正証書で強制執行するには実際どうやればいい?
強制執行認諾条項のついた公正証書を締結していれば、借り主が約束を破ってお金を返さない場合、強制執行が可能になります。
しかし、このままでは強制執行の効果を有しているだけで、実際に実行できるわけではありません。強制執行をするにはいくつかの手続きが必要なのです。
公証役場に行って「送達」と「執行文付与」を行います。
- 公正証書の謄本を債務者に送付してもらう(送達)
- 公正証書の正本に「執行文の付与」を依頼する
- 必要書類を持って、地方裁判所に申し立てをする
公正証書を作成しただけでは強制執行の効果があるに過ぎないので、強制執行を可能にするために「執行文の付与」を行うのです。
これらの手続きが終わると証明書がもらえるので、それらを持って債務者の所在地を管轄とする地方裁判所に行きます。強制執行の申立をすると、裁判所から債務者の会社に差押え命令が送信されます。
- 送達証明書
- 執行文の付与された公正証書
- 戸籍謄本
- 住民票
- 代表者事項証明書
など
まとめ
個人のお金の貸し借りに関わる借用書に関してご紹介しました。
お金に困っている知人にお金を貸すなら、貸す側も確実に返済してもらうためには口約束ではなく書面で交わす方がいいでしょう。法律の範囲内で金利や遅延損害金は決めなければなりませんから、個人で借用書を作るにしてもポイントは押さえないとなりません。
お金のトラブルは未然に防止すべきです。そのためにも正しい金銭消費貸借契約書や公正証書の作成方法を知ることが重要なのです。ぜひ参考にしてみてください。