「未経験でもOK」と書かれたITエンジニアの求人を転職活動をしているとよく見かけます。けれども、ITエンジニアといえば、コンピュータシステムやプログラミングについてなど、専門知識や技術力がどっさりと必要な仕事のはず。だからこそ、それらを学ぶための学校も世の中にたくさんあるし、学ぶ時間だって実際にたくさん必要なはず…。それなのに、ITエンジニアの求人には「未経験OK」が多い。なぜなのでしょうか?この記事では、未経験でのITエンジニアへの転職について、必要な心構えをガイダンスしていきます。
なお、ITエンジニアについては、自動車などの機械エンジニアとの別を示すために、「ITエンジニア」の名称を使うことも多いのですが、単に「エンジニア」という場合も、いまは多くなっています。この記事では、以降、エンジニアと表記することにします。
なぜエンジニアの求人には「未経験OK」が多いのか?そもそも会社側がいう「未経験」の基準とは?
初めにひとつ知っておいてほしいポイントは、エンジニアを募集する企業側は「未経験」を2種類に分けて見ているということです。
ひとつは、「全くの未経験」です。たとえば求人情報には、「未経験OK、歓迎」などと記された上で、こんな風に具体的に書かれていることが多いはずです。
- 前職でExcelの基本操作くらいしかしたことのなかった人も、1年後にはしっかり活躍してくれています
- 前職がハウスメーカーの営業スタッフだったり、ウェイターさんだったりするメンバーもいます
- 専門学校等での学習経験がなくても問題ありません
一方で、未経験のレベルをあくまで「実務未経験」と考えている企業もあります。ITスキル、コンピュータスキルを学ぶ場所が、世の中にはたくさんあるため、そこで知識を習得したのち、仕事に就こうとする人をその会社は主に「未経験」と考えているのです。たとえば…
- 学校で学んだだけの未経験の方も歓迎です。安心してご応募ください
この場合、学校というのは通常、IT・コンピュータスキルを学ぶ学校や学部のこと。この会社は、実務は未経験であっても学習経験者であることを応募者に対して求めている可能性が高いです。
以上の2種類を踏まえた上で、求人情報を読み解くことが大切です。
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ITエンジニアの求人に「未経験OK」が多い3つの大きな理由
やはり、ITエンジニアの求人には未経験OKが多いとはいっても、それは、実際にはいま挙げた「実務未経験・学習経験アリ」のことを言っており、全くの未経験者への求人は、数が少ないということになるのでしょうか。
いえ、そんなことはないのです。エンジニアの求人には「全くの未経験でもOK」案件も多くあります。その理由を考えていきましょう。
経験が役に立たない、などと書くとちょっと過激ですが、エンジニアが活躍するIT・コンピュータ関連業界というのは、実際にそんな風にもいえる側面を持つ業界です。その理由は、とにかく技術革新が日進月歩だからです。
大型汎用機やPCといった「コンピュータ」そのもの。さらに、スマートフォンやタブレット端末といった身近な情報機器。それらにつながるさまざまなデバイス(周辺機器)や、ありとあらゆる機械に組み込まれ、動きを制御している「マイコン」などのハードウェア…。その技術革新は、繰り返しますが、つねに日進月歩です。
併せて、それらを動かすプログラム技術などソフトウェア、インターネットに代表されるコンピュータ・ネットワークについても、その変化はもはや秒進分歩(?)といってもいいくらいの状況です。なので、ベテランであってもつねに新しい知識や技術を学び、情報をつかまえていかなければ仕事が続かないのがこの業界です。
そんな、技術革新が起こるたび、その前では誰もが初心者に還ってしまうことがあたりまえの状況にあって、過去の経験にこだわる人材採用は、IT・コンピュータ関連業界においてはさほど重要視されません。スキルをしっかりと身につけた初心者に、去年までの古いスキルしか身についていない経験者は負けてしまうのです。
ならば、負けてしまうベテランよりも、勝てる初心者が欲しいと思うのは、企業としては当然です。それが、エンジニアの求人に未経験(しかも全くの未経験)OKが多い、一番大きな理由です。
未経験者、初心者がどんどん育てられ、活躍してきた業界なので、IT・コンピュータ関連業界の多くの企業は、「教える」スキルに長けています。そのため、多くの会社が、未経験者のための教育・研修システムを備えており、また、それらにふんだんなコストや時間もかけています。3、4ヶ月から半年、長い場合はそれ以上の研修期間を設けて、じっくりと人材育成するところも少なくありません。逆にいえば、その期間を通じて、人材の側も、仕事に対する適性を自ら測れるということもできるでしょう。
教育・研修に自信のある企業の場合、積極的に未経験者を採用することで、「現役エンジニアの8割方が未経験からスタートした人」と、いったケースも見られます。
IT・コンピュータ関連業界におけるエンジニア、とひと口にいっても、実は、担当する分野によって、さまざま種類の「エンジニア」がいます。そのあらましについてはあとで紹介しますが、そのうち主ないくつかは、意外にも一般的なイメージとは裏腹に、特別な専門技術者といった雰囲気ではない仕事を中心に行う人たちです。
たとえば、システムエンジニアがそれに当たります。エンジニアとしてはもっとも一般的な職種です。「SE」と、よく呼ばれます。システムエンジニア=SEといえば、外部の世界からは、一日中モニタ画面の前に座って、難解な英文字のプログラム・コードを打ち込み続けている人…と、いった想像をされてしまいがちなのですが、実は、それは誤解です。その仕事をしている人は、通常はプログラマと呼ばれます。SEではないのです。
SEはどこで何をしているか?というと、彼らはミーティングルームにプログラマを集めて、クライアントに納めるソフトウェア・システムの仕様を説明していたり、あるいは、クライアントのもとに出向いて、先方の要望を細かく尋ねながら、システム設計にかかわる提案をしたりしています。
もちろん、技術や専門知識をある程度備えた上でこそ、それらは行うことが可能な仕事なのですが、かといってSEが、必ずしも細かなプログラムやコードに隅から隅まで精通している必要はありません。同様に、効率的にプログラムを動かすためのロジックを考えるため、モニタ画面の前で頭を抱え込んだりする必要もないのです。
そのためプログラマが経験を積み、やがてSEや他のエンジニアとなっていく道はこの業界での王道ではあるものの、そうでない道もちゃんと成立しています。むしろ、プログラマとしての資質に長けた人の場合、SEや営業に同行してクライアントにわかりやすく説明を行う「プリセールスエンジニア」(エンジニアの職種のひとつです)といった仕事には向かないケースも往々にしてあり得ます。
「SEといえば、バリバリの理系ばかりと思っていたら、コミュニケーションスキル豊富な文系出身の人が意外と多い」などと、よくいわれる所以です。
未経験であっても、企業から求められる「条件」とは?
ITエンジニア未経験の人をエンジニアとして採用しようとする場合、企業は、エンジニアとしての知識や技術力以外の部分で、何を人材に求めてくるのでしょうか。その大きな答えのひとつは、すでに前段で示したとおりです。それは、コミュニケーション能力です。
代表的なITエンジニアであるSEや営業スタッフと同じ現場で活躍するプリセールスエンジニア、自社ではなく顧客先に出向いて、システムの保守や管理を行うことが中心のフィールドエンジニアなど、エンジニアには外部の人との円滑なコミュニケーションをもとに、仕事を進める能力が求められる場合が意外に多いのです。
特にSEの場合、コミュニケーション能力は不可欠です。SEには、クライアントが求めているIT・コンピュータシステムに対する要件・条件を聞き出して理解し、それを正確に拾い上げてやる力がなければなりません。さらに、それを社内に持ち帰り、プログラマ等のスタッフに、正しく、わかりやすく伝える伝達能力も必要です。
さらには、リーダーシップと管理能力=マネジメントスキルです。これも特にSEに言えることですが、IT・コンピュータシステムの開発はチームで行われる仕事です。その中でSEは、その立ち位置から、自然とプロジェクトをリードするポジションに置かれることが多くなります。チーム内のコミュニケーションを円滑なものとするため、潤滑油になるとともに、スケジュールをつねに把握しながら、顧客とのさまざまな調整も担っていきます。
もっとも、そうした仕事は、組織が大きな場合、複数のSEが、上位職であるPM(プロジェクトマネージャ)やPL(プロジェクトリーダ)といった立場、立場に分かれ、分担して行う場合も多いのですが、小さな組織ではそうもいきません。
フットワークよく会社と顧客のもとを行き来しながら、業務の進捗をしっかりと見据えつつ、時に予算管理もしながらメンバーの面倒も見る…。そんな八面六臂の活躍がSEには期待されることも多いはずです。
つまり、そういった人材が、社内でプログラマなどの中から育たなかった場合、企業は当然ながら、外に向けてそれを求めることになるわけです。その場合、「専門知識は勉強して身につけてもらえばいい。とにかくいまはマネジメント能力に優れた人に来てほしい」と、いうことにもなり、それが、エンジニアの求人における「未経験OK」の大きなベースのひとつともなっているわけです。
プログラム・コードや、技術用語など、IT・コンピュータ関連業界の中であたりまえにやりとりされる記号や専門用語に、どうしても馴染めない人は、この業界では残念ながら順調に仕事を続けてはいけません。なんとか続けられたとしても、かなり厳しい毎日を送る可能性が高いことは確かです。
こんな例があります。インターネットが急速に広まった1990年代の後半、ある情報出版企業が、リリースしていた紙媒体を続々と電子媒体に移し替え始めました。そのとき、社内のいわゆるエリート部署だった企画部門では、人材がはっきりと2つのタイプに分かれました。
端的にいうと、HTMLという、インターネットのWebサイトの画面を設計する、英文字・数字・記号が羅列されたコードを少しでも読んで理解できる人と、ほとんど体質的に、それを受け付けられない人とに分かれたのです。
理解できる人は、いわば武器を手に入れたことになります。仕事がますます面白くなりました。自らの理想に沿った媒体を作り上げるため、自分の目の前にあるモニタ画面でそれらを試行錯誤。制作現場に対して、より細やかでスピーディーな指示ができるようになったのです。
一方、受け付けられない人は、次々と部署や会社を去っていきました。
「○○さん、この画面のWIDTH(横の広さ)はどのくらいでとりましょうか?」
「JPGだと動きが重たいので、この文字はテキストにしておいていいですよね?」
そんな質問に対して、彼らは、
「え…WIDTH?JPG…?(たしか昨日も教えてもらったな…何だっけ!)」
(ただし、彼らはそもそも企画能力に優れていたからこそ、そこにいた人材だったため、その後新天地で成功した人が多くいます)
ちなみに、このとき両方の道に分かれた人々に、特に年齢による違いはありませんでした。
それまで、紙とペン、せいぜいパーソナルワープロで仕事をしていた、同じ環境のもとにあった人達でしたが、ともにインターネット時代の始まりの波を被ったとき、「英文字・数字・記号の羅列」への適性が、びっくりするほど露わになったということです。加えて、こんな声もIT・コンピュータ関連業界からは、時折聞こえてきます。
「その新人はもちろん未経験入社。それまでIT機器といえばスマホしか触ったことがなかったそうで、最初はPCのキーボードも人差し指一本で叩いていた程度の、ホントの素人さんだった。けれど、あっという間にプログラミングをマスターして、1年も経たずに一人前になってくれたよ」
これらのことは、実際に仕事に接してみてわかる適性の有無が、IT・コンピュータ関連の仕事の場合、個人個人で、よりハッキリしていることを示すものといえるでしょう。
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知っておくと求人情報が理解しやすい!さまざまなITエンジニアの職種
ITエンジニアには、細かくさまざまな職種があることに、さきほど少し触れました。分類の仕方には人によって違いがあり、ネーミングもまた同様ですが、いまのところはおおむね15種類くらいが数えられることが多いようです。そこでざっと、それらの職種と、簡単な仕事の内容を紹介していきましょう。これを知ることで、求人情報がグッと読み解きやすくなるはずです。
システムエンジニア(SE)
これまでにも触れたとおり、もっとも一般的なエンジニアの職種です。クライアントの要望を聞き、それをひも解いてまとめ上げ(要求定義、要件定義とよく呼ばれるプロセスです)、必要なシステムの仕様を決定、仕様書を作成するなどして、プログラマなどの開発現場にそれを伝え、成果物の完成を促していく仕事です。求人情報にはそのままSEと表記されていることが多く、「汎用系システム開発やWEBシステム開発などを担ってもらう」などと、添えられることが多くなっています。
ネットワークエンジニア
コンピュータネットワークの設計や運用、保守などを行います。コンピュータとコンピュータをつなぐ通信網を構築したり、それを管理したりという仕事です。実際に現場で配線作業を行うのではなく(そちらは通常、配線業者さんの仕事です)、ソフトウェア上での仕事を担います。ネットワークへの不正な侵入や、異常が発生していないか、監視業務を任されることもあります。
データベースエンジニア
データベースの構築や運用、保守などを行います。膨大な情報が詰め込まれ、出入りする、巨大な物流倉庫のようなデータベースを効率的に稼働させつつも、大事なデータを失うことなく大切に保管し続けるため、ソフトウェア上の設計や管理も担う仕事です。
サーバエンジニア
サーバとは、他のコンピュータからのリクエストを受け付けし、データや処理結果などを返してやる位置にあるコンピュータのこと。たとえば普段インターネットで私達は、どこかに存在するサーバに対して、画像や文字、音声などのデータの提供を要求し、それを送ってもらうことで、Webサイトを閲覧することが出来ています。このサーバを動かすソフトウェアの設計や、運用、保守を行うのがサーバエンジニアの仕事です。
インフラエンジニア
コンピュータシステム全体を見渡した上での、サーバやデータベースの配置、それらの数量の決定、各設定などを行います。
セキュリティエンジニア
コンピュータシステムやネットワークへの不正な侵入や、情報の漏洩などが起こらないよう、事前の手立てを講じたり、監視したり、問題発生時の対策を実行したりします。
Webエンジニア
私達の多くが普段利用しているWebサイト。いわゆるホームページ。その設計や運用を行います。ただし、Webエンジニアと呼ばれる職種の場合、通常は、画面のデザインや動きなど、利用者のフロントサイドに位置する部分での設計等を担うわけではありません。そのWebサイトが目的とする仕事をWebサイトにどう正確に、効率的に実行させるか、そこを考え、システムを構築していくのがWebエンジニアの主な仕事です。「Webサービスに分野を特化させたSE」と、考えてよいでしょう。
フロントエンドエンジニア
Webサイトの設計や運用を行うエンジニアのうち、画面のデザインや動き、入力されたさまざまなデータの処理手順などを設計、プログラミングするのがフロントエンドエンジニアです。プログラミング言語を詳細に理解し、要求される結果を正確に実現する力が求められます。事実上、プログラマといえる仕事をしている人が多いでしょう。マークアップエンジニア(次段)よりも技術難度が高い仕事です。
マークアップエンジニア
HTMLやCSSなど、マークアップ言語とよばれる英数字・記号コードを使って、Webサイトの画面をデザインしていきます。「Webデザイナー」と呼ばれる仕事の多くがこれにあたります。
SEOエンジニア
Webサイトが検索エンジンによる検索結果の上位に表示されるよう、「検索エンジンへの最適化」を行います。どんな検索ワードに対して反応のよいサイトとするべきなのか、クライアントのニーズを的確に汲み取って結果に反映する、SEに近い職能も要求されます。
エンベデッドエンジニア(制御・組込みエンジニア)
家電製品をはじめとして、ありとあらゆる機械に組み込まれた小型コンピュータを制御している、ファームウェアなどのシステムを開発、設計する仕事です。Webエンジニアのような、「SEの一分野特化型」ともいえますが、機械・製品メーカーの技術者たちとの意見交換なども行うため、一般のSE以上に、深い専門知識を求められるケースが多いはずです。
テストエンジニア
完成したコンピュータシステムをクライアントへ納品する前に、テストを行う職種が、独立して存在している場合、それらのメンバーはテストエンジニアと呼ばれたりします。特に大規模な工業生産システムや、通信、交通システムなど、巨大化した複雑なシステムを構築する場合においては、必須かつ、大変重要な存在です。
プリセールスエンジニア(セールスエンジニア)
主に営業同行し、営業現場で活躍します。クライアントの疑問、質問などに対し、営業スタッフが持ち合わせない技術的な知識をベースに対応します。営業スタッフが、自社の能力をオーバーした案件を請け負うなどしないよう、時にはセーブをかける機能も期待される仕事です。クライアント側技術者とのコミュニケーションを担うことも多いでしょう。
フィールドエンジニア
システムを導入したクライアントのもとに出向き、サーバや端末(PC)、周辺機器の設定作業、保守作業などを現場で行います。つまり、外回りの仕事です。
社内エンジニア(社内SE)
社内エンジニアとは、職能ではなく、立場を示す用語です。自社内の情報システム管理部門に在籍し、社内システムの構築や運用、管理などを行います。会社規模の大小に合わせて、職種もSE、ネットワークエンジニア、データベースエンジニア…と、細分化されていたり、逆にそれらの兼務が多かったり、ということになるでしょう。
プログラマ(ソフトウェアエンジニア、あるいはコーダーとも)
コンピュータに仕事をさせるため、プログラミング言語を用いて、プログラムを作成します。プログラムとは、コンピュータに仕事をしてもらうための、いわば、厳密かつ正確なる「作業命令書」です。ここで間違いが起こると、エラーや、バグ(不具合の元となる隠れたミス)が発生します。
IT・コンピュータ関連業界の外側から見ると、エンジニアとプログラマは、いまひとつ見分けがつきません。ですが、内部では別個の職能として立場が分かれています。ただし、プログラマが仕事を重ねて成長し、さらにビジネスのノウハウを覚えることでエンジニアになっていくことは普通ですし、組織の規模等によっては、エンジニアがプログラマを兼ねていることももちろん少なくありません。
知っておきたい言葉! 上流工程、下流工程、客先常駐、持ち帰り…とは?
ITエンジニアの職種について主なものを紹介しましたが、ITエンジニアの求人情報を読み解く際、いくつか知っておきたい言葉があります。
それは、IT・コンピュータ関連業界ではよく聞かれる、
- 「上流工程」
- 「下流工程」
- 「客先常駐」
- 「持ち帰り」
と、いったそれぞれの言葉です。
「上流工程」と「下流工程」
上流工程、下流工程のうち、上流工程とは、システム開発・ソフトウェア開発の流れの中で、主に初期段階に行われる一連の作業を指します。
一般的には、クライアントのニーズを聞き出し、システムの仕様を決め、それを仕様書にまとめるなど、プログラムに落とし込むことのできる前段階までの仕事を行うことをいいます。すなわち、SEの「本業」です。
さらに、スケジュール管理やコスト管理といった、管理の仕事もこの上流工程に含まれます。つまり、上流工程イコール、プランニング&マネジメントです。
対して、下流工程とは、上流工程で定められた仕様に従って、実際にシステムを組み上げる作業のことをいいます。主にはプログラミングです。プログラマや、エンジニアも職種や場合によってはここを担当します。
上流工程も下流工程も、もちろんそれぞれ変わらず大事な仕事です。
しかしながら、IT・コンピュータ関連業界では、プログラミング技術を突き詰めていきたい職人肌な人などを除いて、おおむね多くの人が上流工程を目指します。「自分はこうしたい」、「こんなシステムを作り上げたい・お客様に提供したい」と、いった「想い」の実現度が高いからです。
そのため、求人情報ではよく、「上流工程を担当いただきます」、「上流工程を目指していける環境です」などの言葉が、特に経験者募集では、見られやすくなっています。
「客先常駐」と「持ち帰り」
「客先常駐」と「持ち帰り」は、対になった言葉です。このうち客先常駐とは、エンジニアやプログラマが、クライアントである会社の建物・オフィスに常駐し、そこでシステム開発や運用、保守などを行うかたちをいいます。
一方、「持ち帰り」、「自社持ち帰り」、あるいは「持ち帰り型受託開発」などとされている場合、通常は、エンジニアやプログラマは、自らの会社の開発フロアで、自社の機器を使い、上記の仕事を行います。
なお、客先常駐については、もちろんその「客先」の雰囲気にもよりますが、孤軍奮闘、ともすれば衆人環視ともなりかねない、厳しい環境を嫌がるエンジニア、プログラマも少なくありません。
また、さまざまなクライアントの案件を「持ち帰りで自社開発可能」であるということは、それなりの恵まれた開発環境が、自らの会社に整備されていることを示す場合が多いともいえるでしょう。
そのため「持ち帰り」の言葉は、企業が人材に対して、良好な勤務環境をアピールしたいケースなどでよく求人情報に載せられます。「当社は持ち帰りの開発が大半です」、「持ち帰りの増加に向けて戦略を進めています」などといった文言です。
ただし一方で、開発環境の整った大手のクライアントから、機密性の高い大型のプロジェクトを請け負うことなどが頻繁なため、セキュリティ面での要望に応えるかたちもあって、エンジニアの多くを客先常駐させている、といったケースも少なくはありません。
この場合、「顧客からの信用やニーズが磐石である」、「当面は経営の安定が続きそうな会社である」と、いった、安心材料が読み取れるということにもなるでしょう。
実際にたくさんの求人情報を見て、仕事内容を比べてみよう!
さて、以上までに紹介したITエンジニアの求人に未経験OKが多い理由やエンジニアの職種、知っておくとよい言葉が頭に入れば、エンジニアの求人情報は、とても読み解きやすくなります。
例を挙げてみましょう。これらは、実際にあった求人情報に若干手を入れ、説明に向くようアレンジしたものです。
(元となった情報を発信している企業が、実際に下記の分析に記したような求人意図や社内環境を備えているということではありません)
- 未経験OK
- 社員の前職は、販売員、飲食店員、音楽家などさまざまです
- 大手銀行、大手商社などからの受注案件が多い会社です
- 汎用系システム開発、インフラ構築、Webシステム開発が中心です
- 4ヶ月間の研修と、実践トレーニングを受講したのち、実務に入ります
- 当初は先輩エンジニアの指導のもと、プロジェクトに参加します
- 自社ビルにある2つのフロアが開発現場です
未経験でも活躍している先輩がいる旨を彼らの前職を挙げて具体的にアピールしています。さらに1/3年にわたるトレーニング期間があることを訴えることで、未経験者の応募を積極的に促しています。自社ビルに開発設備が整っているようにも書かれていますが、クライアントの顔ぶれ(大手銀行、大手商社)を見ると、これらは、自らもグループ内に開発環境を完備していたり、機密案件が多かったりもするため、システム発注先に対しては、客先常駐を望むケースも多そうです。汎用系(大型基幹システム)からWebまでと、手がける範囲の広さも感じられるため、入社後はSEの見習いからスタートし、適性に応じて、そのままSEとして活躍するか、ネットワークエンジニアやWebエンジニアなど、専門職種を担当していくことになるか、岐路はさまざまである様子が窺われます。
- 未経験OK
- 3ヶ月の研修で基礎を学んでください
- 研修では、Webの基礎であるHTML、Java、C言語~等と習得していきます
- スマホアプリ開発案件が現在増加中です
こちらの求人元は、スマートフォンアプリも含めたWebサービスの開発を業務の中心としているようです。未経験者が「3ヶ月の研修」で基礎を学んだ結果、思わぬ適性が掘り起こされ、どちらかというとエンジニアではなく、Web制作、アプリ開発にかかわるプログラマの道にすすんでしまう(?)といったケースもありそうです。IT・コンピュータ関連のスキルというのは、意外な経歴をもった人の中に、こっそりと隠れていることが結構多いのです。
- 未経験OK
- 1ヶ月の研修で基礎を学んでください
- その後現場でのサポート業務からのスタートです
- ネットワークやサーバの設計、運用などを担当していただきます
- Excel、ワードしか使えなかった方でもしっかりと活躍しています
1ヶ月の短い研修での現場参画ということですが、そのカギは、ネットワーク、サーバの設計や運用という、この会社(もしくは求人している部署)が請け負っている特化した業務にあるようです。専門知識は問われるものの、扱うフィールドが狭いため、覚えなければならないことが限られている、といった推測が可能です。ただし、主に受注している仕事や、取引関係上の立ち位置によっては、開発系のいわばクリエイティブな仕事を手がける機会は少なく、運用・保守がメインであったりするのかもしれません。
- 未経験OK
- 一定期間の研修ののち、現場でサポートからスタートしていただきます
- 大手メーカー、大手金融機関、エネルギー関連会社などの大型案件が大半です
- 開発、設計、運用、保守を担っていただきます
- 当社開発室またはプロジェクト先での勤務です
大手企業等による大型案件を手がけていることがアピールされています。こうした場合、すでに業界を知るエンジニアであれば、求人元の会社規模などを勘案しつつ、それらが直接の受注なのか、いわゆる下請けなのかを気にするはずです。なぜならば、華やかな(?)大型案件であっても、下請けであれば、仕事は前述の下流工程、しかも、場合によってはその一部のセクションを担当するのみに留まり、「転職でより上流の工程へステップアップしよう」と、いった個人の意図には沿わない可能性も高いからです。同様に下請けであれば、上記に書かれた「プロジェクト先での勤務」(つまり客先常駐です)についても、行き先は発注元である大手メーカー等ではなく、「元請け会社の開発フロアである」と、いったことにもなりやすいはずです。時にそうした場合、現場はプロジェクト全体の進捗や姿かたちが見えにくい、ストレスの溜まる仕事場であったりもするでしょう。以上のような見方も、ぜひ参考にしてください。
「この人、未経験でも育ってくれそうだ!」と思われるためには
「この人、未経験でも、ちゃんとエンジニアとして育ってくれそうだ」と、IT・コンピュータ関連企業の人事担当者に思ってもらえる人材とは、どんな人なのでしょうか。4つ挙げてみましょう。
便利なスマートフォンアプリを使ってみて、「便利だな」と、思うだけでなく、「どんな仕組みで動いているんだろう」、「裏側を知りたいな」、あるいは「自分ならばこうしたいな」と、興味が湧いてくるような人が、エンジニアとして活躍できる基本的な資質をもった人材です。新しいテクノロジーや、新たな技術革新にワクワクできる好奇心こそが、日々勉強の仕事であるエンジニアのモチベーションを支えます。
前述したとおりです。特にSEなど、クライアントと自社との間に立って動いたり、円滑なチーム運営に関わっていかなければならない立場のエンジニアについては、コミュニケーション能力が豊かで、ゆくゆくはリーダーシップも発揮してくれそうな人材が求められます。
コミュニケーション能力とリーダーシップには優れていても、豪放磊落すぎて仕事が雑だったり、人使いが上手なのはよいとして、仕事が他人に丸投げ傾向だったりすると、エンジニアとしては不合格です。コンピュータシステムを動かす上では、時として、隠れたほんの小さなミスが、個人情報の漏洩、機械の誤作動など、クライアントの経営を揺るがすほどの大事故につながります。エンジニアに対しては、プロジェクトの細かな部分に至るまで、正確で丁寧な指示、確認、チェックができる几帳面な人材であることが求められます。
こちらも前述したとおりです。また、1の「好奇心」とも大きく関連します。どんなに上流工程にあるエンジニアとはいっても、IT・コンピュータシステムのエンジニアである以上は、プログラム、コードといったものからは逃れられません。英字・数字・記号の羅列を見ていて、どうしてもこれらに馴染めず、アレルギーを感じるようであれば、エンジニアを目指すのはお勧めできません。一方で、プログラムやコードが、さまざまな利便性や楽しみを生み出す魔法のツールや部品に思えるようであれば、それらの使い方を覚えていくことは、逆に苦にはなりません。
以上4つを挙げましたが、このうち1~3については、「この人はこれらの資質を備えた人だな」と、思ってもらえれば、きっとその人にはチャレンジの機会が与えられるはずです。やや問題なのは4です。こちらは、やってみてから判る、ということもかなり多いのです。
そのため、実際に採用が決まり、その後の研修期間に入ってから、「この仕事は面白い!」「これはちょっとしんどい…」と、そこで自身の資質が明確になるということも多いでしょう。「この世界は自分には合わない」と、なった場合は、迅速な撤退も判断として要求されます。
気になる「ITエンジニアと年齢」
エンジニアやプログラマといえば、過去には「40歳が定年」などとも言われていました。日進月歩の技術革新、次々と新しい事柄を学ぶことへの必要性が高すぎて、「アタマが柔軟な若いうちでなければ通用しないだろう」などと、言われたりもしていたものです。
しかしいまは、「エンジニアって何歳くらいまで続けられる仕事?」と、問われれば、「50代でも60代でも」と、答えが返ってくる程度になっています。なぜならば、その理由はこれまでにもすでに記したとおりです。エンジニアは、年齢よりも、資質こそが大きくものをいう仕事だからです。それらの資質のうち、もっとも重要なのが、前段の最初に掲げた「好奇心」と、それが引き出す勉強・学習へのモチベーションです。
すなわち、人間は老化するから勉強ができなくなるのではなく、勉強をしないから老化する、ということを如実に証明してきたのが、エンジニアという仕事の歴史の一面です。かつて定年といわれた40代から、未経験でエンジニアを目指し、成功する人がいても、いまは何ら不思議なことではありません。
それでもITエンジニアの採用で、年齢が問われる場合の意味とは?
ITエンジニアの求人情報の中で、年齢制限が記されている場合、雇用対策法に沿った表向き(?)の理由もさることながら、現実として、以下のような理由がありがちなことを知っておいてください。
体力勝負の職場になっている
読んで字の如くです。企業の労務管理・人事管理がうまくいっていなかったり、経営上の逼迫性から会社の能力をオーバーした受注を繰り返しているといった場合など、理由はさまざまです。なお、エンジニアとして働く側の立場からいえば、その会社が利益性の低い下請け仕事に多く甘んじていて、そのためつねに忙しく、しかもエンジニアらしい本格的な開発案件にはなかなか携われない…と、いった状況ばかりは、ぜひ避けたいところです。
客先常駐が多い
クライアントや元請け企業の建物・現場で、エンジニアが客先常駐で働くことが多い場合、クライアントや元請け側の要望に沿うかたちで、若い人材が求められているケースがあります。「年齢の高い人を送って来られても、指示を出しにくくて困る」といった理由が、もちろん一概にはいえませんが、多いはずです。
若い人であることに価値を置いている
学校を卒業して間がなく、勉強・学習慣れしており、まだ十代のうちから百数十を超える数のスマートフォンアプリを駆使して生活を便利に楽しんできたことで、ユーザ目線も大いに肥えている…。そんな人材を探したい、といった希望が企業側に強ければ、当然、その前提として、年齢のラインを引いてくることにはなるでしょう。
未経験でITエンジニアになったら。必要な心がけとは?
未経験でITエンジニアに採用されることになったら…まず最初に必要な心がけとは?とにかく向上心を持って吸収できることは貪欲に。
専門分野に関する勉強、学習は大切です。そのための十分な研修期間を用意してくれている会社も、たくさんありますが、それでも現場に出れば出たで、そこにも知らなければならないこと、覚えなければならないことは目白押しです。
前職で培った営業能力やマネジメント能力を大いに買われ、「未経験でもぜひウチに。将来はチームを引っ張っていってほしい」などと迎えられたような人材の場合、早く能力を活かす場を求めたい気持ちにかられるかもしれませんが、まずは自分の能力を上げることです。そこで「私が、私が」と出番を求めても、周りからは、まだその人に基礎が出来上がっていないことがちゃんと見えています。「一人であのクライアントのもとへ訪問させても、あなたでは、あそこの担当者の鋭い質問には到底答えられない」などと、厳しい判断もされがちでしょう。そのため、まずは、勉強優先を心がけましょう。
もちろん勉強優先とは言っても、仕事をせずにマニュアルばかり読め、ということではありません。与えられた仕事に対して、「早く、正確な結果を出す」ことよりも、それらの仕事ひとつひとつを噛み砕き、理解し、覚えていくことに重点をおいて取り組むことこそが、当面は大切だということです。
未経験の分野に飛び込むのですからじっくりと仕組みや必要な事柄を理解していくといった落ち着いた心構えが大切です。