保険薬局においても、在宅医療という業務が行うことができるようになりました。薬剤師の在宅医療というと、これまでは病院薬剤師が行うことがメインでしたが、近年になり、保険薬局の薬剤師も行うことができるようになりました。
もちろん、医師の要請なしに、勝手に薬剤師が患者さんの自宅に訪問して在宅医療を行うことができません。医師からの要請が必要です。
医師が患者さんの自宅などを訪問した結果、医薬品がきちんと管理されていないため薬剤師による指導が必要、処方箋を保健薬局に持ち込み処方薬を受けるとることができず配達が必要などと医師が判断すれば、在宅医療を実施することが可能です。
また、薬剤師や介護士などが、この患者さんに対して薬剤師により在宅医療が必要と考え、それを医師にフィードバックし、その結果医師が必要と判断した場合にも、在宅医療を行うことは可能です。
このように在宅医療の導入に関して、医師側だけではなく、その他スタッフからの求めに応じても医師の承認があればできるようになりました。
実際、現在ケアホームなどのように高齢者がグループで生活することが増えてきたために、薬剤師による在宅医療の要望は多いようです。
しかし、在宅医療から撤退している薬局もあるようです。なぜ撤退しなければならないのでしょうか。どのようにすれば撤退せずに、薬剤師による在宅医療が浸透するのでしょうか。
在宅医療開始から撤退までのパターンとは?
在宅医療を開始するパターンは、大きく分けて2つあると思います。
1つは、これまでそのような体制が整っておらず、新たに在宅医療を開始・導入するパターンです。
もう1つは、そもそもケアホームなどの施設に入所されている患者さんの処方箋を多く取り扱っているパターンです。
どちらのパターンが撤退しやすいパターンか想像つきますでしょうか?それは前者です。
保健薬局による在宅医療は、政府が打ち出している方針であるため、推し進める必要があります。薬剤師会なども積極的な姿勢ですので薬局としてはすすめる必要があります。
在宅医療導入を決定した初期のころは、病院や医師と積極的にコミュニケーションをとり、何とか1件に在宅医療の応需に成功したとします。
薬局全体として取り組んだことであるため、非常に盛り上がり、薬剤師だけでなくそのほかのスタッフも含めて盛り上がります。
1件の応需があると、スムーズに在宅医療の業務が実施されると、訪問医は積極的に在宅医療の導入を試みるため、その後の在宅医療の応需はスムーズになるようです。
この順調な在宅医療の応需というものが、実は困ったものなのです。
在宅医療からの撤退する理由とは?
保健薬局で在宅医療の応需が増えるということは、保健薬局にとって喜ばしいことのように見えます。しかし、これが喜ばしいことではないのです。
在宅患者訪問薬剤管理指導料:月4回のみ算定可能
健康保険を使用した場合:
1)在宅での療養を行っている患者(同一建物居住者を除く):650点
2)同一建物居住者:300点
介護保険を使用した場合:
1)在宅での療養を行っている患者(同一建物居住者を除く):503単位
2)同一建物居住者:352単位
(1単位=10円)
たとえば、1回の訪問で650点(6500円)算定することができます。おおよそ1時間~2時間で650点請求できると考えると、経営的にも良いように思えるかもしれません。
しかし、この1時間~2時間の間、ベースとなる保健薬局はどうなっていますでしょうか。
常駐している薬剤師が4人だとすると、在宅医療に出ている間は3人で業務をまわす必要があります。どの薬局も余分な薬剤師を常駐させていません。
したがって、4人で処理する処方箋枚数を3人で処理しなければならないという事態が発生します。薬局内に残る薬剤師に大きな業務負担が加わってしまいます。
たとえば、週3回、1日1回、1時間~2時間の在宅医療であれば、在宅医療を実施しない薬剤師さん達も我慢できるとは思います。しかし、在宅医療の回数が多くなればなるほど、薬局に残る負担が大きくなるのです。
そうなると、在宅医療を行う薬剤師と薬局に残る薬剤師の間に、悪い雰囲気が漂って、さらに薬局全体の悪影響を及ぼしてしまいます。
最悪のケースとして、それが患者さんに伝わってしまい、薬局の収益の基本となる処方箋の応需枚数が減ってしまうという状態に陥ってしまいます。
以上から、在宅医療が薬局の経営に悪影響を及ぼしていることが明らかであるため、在宅医療からの撤退という事態に発展していまいます。
在宅医療から撤退しなくなる方法とは?
在宅医療から撤退しなくてはならい理由は、非常にシンプルで、在宅医療実施中の薬剤師の数が足りない、つまりマンパワーの不足です。
したがって、薬局の経営者は新たに薬剤師を雇うことで、この問題を解決することができます。しかし、実際は新たに雇うことはしていません。
なぜなら、薬剤師1人の人件費と在宅医療から得られる収入を比べると、人件費のはるかに高く、経営的な観点から見ると、損失が生まれるためです。
これを解消するための方策は2つあります。
1つは在宅患者訪問薬剤管理指導料や関連する報酬の引き上げ、2つめは在宅医療を多くの保健薬局が行うことによって、つまり在宅医療を分散化させることによって少数の薬局に在宅医療が集中することを防ぐことです。
1つめの診療報酬引き上げは、現実的に考えて簡単に実現するものではありませんので、2つ目の方策が良いのではないでしょうか。
保健薬局における在宅医療は、間違いなくさらに広がりを見せるはずです。そのときに保健薬局がパンクしてしまわないように、たとえば地域の薬剤師会単位などで積極的に在宅医療を導入して、負担を軽減するようにしましょう。
そのことが在宅医療における薬剤師の地位向上、薬剤師そのものの地位向上につながるのではないでしょうか。
しかし、願うならば経営のことだけでなく、薬剤師の地位向上に貢献できるような働きを積極的にしてほしいと思うのだカモ。