カルボシステインという成分名を知らないという保健薬剤師さんはほぼいないと思います。
成分名はカルボシステイン、商品名はムコダインです。
ムコダインの効能効果を添付文書で確認してみますと、以下の通り記載されています。
ムコダイン効能・効果
- 下記疾患の去痰
上気道炎(咽頭炎、喉頭炎)、急性気管支炎、気管支喘息、 慢性気管支炎、気管支拡張症、肺結核
- 慢性副鼻腔炎の排膿
簡単に言いますと、感冒などに伴う痰のつまり、鼻炎に伴う痰(膿)を出すことが、カルボシステインの効果です。
感冒や鼻炎などで鼻づまりがひどいときに病院を受診すると、ハンコを押すようにカルボシステインが処方されます。カルボシステインを服用したことがないという人は、少ないのではないかと思います。
カルボシステインがここまで使用されるようになった理由としては、優れた効果、カルボシステイン以外に同じ医薬品がないということもありますが、副作用が非常に少ないということが挙げられます。
添付文書には以下のように記載があります。
総症例11,042例中、100例(0.91%)に副作用が認められ、主な副作用は食欲不振27例(0.24%)、下痢19例 (0.17%)、腹痛15例(0.14%)、発疹11例(0.10%)で あった。
本項の副作用は、ムコダイン錠250mg、錠500mg、細粒、K10、シロップ2%、シロップ5%、DSを合わせた 集計である。
1万例中0.91%にしか副作用が発現しておらず、非常に安心な医薬品ということができます。しかし、カルボシステインを夜に服用すると薬疹が起こりやすいということが言われました。
その理由を確認するとともに、どのように対応するべきなのかを考えてみましょう。
カルボシステインによる薬疹の知られざる原因とは?
川口とし子医師、山本美穂医師が日本小児皮膚科学会で報告した論文によりますと、8歳の小児に対して、下記の内容を処方したところ、薬疹を認めたとのことです。
処方薬:
- オゼックス細粒(一般名トスフロキサシントシル酸塩水和物)
- ビオフェルミン配合散(乳酸菌)
- ムコダイン (カルボシステイン)
- シングレアチュアブル錠(モンテルカストナトリウム)
- フスコデ配合散
- カロナール
- ホクナリンテープ(ツロブテロール)
参考文献:誘発に2日を要した, ムコダイン(R)(一般名カルボシステイン)による固定薬疹の1例
一般的に薬疹が起こりますと、その原因となった医薬品を特定するために、スクラッチパッチテストを行います。
スクラッチパッチテストとは、疑いのある医薬品をごく微量皮膚(腕や背中)より吸収させて、反応を見るテストです。赤みが出てくればそれが原因医薬品として特定できるというものです。
この症例についても、スクラッチパッチテストは実施されたようですが、いずれも陰性という結果だったようです。いろいろな試行錯誤をしたところ、最終的にはムコダインの服用を中止したところ、薬疹は治まったとのことです。
このことから推測できることは、カルボシステインそのものが原因ではなく、その代謝物が原因なのではないかということです。
カルボシステインを服用させて2~4時間ごとに尿を採取し調べたところ、未変化体が一番多く検出され、次に2,2′-チオジグリコール酸(TDGA)が検出されたとのことです。
この2,2′-チオジグリコール酸(TDGA)についてスクラッチパッチテストを実施したところ、陽性だったようです。
代謝物による副作用は知られていることですが、カルボシステインで同じことが起こっているとは、それほど知られているものではないと思います。
カルボシステインを夜に飲むと薬疹が起こりやすい?
2,2′-チオジグリコール酸(TDGA)という代謝物が薬疹の原因であることをご紹介しましたが、この物質は必ずしも生成されるわけではないようです。
Steventonという医師が論文で発表しています。それはカルボシステインが代謝される時間によって生成される代謝物が異なるようです。
朝8時~16時に代謝される場合は、酸化カルボシステイン(S-カルボキシメチル-L-システイン-S-オキサイド)が生成されますが、この物質は薬疹を発生させないようです。
しかし、夜中~朝8時ごろに代謝されると2,2′-チオジグリコール酸(TDGA)が代謝物として生成されるようです。
カルボシステインの薬物動態データを確認してみますと、服用後2時間でCmaxに到達し、以降血中濃度が減少しています。したがって、夜中に代謝されないようにするために服用時間を考える必要があると思います。
夜中に代謝されないようにするためには、いつまでに服用すれば良いのか気になるところですが、それを示すようなデータや論文はありません。
代謝は個人差もあるため、何時までに服用すれば2,2′-チオジグリコール酸(TDGA)が生成されないかということは非常に難しいです。
あくまでも個人的な推測ですが、代謝が始まったときに睡眠中でなければ問題ないのではと思います。したがって、睡眠をとる2~3時間前までに服用していれば2,2′-チオジグリコール酸(TDGA)の生成を防げるのではないかと思います。
もし、一度でもカルボシステインによる薬疹を経験したことがあるようであれば、夕食後の服用分はスキップするなどのような対応をとるようにしてはどうでしょうか。
しかし、薬剤師たるもの得ることができるデータから推測して、服薬指導に生かすということは非常に重要だと思うのだカモ。