電子処方箋とは現在、医療機関が作成した紙の処方箋をいったん患者に手渡し患者自身がその紙をもって、薬局で薬剤師に手渡している行程をネットワークを通じて完全自動化し、紙そのものを無くしてしまおうという試みの事です。
これより様々なメリット、デメリットが医療機関、患者、国や自治体などの行政機関、それぞれに発生します。
その為、処方箋を電子化するに当たって、2008年から厚生労働省が検討を開始していますが、既に導入されている他国ではほとんどの医師が利用していない実態があります。
しかし、医療制度の違いから、わが国でも同様な結果になるとは限りません。
そこで、調剤業務をする職種に転職希望する薬剤師はこの機会にぜひ、電子処方箋の内容(メリット、デメリット)を理解しておきましょう。
電子処方箋を導入することによるメリット
医療機関側(病院と薬局)
紹介疑義の時、確認、薬剤変更などで、医師に連絡をとる場合
利便性が向上します(現在は通常は電話、FAXで、例外的に、門前薬局だと徒歩で通達する事もあります)。
また、電子的に記録が残るので、過誤防止にもつながります。
患者側
患者が薬局で待つ時間が短縮する可能性があります。患者自身の手で処方箋を薬局まで持ち歩かなくて、済みますから、負担が軽減します。
また、医療機関による受診後、直ぐに、門前薬局を訪れる場合ではなく、家の近所の薬局に行く場合などでも、途中で処方箋を紛失する心配がなくなります。
遠隔診療を受けた場合でも、ネットーワークを通じて、簡単に処方箋が入手可能になります(これは医療機関側のメリットにもなるでしょう)。
行政機関側
災害など、緊急時に、患者の常用している薬を簡単かつ、迅速に知ることが可能になります。ただし、災害時にネットワ-ク(回線やサーバーなど)が正常に機能していることが前提条件になります。
患者が複数の医療機関を同じ疾患名で、はしご受診してそれぞれの医療機関から個別の処方箋の交付を受けることで不正な薬剤取得を行う事を防ぐことが出来ます。その為、不正による財政悪化を防止できます。
電子処方箋を導入することによるデメリット
医療機関側
電子処方箋のシステム構築(ソフトのインストール、PCの設定など)、メンテナンス、オペレーターの訓練に時間的にも経済的にもコストがかかります。
過去の他業種のIT化から考えても、特に新しいシステムになれるまでの教育コストが最もかかると、予想されます。また、現行制度では、病院側が薬局を指定する事は出来ません。
あくまでも、薬局の選択は患者の自主性にまかせないといけないので、どんな医療機関が発行した処方箋でも、あらゆる薬局が入手できるようにしないといけませんが
その為には、あらゆる薬局とネットワークでつながる必要がありますので、専用回線ではなく、インターネット回線を利用する事が現実的な選択になります。
そうなれば、オペレーターにも操作方法だけでなく、セキュリティ対策の為の専門的な教育が必要になりますし、バックアップやソフトのアップデートなど、PCのメンテンナンスを頻繁に行う必要があります。
これは電子処方箋に限らず、インターネット技術を使う以上、避けられない事です。
患者側
自分の個人情報なのに自身がほとんど関与できません。もし自身で見れるようにするには本人である確認が必要になり
固有の番号などでサーバー上にデータベース化して管理する必要があります(当面は識別番号が書かれた引換証がその役目になる予定)。
そうなると、マイナンバー制度と同様に、個人情報漏えいのおそれが出てきます。そして漏洩してもマイナンバーは原則、番号を変更できませんが同じ事になる可能性があります。
何より個人情報の漏洩を個人の責任で防ぐことが出来ません。管理は全てシステム運営者(サーバー側)とオペレーターである、医療機関と薬局だけが関与する事になるからです。
国や自治体側
システム開発とメンテナンス、医療機関への説明、研修などに、莫大な費用がかかります。
業務の効率化により、費用面でも、メリットが期待されますが、実際、よく、シュミレーションしてみないと、損失の方が大きくなる可能性があります。
これはマイナンバーでも同じことが言われています。税収を公平に回収する事が期待されて導入されましたが、義務化されていない事もあって、維持費の方でマイナスになっているという指摘があるからです。
IT化全般の問題について
完全導入後は、マイナンバーに連携する事も考えられますが、マイナンバー自体と共通した、IT化全般のデメリットがあります。
それは電子化ゆえの情報セキュリティの問題です。情報セキュリティは2段階存在します。一つはサーバーの脆弱性です。
電子処方箋はASPサーバーを介して、医療機関などへ情報が転送される仕組みですがこの段階でハッキングなどの被害に遭うと個人情報が漏れたり不正な目的に使用される可能性があります。
次にクライアント側の問題です。医療機関で使われるPC側にウィルスなどが侵入したり無線LAN使用時に情報が盗用されるなどやはり個人情報がネット上に拡散されてしまう可能性があります。
そして一度情報がインターネット上に拡散すると元へ戻す事は事実上、不可能です。
こういった情報セキュリティは患者側には何も対処できる方法がないのに全面導入されれば電子処方箋を好まない患者でも拒絶できません。
もし、本格的に導入するならせめて病院や薬局の規模に合わせた人数の情報セキュリティの専門家を設置する義務を設けるなどの処置が必要になるでしょう。