GCP上の「治験薬管理者」は治験実施施設に置かれるものです。治験依頼者から治験薬を受け取り、患者用に治験薬の処方依頼があった場合には、処方し、治験薬管理表に記載をしておくことが求められます。
CRAが治験薬管理表のモニタリングを求めた場合にはそれに応じる必要があります。
製薬会社の治験薬管理者は何を行っているのでしょうか。GCP上、治験薬生産工場から、開発部に送付されたものを受け取り、CRAまたは施設の治験管理者に送付し、その結果を文書として残しておくことが最低の義務です。
治験薬管理者の業務
製薬会社の治験薬管理者は、治験薬生産工場から開発部に送付されたものを受け取ります。
そのあと、CRAの依頼状に従って、治験薬の配布を行います。治験薬の配送にはCRAの直送、治験薬を取り扱うことが許可されている運送会社を使うことができます。
CRAの直送は問題が少ないように思われますが、冷蔵管理などの場合には、冷蔵バックに入れて配送しても、その温度で運ばれたかどうかの記録をとることが難しいことから、許可をえた運送会社を用いることができるようになりました。
CRAが回収してきた治験薬と実際の使用量の整合性チェックも行い、問題がある場合にはCRAにその原因を調査させることができます。
多くの施設では治験実施計画書以外に、併用禁止薬の一覧を求められることから、その資料を作ることも必要になることがあります。
治験実施計画書では、一般名と先発医薬品名だけが記載されていますが、治験期間中に後発医薬品が発売になった場合にはその情報を治験実施施設に届ける必要があります。
治験薬管理者の役割
一つには試験管内、動物実験を行う研究者から、CRA、DM、MW、統計解析研究者まで、違った職能を持つ専門家に対して、調整を行うことです。
専門度が高くなるほど他の専門家の専門用語が分からなくなります。それを理解して、共通に話し合えるような通訳の様な役割も求められます。
もう一つはその治験薬をどのように開発していくかの目標を定めることです。
全くの新薬であれば、未知の副作用に対してどこまで、動物実験と治験で明らかにしておくか、構造式の一部を替えただけのいわゆるゾロ新薬の場合には、オリジナルに対する差別化をどのように行うか、などを検討下請け、第1相試験から第3相試験の目標を定めます。
治験薬管理者の資質
治験薬管理者にはやはり経験がものを言います。ですから、研究者、CRA、DM、MW、統計解析研究者から他の部門の人間でいくつかの治験薬を厚生労働省に申請した経験がある人が選ばれることが多くなります。
他社情報に敏感になる必要があります。プレスリリースなどの公式情報以外に、その分野の専門家との人脈を持っているかが大きな財産になります。人脈を形成することはCRAや営業部門のMRが得意な分野です。
治験結果を第三者的に評価できることが必要となります。その治験薬に惚れなくては治験責任者をできませんが、結果が出た場合にはその結果を冷静に受け止める必要があります。
動物実験で治験に勧めることが可能である化合物のうち、1割前後が薬価収載に至ります。
そうなると、以下にこの治験薬は薬価収載されないという判断は速いうちにつけることが会社に損害を与えることが少なくなります。
新薬開発部員は担当する治験薬が薬価収載されて初めて評価される場合があります。そのため、治験薬の開発の中止を申し出ることは非常に難しいことです。
しかし、第3相試験で求める結果が出る可能性が40%以下と分かっている状態で、第3相試験を強行して結果として申請できなかった場合には、第3相試験のコストだけでなく、第3相試験に移行した場合には生産に向けて工場等の投資を始めることからその投資もムダになります。
二重盲検比較試験の薬剤割付
二重盲検比較試験の場合には実薬とプラセボの割付(決まった箱に詰める)ことが必要です。
これに関して治験管理者は割付が出来上がったものを保管する業務だけに従事します。これは実薬とプラセボの割付に関しては実際にその治験に関わっている人は参加できないからです。
最近では治験に関わっていなければ会社内の別の担当がその職務を行っても構わないという解釈が厚生労働省で認められています。
そのため、薬剤の割付を外部の大学に頼むことは少なくなり、手順書を作成して、他の治験薬担当者に割付を行うことが可能になっています。また、割付業務自体をCRO(医薬品開発業務受託機関)に丸投げしている場合もあります。
治験薬管理者の待遇
製薬会社の治験薬管理者の業務は薬剤の配送手配と記録の保持が主な仕事になっています。そのため、専門性があまり高い部門とは見なされておらず、実際の業務は派遣社員が行っている会社が多くなっています。
記録の保存記録等も治験システムへの入力だけで行うことが可能で、入庫と在庫に関しては、日付と宛先と輸送方法、担当者を入力することになります。
このシステムが、DMシステムやCRAの行動記録システムと動悸している場合には、回収薬剤の数が、患者に処方され飲み残しの分と患者に処方に至らなかった量があらかじめ知ることが可能になることから、収支が合っていることを早めにCRAにアラートを出すことができます。
治験薬管理者の待遇は新薬開発部の他の部門に比較して高くはありません。しかし、CRAの回収薬剤数に整合性がないことや、治験薬との併用禁止薬剤の新規発売に関してはすぐに施設に知らすという重要な仕事があります。
治験開始時の大量配布以外には、ほぼ在庫管理と、情報収集だけですので、残業は比較的少なく、治験薬管理者は手を動かす必要は必ずしも多くないことから、休暇も必要に応じてとることも可能です。
まとめ
治験薬管理者はその治験薬あるいは治験の奏者のようなものです。最近はMWがその役割を果たす場合もあります。
この業務は治験に関わる専門家の間で共通の話ができるような通訳の様な役割を果たす必要があります。
治験薬が薬価収載されて、新発売時の安全性調査をクリアし、目的以上の売り上げを上げた場合には、関係者にボーナスが出ますが、その取り分が多いのは治験責任者です。
段階ごとの治験でその治験薬の開発の中止を会社に提案するのも治験薬管理者の大きな役割です。治験薬の開発を中止すべきデータは早期の内に発見する必要があります。
後で出てきた場合には、特に薬価収載して発売に至ってから発見されたときには会社に大きな損失を与えます。
上記の様に治験薬管理者はハイリスク・ハイリターンな仕事です。ただし、いきなり治験薬管理者としての職種に新人が就くことはありません。
経験と人脈がものを言う職種ですので、力のある人は他社からの引抜きが多くなります。
また治験薬管理者に力があっても、治験薬に力がなく中止になる場合には、周りからの罵声を浴びることが多くなりますが、きちんと原因を説明できれば次のチャンスは比較的早期に与えられます。