システム開発の遅延で150億円の代償を
2016年春、クレディセゾンに関する重大な事件が発生しました。
2016年3月28日、セゾン情報システムズはクレディセゾンとその子会社であるキュービタスに対して条件付き和解を行う方針であると発表したのです。
セゾン情報システムはクレディセゾンとキュービタスから大型システム開発案件を受注していたのですが、そのシステム開発が遅延したことに対する損害賠償です。
その和解の内容ですが、セゾン情報システムズはクレディセゾンに対して83億9700万円・キュービタスには65億7800万円を支払うというものです。
両社に支払う和解金は実に149億7500万円に達します。
ちなみにこの合計金額ですが、今回の開発業務に関してクレディセゾンとキュービタス両方から受領した額と一緒です。
つまりセゾン情報システムズとしては、今回の受注に関して全額を返金した形になります。
これを条件に、クレディセゾンとキュービタスの起こしている損害賠償請求をすべて放棄する形になります。
この和解金の負担によって、セゾン情報システムズは2016年3月期決算において、83億5,195万円の特別損失を計上しました。
セゾン情報システムズはクレディセゾンの傘下ではあり、主にセゾン系の受注をするシステムインテグレーターです。
クレディセゾンにとってはまったくの他人ではありません。
とはいえ、セゾン情報システムズもジャスダック上場の企業であって、その社会的責任も大きなものです。
社会に大きな影響を与える大型システム開発を遅延させてしまった以上、損害賠償もやむを得ないものでしょう。
東証一部上場のクレディセゾンとしても、損害が現に発生している以上請求しないわけにはいきません。
セゾン情報システムズにとって、この和解金は決して小さなものではありません。
大型システム開発受託事業を今後縮小し、財務基盤立て直しのために716名いる全従業員のうち、50名の希望退職者を募る案が出てきています。
2016年3月期の決算は、純損失60億9,461万円となりました。
セゾン情報システムズにとっても身を切る犠牲を払ったシステム統合でしたが、2017年11月26日、無事新基幹システムの稼働が開始されました。
統合に掛かった期間は10年。費用は2000億円以上とされています。
新システムの、当初の運用開始予定は2011年のことでした。
クレディセゾンは、いったんは2014年10月に新システム稼働を発表しましたが、直前に延期を発表していました。
システム開発遅延が起きたのはなぜ?
出典:日経 xTECH – 日経BP
今回のクレディセゾンの開発システムがうまく機能しなかったのは、共同基幹システムの問題にありました。
2008年頃よりクレディセゾンとキュービタスは共同で、システム開発に着手していました。
これはセゾンとUCの両カードブランドの顧客情報を一元管理するためのシステムでした。
セゾンとUCブランドの共同基幹システム本体があって、周辺システム並びに帳票・外部インターフェイスシステムをつなげる今回のプロジェクトでした。
共同基幹システム本体と周辺システムに関しては、日本IBMに発注しました。こちらの両システムは、すでに開発は完了していました。
ところが残りの帳票・外部インターフェイスシステムをセゾン情報システムズに発注したのですが、開発が遅延してしまったのです。
セゾン情報システムズのリリースしている文書によると、品質改善及び機能向上への取り組みの結果、開発遅延が生じたといいます。
今回のシステム開発ですが、セゾンとUCという異なるブランドを組み合わせる開発事業でした。
複数のブランドを組み合わせるのは難易度が高く、品質問題が生じやすかったのではないかといわれています。
UCカード
ようやく動き出した新システムの目的は、セゾンカードとUCカードの完全統合でした。
UCカードがセゾンのブランドになったのは、2006年でしたが、統合に10年以上要したわけです。
システム統合の結果、セゾンカード会員には残念なことに、支払サイトが短縮されてしまいました。
「月末締め翌々月4日払い」と、クレジットカードの中でも最大級に長かった支払サイトは、「10日締め翌月4日払い」となり、締め日と支払日の感覚が10日縮まりました。
普通の支払サイトになってしまいましたが、仕方ないところでしょう。
UCカードは、もともと「ユニオンクレジット」という、クレジットカードブランドの老舗です。
今ではセゾンカードの陰に隠れたブランドになってしまいました。
とはいえ、単純にUCカードをセゾンカードに切り替えることで済むような、小さな存在でもなかったわけです。
UCカードは、都市銀行が連合で会社を設立し、発行していたクレジットカードです。発行していた銀行は、以下のとおりでした。
- 第一銀行
- 富士銀行
- 日本勧業銀行
- 太陽銀行
- 埼玉銀行
- 三菱銀行(のち外れる)
- 三井銀行
- 大和銀行
単体で残っている技能はひとつもなく、隔世の感があります。
合併して大きくなった現在のメガバンクでも、UCカードを発行しているのはみずほ銀行だけで、しかも「UC」を表示していません。
ブランド統合することの難しさ
このような異なるクレジットカードのブランドを統合する際には、種々の問題が起きるといわれています。
クレディセゾンに限った話ではなく、たとえば業界最大手の三菱UFJニコスもなかなかブランド統合が進みませんでした。
MUFGやニコスカード、DCカードと異なるブランドを別々に管理する状況が長らく続いていました。
やっと2016年になってシステム統合を進め、ブランド統一に着手している状況です。
失くせたカードブランドは、ミリオンカードの流れを汲むUFJカードだけです。
ブランド統合すると、それまで使っていたブランドが使用できなくなります。
さらに異なる会員規約のルールの中で運営されていたものを統一するため、規約内容の見直し・変更もしていく必要があります。
DCカードなど、これをライセンス発行している地方銀行としては、三菱UFJブランドである「MUFGカード」に切り替えたくなどないわけです。
こうした配慮もあり、いまでも募集が続いています。
銀行系、信販系の母体が入り乱れて複雑な、似たような例は多数あります。
三井住友フィナンシャルグループ傘下の信販会社、「セディナ」でも、旧OMCカード、旧セントラルファイナンス、旧クォークなどの様々なブランドのカードが発行されています。
これだけでも複雑ですが、さらに旧さくら銀行系のJCBカード発行会社の「さくらカード」も引き受けました。
さくらカードは、VISAカード主体の三井住友銀行になってから冷遇されていた存在でした。
現在クレジットカード業界には、いろいろな企業が進出して激しい競争を繰り広げています。
もしかすると今後業界再編が進み、合併やブランドの統一といったことも起きるかもしれません。
そのような時にいかにスムーズにシステム・ブランド統合を進めていくか、クレジットカード業界の新たな課題になるかもしれません。