行動援護は、障害福祉サービスの中でも知的・精神障がい者を対象にしたサービスです。
「行動援護」といった言葉を、初めて耳にするといった方もいるのではないでしょうか。
どのため、
「どういったサービスなの?」
「行動援護を仕事にするには、特別な資格が必要?」
など疑問に思う方もいますよね。
そこで今回は、行動援護とはどういった障害福祉サービスなのか、同じ障害福祉サービスである同行援護と移動支援との違いなども踏まえてお話ししていきましょう。
これを読めば、行動援護とはどういったサービスなのか、障害福祉サービスについて理解を深めることができますよ。
行動援護の概要
「行動援護」の文字を見れば、利用者の行動(外出時など)のケアを行うと連想しやすいですね。
行動援護の主な仕事を一言で表すのであれば、それは間違いではありません。
しかし、そのためには専門的な知識と経験が必要です。
そこで、行動援護とはどういった障害福祉サービスなのか、確認していきましょう。
行動援護とは
行動援護とは、知的・精神障害を抱え自分ひとりでは行動することが難しく、常時介護を必要をとする方を支える障害福祉サービスです。
特に、通院やお買物など外出をするときに受けるサービスで、道路上などでの危険回避や、外出前の着替えなども行います。
行動援護のサービス内容
行動援護は、知的・精神障害を抱える方が、日常的に行動するときの危険を回避するため、援護します。
個人個人の障害の特性を熟知した専門の行動援護従業者が対応し、知的・精神障害を持つ方が日常生活を安全に送れるよう手助けを行うのが主な仕事です。
提供されるサービスの具体例
行動援護では、主に次の3つのようなサービスを提供しています。
- 危険を回避するための必要な援護
- 移動中の援護
- 排泄や食事の援護
詳しい具体例を見ていきましょう。
予防的対応
知的・精神障がい者の中には、初めて訪れる場所や経験をしたことがいない場所に来ると、不安を感じて不適切な行動を起こすことがあります。
不安を引き起こすと予想される場所を訪れる時は、事前に目的地での行動やどういったものがあるのかなどを説明し、利用者の理解を促すように予防的対応を取ります。
制御的対応
知的・精神障がい者の中には、不安や恐れなどから行動障害を起こすことがあります。
制御的対応は、
- 問題行動を収める
- 自傷行為や危険を認知できない行動を収める
- 強いこだわりを示し、動かなくなるなどといった症状を収める
などといった、障害からくる行動の制御が主です。
行動障害の表れ方は個人によってそれぞれであり、臨機応変に対応することが求められます。
身体介護的対応
外出に必要な準備をすることも、行動援護の一つです。
自分で食事が取れない、衣服を脱着することができないなどといった場合、外出に必要であればサポートをします。
また、自分で排泄ができない場合は、トイレの介助やもし着替えの必要がある場合は、後始末といったことも対応しなくてはいけません。
その他
個人に合わせた意思の疎通を図るツールの準備や、外出に必要な道具の準備などもの、行動援護の対象です。
知的・精神障がい者は、それぞれこだわりを示すことも多く、利用者の好みやこだわりを持つ部分などを把握しておくことも必要になります。
行動援護を利用する条件
知的・精神障害を持つ方だからと言って、誰もが行動援護を受けることができません。
- 障害程度区分 3以上
- 障害程度区分の認定調査項目の行動関連項目のうち、8点以上であること
- 障がい児の場合、行動関連項目のうち、8点以上に相当する状態であること
といった3つに当てはまる、行動上困難なほどの障害があり、常に介護を必要とする方が対象です。
行動援護の利用料金
行動援護にかかる費用は、
- 利用者が18歳以上:利用者とその配偶者の所得
- 利用者が18歳未満:監護する保護者の世帯の所得
といった、所得に応じて決められています。
ただし、次の表のように毎月の負担額の上限が定められているので参考にしてくださいね。
生活保護受給・市町村民税非課税世帯 | 0円 |
---|---|
市町村住民税課税世帯(所得割16万円未満) | 9,300円 |
上記以外 | 37,200円 |
外出先でかかった食事代や入場料、交通機関利用料金などは実費で負担することになるので、覚えておきましょう。
行動援護を利用するための6つの手順
行動援護は、ただ申込んですぐに利用できるわけではありません。
そこで、行動援護を利用するための手順についてお話しします。
利用申請
行動援護は利用申請をするところから始まります。
住んでいる地域の市町村や相談支援事業所へ相談し、行動援護の対象になるのか、どう手続きを取るべきかなどを相談するといいでしょう。
行動援護の対象になる場合は、役場の窓口へ利用申請を行います。
もし本人や家族の申請が難しければ、サービスを提供する事業者へ申請を委託することも可能ですよ。
計画作成
行動援護を利用するためには、利用計画の作成が必要になります。
市町村から指定された指定相談支援事業所に連絡し、利用計画書の作成をしましょう。
障害程度区分の決定
サービス利用計画書を提出と、本当に支援が必要なのかといった、状況判断のため市役所職員によって面談を行います。
この面談では、障害者程度区分判断するための材料として、今の利用者の状況や、生活・心身の状況などの調査を行い、判断されます。
計画の提出
区分が決定されると、改めてサービスの意向や調整を行います。
この時に、利用計画書が必要になるので提出してくださいね。
受給者証交付
提出された利用計画書をもとに、サービスの利用が決定されます。
その後、「障害福祉サービス受給者証」「支給決定通知書」が発行され、そこでサービスの利用を始めることが可能です。
利用契約・利用開始
障害福祉サービス受給者証と支給決定通知書を持って、行動援護を行っている事業所を選び、サービスの契約を行います。
契約を済ませると、利用を開始することができますよ。
どこに事業所があるのかわからないといった場合は、市区町村の窓口・ホームページにも情報が載っているので確認してみるといいですね。
ただ、最初に契約した事業所と折りが合わないと感じる場合は、変更することもできるので覚えておいてくださいね。
“同行援護”との違い
行動援護と似ているサービスのため、よく間違われやすいのが「同行援護」です。
そこで、行動援護と同行援護の違いについて、確認しておきましょう。
対象者の違い
行動援護と同行援護の大きな違いには、「対象者」があります。
知的・精神障がい者を対象にした行動援護に対して、同行援護は視覚障がい者を対象にした障害福祉サービスです。
また、対象の資格としては次のようになります。
- 障害者支援区分が2以上
- 支援区分の調査項目で、「歩行」が全体的な支援が必要と認定、もしくは「移乗・移動・排泄」の項目のうち1つでもできる以外のチェックを受けた方
必要となる職員要件の違い
同行援護サービスを提供できる職員にも違いがあります。
視覚障害を抱える方は、目が見えない、狭い範囲しか認識できないため、視覚から得られるべき情報が極めて少なく、一人で行動をするのは難しい方も多いです。
そのため、同行する職員は、視覚障害について熟知しているのはもちろん、移動や介助についての研修を受ける必要があります。
サービス内容の違い
ここまでお話ししたように、行動援護は、利用者の身の安全や問題行動の制限が主なサービスですが、同行援護の場合は、移動に必要な視的情報を伝えることです。
「3歩先に段差があります」
「自転車が後ろから来ています」
など、本来視覚で得られる情報を補ってあげるように、周りの状況などを伝えます。
場合によっては、代読・代筆のサービスも行います。
“移動支援”との違い
行動援護と同様に、移動時の支援サービスとして「移動支援」があります
こちらもまた混同されがちなので、違いについて触れていきましょう。
市町村ごとのサービスである
移動支援と行動援護の違いは、サービスの差です。
行動援護は同じ基準に基づき、どの市や町村に住んでいても同じサービスを受けることができます。
しかし、移動支援は自治体によって大きく異なり、引っ越しなどによって移住した場合に今まで受けていたサービスを受けることができないなど、戸惑うことも多くあります。
移動支援は、厚生労働省より各自治体に委託しているサービスであり、そのためサービス内容や利用者対象、利用できる時間の上限等がそれぞれ異なるのです。
障害の等級、種別、支援区分に左右されない
行動援護を利用するためには、障害者支援区分2以上であることが必要ですが、移動支援の場合は障害者支援区分や種別などに関わらず利用することが可能です。
行動援護は知的・精神障がい者の方が受けることができるサービスですが、移動支援を受けるためには、自治体に申請し受給者証を発行してもらうことができれば、利用することができます。
障害の種類に関係なく利用することができるのも、違う点になりますね。
3つのサービス類型がある
事業所と相談し、一人一人に合った支援を行うのが行動援護です。
しかし、各自治体によってサービス内容は異なるものの、主に次のような3種類があり、どのサービスを利用したいのか選ぶことができます。
個別支援型
個別支援型は、利用者に対して一人もしくは複数人の職員で支援を行う方法になります。
移動は公共交通機関などを使うことになります。
グループ支援型
イベントなど目的地が同じ場合に、複数人の利用者とともに支援者が付き添いサービスを提供します。
集団行動に抵抗がない方が利用することが多く、移動中に人との交流が持ちやすいのも特徴です。
移動は公共交通機関などを利用することもあります。
車両移送型
歩行が難しい、体調が悪い場合に利用されるのが車両移送型です。
主に、目的地までの送迎を行い、福祉バスのように利用者宅を回って乗り合わせて送迎を行うことが主になります。
どのような職員が働いているの?
行動援護サービスを提供する職員は、介護や障がい者への支援の経験・知識が豊富なスタッフが勤務しています。
対象となる利用者の特性を理解し、突発的な事態にも柔軟に対応できる能力が求められているからです。
職種ごとの具体的な人員要件は下記の通りです。
管理者
管理者とは、施設長など責任者を表します。
管理者は、障害や介護についてなど知識があった方が望ましいですが、特別必要な資格はありません。
常勤としては1名必要になります。
ただ、次にご紹介するサービス提供責任者との兼務も可能です。
サービス提供責任者
サービス提供責任者は、常勤で1名以上配置する必要があります。
サービス提供責任者になるためには、
- 介護福祉士もしくはヘルパー1級の有資格者
- 知的・精神障がい者を直接処遇する介護職員として3年以上の実務経験
- 行動援護従業者養成研修課程修了者もしくは強度行動障害支援者養成研修の修了者
といった3つの条件を満たすことが必要です。
令和3年3月31日までは、行動援護従業者養成研修課程や強度行動障害支援者養成研修を修了していなくても、5年以上の実務経験があれば、サービス提供責任者になることもできます。
行動援護従業者
従業者は、常勤で2.5名以上配置することになります。
行動援護従業者になるためには、次の3つの条件を満たすことが必要です。
- 行動援護従業者養成研修課程修了者もしくは強度行動障害支援者養成研修の修了者
- 介護福祉士もしくはヘルパー1級の有資格者
- 知的・精神障がい者を直接処遇する介護職員として3年以上の実務経験
ただ、サービス提供責任者と同じように、令和3年3月31日までは、研修を修了していなくても、2年以上の実務経験があれば、行動援護従業者になることもできます。
行動援護従業者養成研修について
行動援護従業者になるために必要な「行動援護従業者養成研修」ですが、どういったものか気になるという方もいますよね。
行動援護従業者養成研修とは、知的・精神的に障害を抱えた方に介護をすればいいのかなど、必要な知識やスキルを得るための研修です。
そこで、行動援護従業者養成研修の概要について説明しましょう。
修了まで3~4日、未経験者でも受講可能
行動援護従業者養成研修は、修了までは3~4日間と比較的短い期間で習得できる研修です。
研修は、講義だけではなく演習等実践的なものも行われます。
また、受講するために資格や実務経験などといった条件はなく、誰でも受講できるのが特徴です。
例えば、学生の間に行動援護従業者養成研修を受けることも可能なので、就職する際にも役立つのがうれしい点です。
受講するには
行動援護従業者養成研修は、都道府県や指定事業所などで行われています。
受講先にはついてはお住まいの都道府県に確認してみましょう。
受講先によって、研修の開催時期・受講料などが異なるので注意が必要です。
強度行動障害支援者養成研修について
強度行動障害支援者養成研修とは、知的・精神的に障害を持つ方で自分の体を傷つけるなどの自傷行為や、他人を傷つけるなどの行為といった周りに影響を及ぼす危険性のある行動をとる場合に、どう支援をするのか知識や技能を得る研修です。
強度行動障害支援者養成研修の概要を見ていきましょう。
基礎研修と実践研修がある
強度行動障害支援者養成研修には、「基礎研修」と「実践研修」があります。
基礎研修では、強度行動障害がある方の基本的理解から行動障害がある方とのコミュニケーションの演習などといった基本的なことを、2日間で学びます。
実践研修では、障害の理解とアセスメントや、危機対応と虐待防止などといったより深く知識を得ると共に、実践的なことを主に行い、適切に行動援護を行えるよう2日間演習で学んでいきます。
実践研修には受講要件あり
基礎研修と実践研修で計4日間の研修期間があります。
しかし、研修は週1回の4週間かけて行われるので、就業中であっても受けやすい研修です。
ただし、実践研修を受けるためには、基礎研修を修了する必要があるので注意しましょう。
研修は各都道府県が管理している
強度行動障害支援者養成研修も各都道府県が管理しています。
住んでいる都道府県のホームページなどに研修の日程などが記載されているので、チェックしておきましょう。
ただ、都道府県によって開催される頻度が低いこともあります。
早めにチェックして、計画的に受講をするようにしてくださいね。
まとめ
行動援護とは、知的障害や精神障害で常時介護を必要とされる方の外出を支援するサポーターです。
現在は経過措置期間として、2021年までは資格要件が緩和された状態です。
しかし、それ以降は特定の研修を修了していなければならないという条件が義務化されるため、人材不足が懸念されています。
一言に障害といっても、特に知的障害や精神障害を抱えている方は個人差がとても大きいです。
現場で働く人にとって色々なケースや障害に合わせて対応できる為にもこういった研修を受けることが大切なのかもしれません。
一般的にはあまり知名度がないものですが、サービス提供の事業所にとっては必要とされる資格です。
機会があれば、ぜひ受講しておくとよいでしょう。