介護保険制定前は「措置制度」というものが主流でした。
行政処分の一つとして、行政が指定した老人ホームに入所するということが当たり前に行われていたのです。
現在では介護保険に基づき、契約制度が主流です。
利用者が自由にサービスを選択でき、保険適用内では1割、一部の利用者は2割負担でサービスを利用できるようになっています。
では、措置制度が廃止となった背景は何だったのでしょうか?
措置制度と契約制度の違いを理解しながら、その理由を紐解いていきましょう。
どのような場面で措置制度が利用されているのかも合わせて見ていきましょう。
そもそも措置制度とは?
措置制度とは、福祉サービスを必要としている人に対して、行政が必要性を判断して利用者のサービスを決定することです。
措置制度は、戦後の日本における、高齢者介護や保育などを構築する上で中心となった制度でした。
しかし、介護サービス利用における措置制度については現在、介護保険の導入をきっかけに「契約制度」と移行しました。
なぜ契約制度が主流になったのでしょうか。
次の項目で詳しく説明します。
措置制度と契約制度の違い
前文の通り、現在は措置制度から、利用者が自らの意思でサービスを選択できる「契約制度」に移行しました。
まず、措置制度と契約制度の違いから触れていきましょう。
- 税金が資源
- 主な対象は「低所得者」とする
- 利用者負担を、「応能負担」とする
- 国や自治体がサービスを提供する
- 生活困難に陥った人に対して行政が保護介入する
- 40歳以上の人が支払う保険料が資源
- 主な対象は「サービスを受けたい高齢者」
- 利用者負担は「応益負担」
- 利用者と事業所が直接サービスを契約する
- 利用者が自由にサービスを選択できる
措置制度と契約制度では、税金から保険料へと財源が変わっています。
また、措置制度では利用者の収入に応じて、高所得者の負担が多くなるように設定され、サービスを利用するにあたって所得調査が行われていました。
措置制度では行政から決められた施設やサービスを受けなければなりませんでしたが、契約制度では利用者が自らサービスを選択できるものに変化しました。
このように、措置制度は現代の日本社会の流れに合うように、契約制度へと変化したのです。
措置制度から契約制度に変わった4つの理由
ここでは、なぜ措置制度から契約制度へと形を変えなければならなかったのか、その理由を詳しく解説していきます。
1.財源の確保が困難になった
措置制度の時代では、すべて税金でサービスの利用が賄えていましたが、高齢者が増加した現在、保険料を徴収するという形で財源の確保をしなければならなくなりました。
2.利用者の権利保障の問題
措置制度では、行政がサービスを必要だと認めなければ、利用者はサービスを利用できませんでした。
また、行政が指定する施設やサービスを利用しなければならなかったため、利用者に利用するサービスの決定権がないといった問題がありました。
3.中高所得者の負担が大
措置制度では低所得者を対象としたものだったため、所得に応じて負担が大きくなる「応能負担」を採用していました。
そのため、中高所得者が介護サービスを受けるには負担が大きく、抵抗を感じる人もいました。
4.介護サービスの質が問題視される
行政がサービスを選択して利用者を振り分けるため、サービス提供者同士が利用者を奪い合う必要がなく、競争心が生まれませんでした。
職員は決められた仕事だけをこなすだけなので、サービスの質が低下していくことが問題視されました。
措置制度にもメリットがある!現在も適用されている措置制度とは?
措置制度は介護保険が始まったと同時に契約制度へと移行したため、現在は廃止されています。
しかし、特別なケースについては現在も適用されています。
例えば、経済的な理由で支援を必要としている高齢者や、身寄りがなく、自己判断ができない児童については、措置制度がとられています。
養護老人ホームや児童養護施設などの施設へ「入所が必要」と判断されたケースについては、行政の強制力が働く措置制度が必要なのです。
「命を守るための対応」として機能している
福祉・介護の知識がなく、どのようなサービスが受けられるのかを知らない、そもそも介護を受ける考えがない人たちも一定数いるのは事実。
現在の措置制度は「命を守るための対応」として機能しており、上記のような特別なケースで適用されています。
措置制度のデメリットとは
ただし、措置制度はあくまでも「措置」として用いられるもので、自ら望んで利用できるわけではありません。
自治体が福祉サービス・介護サービスを利用できる条件を満たしているかを審査し、その結果で利用先が決定される仕組みだからです。
つまり措置対象者は自分で自由に施設や事業者を選べるわけではありません。
それゆえに、利用者本位のサービスを受けにくい側面があり、利用者の主体的な利用が難しい点が課題とも言えます。
また審査に落ちてしまうと、本人が必要だと感じていても措置制度を受けられない事態も課題と言えるでしょう。
こういった背景からも、措置制度から契約制度へと移行していくのは当然の流れと言えます。
措置制度のしくみから現在の契約制度を見つめ直そう
従来の制度である「措置制度」では行政の見地による一方的な福祉・介護サービスが決められてきました。
しかしQOL(クオリティ・オブ・ライフ:生活の質)の観点から、利用者にとってベストな選択ではない点は大きな課題に間違いありません。
要介護者および家族の立場に立って適切なサービスを提供できる時代になってきました。
ケアマネジャーの登場が契約制度を加速させることになり、利用者は必要な福祉・介護を選択でき、その人らしい充実した生活を目指せるようになっています。
また民生委員・各地域に設置される地域包括支援センターの開設も大きく影響。
「介護を受けたくても、どうしたら良いのか分からない…」といった、いわゆる『埋もれているケース』の掘り起こしに貢献しています。
もちろん措置制度は命を救うために必要なものでした。
しかし制度が代わり、体制が変わった今、契約制度が主流となり、利用者にとってより適切な福祉・介護サービスを提供できるようになったと言えるでしょう。
福祉・介護が必要な方は、まずはケアマネジャーに相談し、どんなサービスが受けられるのか、どういったものを選べば良いのかを相談するところから始めるのが良いですね。
まとめ
今回は福祉・介護サービスにおける措置制度と契約制度の違い、遷移の流れ、メリット・デメリットなどを紹介しました。ポイントをおさらいしましょう。
- 措置制度は戦後日本を支えた高齢者介護や保育の基盤となった制度。行政による審査が必要。
- 契約制度は利用者自らが利用するサービスを希望できる制度
- 本当に必要なサービス、利用者の権利保障などQOLの観点から契約制度がメインの時代になった
以上3点が本記事の要点となります。
「措置制度と契約制度の違いが分からない」
「どうして契約制度が主流になったの?」
といった方は、この記事を参考に、それぞれの違いや遷移を理解することで、より適切な福祉サービスが受けられるようになるでしょう。