カウンセリングやセラピーなどといった心理療法には、「ラポール」と呼ばれる患者との信頼関係があります。
ラポールは、心理療法だけではなく、交渉や営業などといったビジネス面でも形成される信頼関係ですが、介護現場においてもラポールの形成はとても重要です。
しかし、ラポールという言葉を聞いてもピンとこないという方も多いですよね。
そこで今回は、ラポール形成とはどういったものなのか、形成の仕方などもお話ししていきます。
介護現場で役立つ情報ばかりなので、ぜひ読みすすめてくださいね。
技法にこだわらない信頼関係作りのポイント3つ
まずは利用者との信頼関係を築くうえで、気をつけなくてはいけない基本的なポイントにふれていきましょう。
技法にこだわらず、信頼関係を作ることもできるので、参考にしてくださいね。
1.正直に・素直に接しよう
護士として利用者や入居者の方に対しての信頼関係は必要不可欠です。
スムーズな介護を行う上で大切なことの一つといえるでしょう。
では具体的にどういったことが必要となるのでしょうか。
利用者の方と信頼関係については、基本的なことは「正直に接する」ことになるでしょう。
状況によっては臨機応変な対応が必要とされます。
しかし、基本的には利用者の方の意思を尊重して、ウソがないような対応が信頼関係を築くことになります。
もちろん、全てについてウソがなく正直にといったことが出来ないのもありますが、基本的な姿勢としては、素直な気持ちを忘れずに、素直さが必要といったことになるのではないでしょうか。
その利用者や居者の環境や家族の方などの背景などもありますので、十分にそういった個人的な事情を配慮した上での対応といったことが必要となります。
特に転職などで新しい職場でまったく利用者や入居者の方の事が分からない時などは信頼関係がありませんので、まずは、関係を作ることが大切でしょう。
信頼関係が築けると、利用者や入居者の方に対する介護がスムーズに行うことができるようになります。
知っている人や親せきや両親に接する感じで身近な人を考えながら対応すると、親近感も湧いて信頼関係が生まれやすいかもしれません。
2.相性が合わない場合は相談する
どんなに努力して親しいやすい対応をしても、相性があることがあります。
介護の仕事をする上でどういった人に対しても同じように介護や介助を行う必要性があるので、特に苦手意識を持たないように努力はします。
しかし、どんなに工夫して頑張っても残念ながら相性といったものは存在してしまいます。
ですので、そういった時は落ち込まず、素直に相性で悪いのかと割り切って考えることも大切です。
どうしても、暴力的な傾向が強くなって、スムーズな介護が出来ない場合は、責任者などに一度相談すると良いかもしれません。
利用者の方にとっても、精神的な負担となります。
訪問介護など一人で介護を行う場合などは、こういった状況が続いて必要とされる介助や介護が出来ない場合は特に相談して対応を考える必要があります。
施設での介護の場合は、人が変わると案外スムーズに行う事ができるケースも多い為、その時だけ人が変わることも良いかもしれません。
また、その利用者や入居者の身体状況によっても違ってくるので、体調などの様子を見ながら行うと良いでしょう。
3.苦手意識を持たないようにする
介護以外でもそうですが、人はそれぞれ、人付き合いなどでは好みの合う合わないなどがあります。
なんとなく、好き嫌いといったものは正直あると思います。
しかし、介護の仕事をする上では、自分の好み、好き嫌いはあったとしても、とりあえずはどんな人でも合わせる必要性があります。
例えば、苦手意識のある人の対応で、つい、苦手と思ってしまうと、そういった事が顔に出たり、態度に表れることがあります。
そうなると、相手も同様に思われてしまい、自分の事をいやに思ったり、拒否をしたりすることにつながります。
どんな人でも自分から「苦手意識」を持たないようにすることで利用者や入居者の方の距離が少なくなるのではないでしょうか。
ラポール形成とは
技法を使わず、一生懸命利用者と接していてもうまくいかない・・・といった経験がある方も多いですよね。
そのような場合は、技法を用いることも大切です。
心理療法の技法でもあるラポール形成は、今よりもっと良好な関係を築くための技法になります。
そこで、ラポールとはどういった技法なのかなど詳しくご紹介していきましょう。
ラポール=関係性
「ラポール」はフランス語で「架け橋」を意味します。
一般的に信頼関係と聞くと「約束を守る」や医者や弁護士のように社会的に認められているといったことを思い浮かべる方も多いでしょう。
しかし、ラポールは相手と心と心でつながり、お互いの内面的な関性を築くことをいいます。
ラポールよって、次の3つのような関係性が生まれます。
- 警戒心がなくなる
- 味方のような好感を持つ
- 安心感や親近感を持つ
相手の地位などは関係なく、「あの人は私のことをわかってくれる」などといった内面的な面でつながる関係性がラポールなのです。
ラポール形成が重要な理由
ではどうして利用者とラポール形成をすることが重要なのでしょうか。
実は、介護現場に限らずラポールができていないと、次の3つのような支障が生まれやすくなります。
- 相手に説得力などがなくなる
- 利用者、同僚とぎくしゃくした関係になる
- 話しを聞いてくれない
特に、対利用者の場合は自分のお世話をしてくれる人が、安心できないと感じると精神的にも疲れてしまいます。
それにより、たとえ必要なケアであっても、いやだと感じる方も少なくないでしょう。
ラポールは、心と心を通わせた信頼関係を築くことで、相手に対して説得力や安心感を与え、よりコミュニケーションを高めるために必要なのです。
ラポール形成の3つのコツ
ただ、ラポールの技法を用いればいいというわけではありません。
技法を利用する前に、ラポール形成には必要な考え方があるので3つのポイントをご紹介します。
ぜひ参考にしてください。
1.相手を尊重する
相手には、相手の価値観があります。
今まで生きてきた中で見たり聞いたり体験してきたことが、相手の考え方や世界観を作りだしています。
しかし、そこへ「私の言う通りに動いてほしい」などといったエゴで接しては、ラポールを築くことができません。
まずは、相手の考え方や価値観、相手が持つ正解を尊重することが大切です。
そのためには、相手の意見や気持ちに耳を傾けましょう。
たとえ、あなたにとって興味のない話であっても相手の話したい事を聞くということが大切です。
2.類似性の法則
相手と自分の似ている部分など、共通点を持つことも大切です。
人は、自分の好みや考え方が似ている、育った場所や境遇が似ているなどといった場合、安心感や好感を持ちやすいという、「類似性の法則」を持っています。
例えば、出身地が同じであったり、同じスポーツをしていた、好きなアーティストが一緒などいった共通点があれば、親近感を持ち親和性が高くなります。
何か1つでも相手との共通点を見つけることで、類似性の法則を利用しラポール形成することできるのです。
3.ペーシングとリーディング
類似性の法則を利用し、相手との距離感を縮めるため、相手に合わせていくことを「ペーシング」といいます。
これは、ラポール形成のためには必要な部分でもあります。
ペーシングでは、相手を尊重し安心感や好感を持ってもらうために相手の言語や動作や表情などに合わせてラポール形成をしていくようにします。
ラポール形成された後は、自分の目的に向けてコミュニケーションを取るため、会話をリードしていく「リーディング」を行います。
ビジネスの現場では、よくペーシングとリーディングはセットで扱われています。
介護の現場では、例えば利用者が入浴拒否をした場合、ペーシングによって相手の意見を受け入れるなどしてラポール形成をします。
その後、入浴ではなくシャワーを促すなど、リーディングによって自分の意見を提案していくのです。
ただ相手の意見に合わせるのではなく、相手を尊重したうえで自分の意見も含めてよりよい解決策を見つけるために、ペーシングの考え方は必須になります。
ペーシングの具体的方法
では、ここからはラポール形成に必須のペーシングの方法についてお話ししていきましょう。
3つの技術が必要になるので、確認してくださいね。
相手の動きに合わせてみよう…ミラーリング
相手の次の3つの動作に合わせることを、ミラーリングといいます。
- 姿勢、動き
- ジェスチャー
- 表情
鏡のように、相手の動作や表情をまねていきます。
例えば、相手が姿勢正しく座っているのであれば自分も姿勢を正しくする、腕を組んでいるようであれば、気づかれないように同じく手を組むなど、相手が行うボディランゲージをまねるように、そして相手に気づかれないように合わせていくようにしましょう。
表情はまじめな顔か、笑顔か、呼吸は浅いのか深いのかも合わせていきます。
ただ、あからさまにまねているのがわかってしまうと、相手も不愉快になるケースも考えられるので、さりげなくが大切です。
言葉以外の部分を合わせてみよう…マッチング
視覚部分であるミラーリングに比べ、聴覚情報に合わせるやり方としてマッチングがあります。
特に次の3つのポイントを合わせるようにしましょう。
- 声のトーン
- テンポ、リズム
- ボリューム
例えば、静かに話しているのにいきなり大きな声を出しては、相手も不快に思います。
また、相手が急いで話しているのにスローテンポで会話をすると、イライラさせてしまうでしょう。
特に電話で会話するときには、声のトーンやテンポ、ボリュームはとても重要な部分になります。
相手の声の様子や空気感などを理解し、相手に合わせた会話の仕方をすることが重要です。
復唱を活用しよう…バックトラッキング
相手が言った言葉を復唱するバックトラッキングを行うことで、「私は、あなたの話しを理解している」と伝えることができ、ラポール形成に役立ちます。
復唱する例としては、
自分:「一緒に買い物に行って楽しかったんだね。それはよかったね。」
などといった流れです。
相手が使った言葉をそのまま使うことが大切です。
自分:「お孫さんとショッピングに行くと、楽しいよね。」
といったように、意味は同じでも言葉を変えてしまうと「この人に私が言いたいことが伝わっていない」と感じてしまうことがあります。
バックトラッキングでは、事実や感情はそのまま言葉を変えず繰り返すことが大切です。
まとめ
利用者の方との相性もありますが、日々のやり取りの中でその人の好みなどを感じとって、離しやすいように接するなどすることで、少しずつ信頼関係を築くことができます。
その人が何を望んでいるかを考えて、決して自分の押し付けにならないように接することで、始めは難しい対応の方も心を開いてくれるでしょう。
特に、新しい利用者や入居者の方など情報が少ない方などは、少しづつ好みなどを確認しながらまずは、信頼関係を築き上げると良いのではないでしょうか。
ご紹介したラポール形成の手法は、相談援助の専門家が活用するコミュニケーションの基本技術の一つです。
難しいところもあるかと思いますが、ぜひ参考にしてみてください。