介護現場で度々問題視される高齢者虐待。そのひとつが身体拘束です。
虐待が悪いことはみんなが知っていることです。
しかし、虐待という意識がなく行っている身体拘束があることをご存知でしょうか?
この記事を読んでいるということは、少なからず高齢者虐待について真剣に考えて下さっているということだと思います。
そこで今回は、そういった身体拘束のキーワードである『3ロック』という考え方について現状と解決策を解説していきます。
高齢者虐待の定義とは?
高齢者の虐待は、2006年より施工された「高齢者虐待防止法」により、
- 家族や親族、同居人など養護者による虐待
- 高齢者施設など、介護施設従事者による虐待
といった2つに分けて策定されています。
参照:高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律 | e-Gov法令検索
こういった高齢者と身近で接する機会が多い者より、身体的にも経済的にも追い詰められてしまうことを高齢者虐待としています。
では具体的にどのような虐待行為があるのか、見ていきましょう。
高齢者介護の虐待は5種類に分類できる
高齢者への虐待の種類としては、次の5つがあります。
- 身体的虐待
- ネグレクト
- 心理的虐待
- 性的虐待
- 経済的虐待
それぞれについて詳しく解説していきます。
1.身体的虐待
身体的虐待とは殴る・蹴るなどといった暴力によって高齢者がケガをしてしまう、もしくはケガをしてしまうと想定できる暴力をふるうことを言います。
高齢者を“縛り付け”、本人が意図した行動ができないよう抑制する行為のことも指します。
また、意図的に身動きが取れない状況に高齢者を置いておく、部屋に閉じ込めるといった場合も、身体的虐待に入ります。
例えば、病院では点滴治療や経管栄養を実施する際に、自己抜去を防ぐため抑制用ミトンによる手指の抑制・手首をベッドに縛り付けるなどの物理的な身体拘束が実際に行われています。
その他にも、
- 介助をしているときに言うことを聞いてくれないので、つねる・平手打ちをした
- 暴言を吐かれたので、腹が立って殴った
- 動き回って大変なので、ベッドに拘束をした(身体的拘束)
といったものが代表的な例でしょう。
特に身体拘束は、身体的虐待だけではなく、後で解説するネグレクトの引き金になってしまう可能性が高いです。
また、身体的虐待に分類されるものの、後に説明するスピーチロックなどによって、心理的や経済的虐待のための手法として行われることがあります。
身体拘束は、それだけではなくさまざまな虐待と複合的に絡むケースが多いのが特徴です。
過去はこの物理的拘束について身体拘束と定義していましたが、実は現在、精神的もしくは医学的に高齢者を抑制することも身体拘束に含まれることとして禁止の対象としているのです。
2.介護・世話の放棄・放任(ネグレクト)
よく幼児に対して聞く虐待の種類として、ネグレクトがありますね。
高齢者に対しても、介護が必要な高齢者の世話を全くしないなどといった場合、ネグレクトと判断されます。
- 十分な食事を与えない
- 長時間放置し、世話をしない
- 不衛生な状態で放置すること
主に上記のような状態であることをネグレクトとされますが、中には貧困など経済的な理由からしたくても十分なお世話ができないといったケースもあります。
3.心理的虐待
精神的に高齢者を追い詰める行為を精神的虐待とされます。
- 高齢者に対し暴言を吐く
- 高齢者を脅す
- いやがらせをする
- 無視をする
といった行為は、すべて精神的虐待に当たります。
高齢者の中には、認知症などによって意思の疎通がうまくいかないといったケースも少なくありません。
そういった場合に、起こりやすい虐待のひとつに心理的虐待があります。
4.性的虐待
本人との合意もなく、無理にわいせつな行為をすることやさせることを性的虐待となります。
おむつ替えの時や入浴後など、意図なく下半身を長時間露出したままにさせるなど、本人の尊厳を損なうような行為は、立派な虐待です。
5.経済的虐待
高齢者をお世話している家族がつい悪気なく行ってしまうのが、高齢者本人の財産を勝手に流用してしまうことです。
- 日常生活に必要なお金を渡さない
- 財産を無断で処分してしまう
- 貯金などを勝手に使う
といった行為は、経済的虐待に当たります。
3ロックとは、3つの悪しき方法による身体拘束
身体拘束には、
- フィジカルロック
- ドラックロック
- スピーチロック
という3種類の拘束があります。
これを通称「3ロック」と呼んでいます。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
1.フィジカルロックとは
フィジカルロックとは、外見からわかりにくいスピーチロック・ドラッグロックに比べ、道具などを利用して高齢者の動きを制限する方法をいいます。
身体拘束としてはわかりやすく、代表的なものといえますね。
医学的に高齢者の生命や身体が危険になるといった場合は、フィジカルロックは認められていますが、緊急性がある・やむを得ない場合を除く身体拘束は、すべて虐待の一部になります。
2.ドラッグロックとは
眠剤や安定剤など薬によっては、過剰投与することによって高齢者の行動を抑えてしまいます。
そういった薬をわざと過剰投与し、夜の徘徊や頻回にある排泄などを制限することを、ドラッグロックといいます。
3.スピーチロックとは
「○○しないで」など、高齢者の行動を不必要に制限してしまう拘束を、スピーチロックといいます。
中には、「どうしてそんなことをするんだ!」といった、行動をとがめるような言動もスピーチロックになります。
身体拘束によって生じる3つの問題点
身体拘束は、高齢者の動きを封じるため、医療行為をしなくてはいけないといった場合に必要になるケースも多いです。
しかし、必要性がありながらも身体拘束が与える影響は、高齢者にとってもその家族やスタッフにとっても大きいものになります。
身体拘束が与える影響の3つの問題点についてお話ししましょう。
1.精神的な苦痛
身体拘束自体、高齢者にとっては大きな苦痛になることが多いです。
特に、やむを得ない状況ではないのにも関わらず行われる身体拘束は、不当な扱いになり不安や怒りを抱えるでしょう。
時に、身体拘束は屈辱を感じ精神的苦痛を与えてしまいます。
拘束をされた高齢者にとって、拘束は人権の侵害に当たり、自尊心を傷つけかねない行為なのです。
2.身体的機能の低下
薬によって動きを制限した場合など、拘束が長時間に及んだ場合は、身体的機能を損なう恐れがあります。
特に、道具を使った拘束は、高齢者の動きを狭め筋肉低下や関節の拘縮などを引き起こし、今よりも介護が必要になる可能性が高いです。
高齢者の身体的な機能低下は寝たきりになり、より家族の負担も増える結果になる可能性があります。
3.家族やスタッフなどへの悪影響
もちろん、必要な拘束も存在します。
しかし、自分の家族が拘束されている姿を見て、後悔や苦悩などといった苦痛を伴う家族も少なくありません。
時には、手を拘束された高齢者を見て涙を流す家族もいます。
また、スタッフとしても、拘束されている利用者を見るのは痛ましく、後悔やトラウマを抱えてしまうケースも多いです。
拘束は、必要な場面があるものの、高齢者だけではなく周囲にも大きく影響することがある行為になります。
介護現場で3ロックによる身体拘束が起きやすい理由
ではなぜ、介護現場で身体拘束が起きてしまうのでしょうか。
その理由について詳しく考えてみたいと思います。
人手不足のため
介護現場における3ロックについては、人手不足の状態が続き、1人で介護をおこなっている時などにおこり得るケースが多いです。
慢性的な人手不足の為、1人の時にどういった風に対応すべきか戸惑うケースが多くあると考えられます。
危険防止を考えてどうすべきか考えると、こういった「拘束」という行為を知らぬうちに取ってしまう可能性もあります。
身体拘束しているという自覚がないため
明らかに物理的な身体拘束といったものはないとしても、特に言葉によるスピーチロックについては自覚なしに行われているといったことがあるかもしれません。
身体拘束においては利用者の方の安全性を考えて行われてしまう事があり、言葉による拘束についても、自分ではそれが拘束と分からなく習慣的に使用してるケースも起こりえます。
また疑問に感じても黙認してしまうこともあるでしょう。
日常的に漫然とスピーチロックやドラッグロックが行われていると、そういった拘束自体について検証したり、考えたりすることが少なくなってくることもあるでしょう。
判断が難しい部分があるのは事実
また、フィジカルロックは見た目にも分かりやすいものですが、特にスピーチロックについては、判断が難しい部分があるので、利用者も介護者としても気が付かない事もあるかもしれません。
仮に身体拘束に当てはまると考えられる対応であっても、安全最優先で…と意見を持っている職員も少なくないでしょう。
「拘束」について常に意識して行動しよう
要するに高齢者の自由の意思の行動を規制するものであれば「拘束」に当てはまる為、安全性を考えたものであったとしても「拘束行為」となるものであれば、違う方法を考える必要性があるのです。
意識しない拘束は、ある意味で怖いですね
介護現場で3ロックをなくすためには?
人手不足の為、言葉などについては強い口調になってしまうことがあるかもしれません。
しかし、高齢者の方の自由な意思においての行動を規制するといった行為は身体拘束に当たります。
なくす工夫が必要で、そのためには、まずスタッフ全員で話し合ってみてください。
まずはどういった行為が拘束にあてはまるかを考えることから始めます。
そして実際にそのような事が行われていないか、といった検証があります。
こういった、職場全体の事と考える事によって全ての職員の意識付けをおこなっていきます。
また共通の認識を持つことでお互いを拘束に対する規制を行うことで、こういた介護現場における3ロックを減少させ、使うことがない介護を行うことができるのではないでしょうか。
考える時間も無駄と思ってしまう人がいれば危険信号。一度みんなで考えるように少しの時間でも作ることが大切です
現在介護現場に勤務していて、「介護の拘束についての勉強会」に参加した後の考察
現在介護施設に勤務していますが、特養、デイサービス、グループホーム等のどの施設についても、人手不足の問題は共通だと思います。
そこで参加した勉強会では事例を取り上げつつ、その背景についても探りながら、どのように取り組めば今後改善されるのか、といったものになりました。
ある事例では、グループホームでの事で普段は熱心に勤務しているリーダー的な人についての物で、言葉による拘束によるものでした。
認知症の方に対して、大きな声を出して威圧的ないい方で遠くから指示的な発言をした、といったものでした。
よくある出来事のようなもので日常的になっていて、他のスタッフも黙認しているような状態といったことです。
こういった勉強会を開くことで、改めて言葉による拘束と介護技術や介護方法について見つめ直す機会になると思います。
施設内で以下のようなことが共通理解として進んだ部分がありました。
- 実際に自分の介護についても見直す事ができる
- 他の人はどういった対応でどういった考えがあるのか知れる機会でもある
- 現実的に、つい忙しいと「言葉の拘束」に頼ってしまう現実も一部ある
現実、認知症の方について不安にならないように、拘束ではありませんが、状態が落ち着くような物を探しだして、それについてのレクリエーションで時間をつなぐ事もあります(例えば唄とか、手を握って隣に座ってお話をするなど)。
少ない職員で、全体を見る時にそういった対応をする必要がある時もあるので、「その人らしい、その人の意見を尊重する」といった事については時と場合によっては本当に難しい局面があります。
体拘束にあたる行為がある場合は、それについて考え直し、他の介護のやり方や介護の職員の配置の見直しなどといった対策も必要となってきます。
また、安全面を考えて(転倒のリスク)拘束のような行為を一部行う部分があるのは、難しいことですが仕方がない部分もあると考えてます。
ただ、「完全に拘束がない介護」を実施するには、もっと現場の職員が増えて、介護の仕事に対する世間の認識も上がらないと難しいと私は考えてしまいます。
現在行われている介護について、一度職場全体で考えることや、勉強会を開く事で職場全員の認識としてとらえることは大切だと強く感じました。
介護現場の3ロックについてのまとめ
以上3つの身体拘束(スリーロック)についての基礎知識や実態、考察等について紹介しました。
拘束については、介護者の一方的な考えによって行われるものになるため、基本的には拘束の排除といった対応が望ましい姿となります。
拘束によって一時的に規制したとしても根本的な解決にはならないので、そういった拘束をしてしまうような状況について考えることやその利用者の事について考えることで、利用者も落ち着き、拘束がなく介助ができることにつながっていくのではないでしょうか。