ADL(日常生活動作)IADL(手段的日常生活動作)
ADLとIADL、この2つは介護をする上で大切な指標となります。
介護度を判定する上で大切な材料になりますし、介護計画・支援をするときに、高齢者がどのような状態に置かれているのかということがすぐに理解できるのです。では、ADL(日常生活動作)とIADL(手段的日常生活動作)の2つの違いって何なのでしょうか。
また、この2つが使われることの意味や考え方を知り、高齢者が満足いく生活ができるためには、私たち介護専門職がどのような支援を心がければいいのでしょうか。
ADL(日常生活動作)とは?
日常生活をしているうえで、食事・排泄・入浴・移動・整容など、人間が必ず行っている動作を表したものであり、介護やリハビリの世界でよく使われる言葉です。
私たちは生活をしている上でこのようなことを意識して過ごすことはないですが、高齢になると身体の機能が弱くなってきます。その影響でADL(日常生活動作)が出来なくなる、できるまでに時間がかかることがあります。
ADL(日常生活動作)は、介護が必要かどうかを決める大切な判断基準になるのです。
ADLを評価することで適切な介助法が見えてくる
ADLの基準は介護士やケアマネージャーなどが独断で決めることはできません。FIM(機能的自立度評価表)という評価方法があります。
FIMとは、生活を送る上で基本的な動作を把握するためのものです。運動・認知に関する18項目からなり、それぞれを介護量に応じた7段階評価で行います。
どんな疾患にも対応でき、看護師やリハビリ職以外の職種でも評価をすることができますし、ADL評価法の中では最も妥当性・信頼性が高いと言われています。
ADLの項目を短時間で理解することができるため、支援計画を立案し、家族にも説明しやすくなります。FIMを使えば、その人に適した介助法が分かりやすく見えてくるのです。
運動・認知に関する18項目
運動項目
セルフケア(5項目)
- 食事 口に運ぶ・集める・飲み込む、咀嚼・嚥下ができているか
- 整容 口腔ケア・手洗い・洗顔・整髪・髭剃り・化粧などの身支度ができるか
- 清拭 身体を洗う・拭く動作ができるか。身体の部位のうち何か所洗えたか
- 更衣上半身の服の着脱(義肢用具も含む)
- 更衣下半身の服の着脱(義肢用具も含む)
排泄コントロール(3項目)
- トイレ動作 排泄の前後で服を着脱でき、陰部を清潔に保てるか(3項目)
- 排尿管理(タイミングに合わせて括約筋を緩められるか?失敗したものを片付ける手間や汚したものを伝え、手伝うことができるか。)
- 排便管理(タイミングに合わせて括約筋を緩められるか?失敗したものを片付ける手間や汚したものを伝え、手伝うことができるか。)
移乗(3項目)
- ベッド・椅子・車椅子への移乗 往復すべての動作 歩行が移動手段の場合は起き上がり動作も含める
- トイレへの移乗 便器への移乗、便器から離れる
- 浴槽移乗 浴槽への出入り
移動(2項目)
- 歩行状態 立位であれば歩行状態、車椅子であれば移動の様子
- 階段昇降 屋内にある12~14段の階段で評価
認知項目
コミュニケーション(2項目)
- 言葉の理解 視覚・聴覚からどんな方法でどの程度理解しているか
- 表出 はっきりと自分の思いを伝えるか
社会認知(3項目)
- 社会交流 周りの人と関わる行為・動作 相手に迷惑か?自分の言動で相手がどう思うか?
- 問題解決 日常生活の問題をどう解決するか
- 記憶 日常的に行う行動を覚えているか よく会う人が分かる 他人から言われたことを実行できるか
評価7段階について
上記18項目ひとつひとつに1~7点までの評価をつけます。
7点が完全自立、1点が全介助
最高点が126満点(完全自立)、最低点が18点(全介助)
IADL(手段的日常生活動作)とは?
日常生活を送る上で、ADLより複雑で高度な動作のことをいいます。それはどのようなことなのでしょうか?詳しくみていきましょう。
主に次のような項目に分けられています。
- 電話を使用できるか(電話番号を調べるも含む)
- 買い物
- 食事の準備をする(献立を考える
- 家事(自分が必要な範囲を行えるか)
- 洗濯
- 移動手段(車の運転・公共手段で移動)
- 服薬管理
- 金銭管理
要するに、IADLは“生活するときに必ず必要となる手段”なのです。
過去には、基本的なADLさえできていれば、IADLは“できるもの”と思われてきました。しかし現在の調査項目では、高齢者の自立度を測定するときに、ADLと同時にIADLが要とされています。
なぜADL・IADLの二つを合わせることが必要なのでしょうか。その理由を次に書きます。
ADL・IADLの2つを考える上で大切な事
実はADLにある能力ができていても、IADLにある家事・洗濯・金銭管理を必ず実際にしているのか?というと、できていなかった。という事例があったのです。
たとえば、足腰が弱いなどの疾患があったものの、生活をする上での基本的な動作ができるため、買い物ができると判断されて支援を行わなかった方がいました。しかし、実際には栄養失調になっていたのです。
なぜかというと、近くのスーパーへ買い物に行けるまでの歩行機能があるはずなのに、自分でスーパーに行かずにいたということだったのです。そのため、IADLの『買い物』や『金銭管理』という項目がここで重要になってくるのです。
要するに、生活をするに値するほどの身体を動かせる能力を持っていても、実際に自分で生活をしていく力がなければ、生活の質や身体の機能は衰えてしまうのです。
このように、介護支援をしていくには、ADLの機能が『できる』と思っていても、日常生活で実際に『できている』も一緒に考えていくことが大切です。
ADL・IADL機能を維持して満足度の高い生活を送るには
ADL・IADLの機能を少しでも長く維持でき、安心て満足できる生活を送るにはどうしたらいいのでしょうか。
ADL・IADLを調査していても、調査中の高齢者ご本人の体調と、普段の体調と、その日によって判定が違って出る場合があります。支援をするご家族やケアスタッフは、長い目でADLを見守る姿勢が、正しい評価に繋がります。
また、ご自分ができることはしてもらうことで、自尊心が芽生え、ADL機能の維持・向上ができます。ADL機能が衰えてしまったところをケアサポートすることで、身体が不自由でも、自分の意思で質の高い満足した生活を送ることができるのです。
ご本人の満足できるケアをするためにも、ADL・IADLの正しい審査・判定が大切です。