皆さんは、近年新設の薬学部がどんどん増えてきていることをご存知でしょうか。そのためか、薬学部への入学のハードルがどんどん下がってきております。
必然的に薬学部同士で大きな学力差が生じる場合があり、そこに在籍する学生のレベルにも大きな差があります。
昔は、町中の薬局にいる薬剤師は「町の科学者」と呼ばれ、薬の事だけでなく小中学生の理科の宿題をお手伝いしたり、健康に関わること以外でも地域に関わっていたそうです。
現在の薬学部から誕生した薬剤師たちは、そこまで対応できるのでしょうか。今回は新設薬学部卒の筆者目線から、新設の薬学部の現状について紹介します。
新設薬学部って他の大学とどう違う?
特に新しい大学でも、学ぶカリキュラムは大きく変わりません。なぜなら薬剤師になりたい学生たちは一定の過程を修めなければならないため、基本的に同じカリキュラムに沿って授業が組まれます。
実習や研究に関してもそうです。用意されている内容は変わりません。しかし、新設大学に限らず私立薬学部は国家試験を意識した授業であることが多いです。
毎期末の考査は国家試験の過去問から出ることもあります。しかし、学生のレベルはその大学の偏差値で大きく変化します。
入試は定員割れを起こしているようなケースですと、いわゆる「名前を書くだけで合格」のパターンもあります。
そのような場合、1回生は一番人数が多く、そして学力に不安のある学生が多いです。
しかし2回生に進級できるのは1回生の頃ほとんど完璧に単位を取れた学生のみですので、「会話も成り立たないレベルの」学生たちは大抵ここで留年となります。
つまり、レベルの低い薬学部だとしても、ストレートで卒業することができる学生の場合、ほとんど問題なく国家試験合格レベルに達しています。
ただ、その人数は偏差値の高い大学よりもかなり少ないです。
大学で研究はしてきた?
大学での卒業研究は通常通り行います。卒業論文ももちろん単位に含まれます。
しかし、大学によっては学生を「卒業研究に重きを置かせる学生」「国家試験の勉強に重きを置かせる学生」に分けることがあります。その基準はもちろん成績です。
卒業研究をして、論文を書いていると明らかに学力不足で国家試験(卒業試験)に落ちてしまう学生や、または本人が勉強をしたいと強く申し出るパターンを身近で見たことがあります。
国家試験の勉強に重きを置く学生では、卒業研究は1週間程度、論文は勉強の合間に書いて国家試験後に提出であったりするようです。
つまり、薬学部出身でも昔のように実験・研究の知識がある薬剤師は減ってきているように思います。
国家試験関係はどんな感じ?
新設薬学部の国家試験の合格率は、次年度の入学志願者数にダイレクトに影響してきます。そのため、大学運営側は国家試験の合格率を上げようと躍起になります。
しかし、新設薬学部の学生たちは学力に不安があるため、今の6回生全員を受験させてしまうと合格率が下がってしまう懸念があります。そこで、6回生たちに卒業試験を課します。
そこでおそらく国家試験で落ちてしまうであろう成績下位者たちをふるいにかけ、卒業保留にします。
そうすることで国家試験を受験するのは合格できるであろう成績上位者のみになり、国家試験の合格率は下がりにくくなります。
新設薬学部で一番留年率が高いのはこの局面だと考えます。卒業試験は数回にわたって行われることが多く、すべて合格ライン以上にならなければ卒業をさせてもらえず、留年となります。
そして、次年度は半期(9月)で卒業させ、「既卒生」にします。どの大学でも現役生と既卒生では現役生のほうが合格率が高い傾向にあるのは、このような理由があると考えます。
まとめ
今回はレベルの低いとされる新設薬学部の内部事情について解説しました。
筆者も新設薬学部出身でしたので、当時の状況や卒業後の同級生から聞いた話をもとにリアルにお話しさせていただきました。
いわゆる新設薬学部でも、勉強する意識をしっかり持ち、周囲に流されずコツコツ勉強できれば、国家試験をストレートに合格するだけの学力は身に付きます。
教授たちや大学運営側は、自分の大学の学生が1人でも多く薬剤師になってほしいと考え、協力は惜しまないですので、あとは学生の意識次第であると考えます。
薬剤師の先輩方は、例えば実務実習やインターンシップで学生たちと触れ合うときがあれば、学生たちにアドバイスをしてあげてください。
国家試験にはその年に起こったことやよく出る薬について問われることが多いため、リアルな現場の経験がその学生を国家試験合格に導く可能性も高いです。
薬剤師を志す学生たちが低レベルと言われないよう、業界全体でフォローしていけたらいいなと考えます。