皆さんは学生時代、どんな勉強をしたか覚えていますか。薬剤師になるためには、薬学部で定められたカリキュラムを履修し、国家試験に合格する必要があります。
最近は薬学部の新設が多く、薬剤師への門は以前に比較して広く開かれるようになりました。厳しい入試戦争は少なくなり、大学を選ばなければ誰でも薬学部に入学できる時代になりました。
そこで問題になってくるのは、薬学生の学力低下です。薬学部の入試の難易度は下がっても、卒業時に受験する国家試験はどの大学を卒業しても同じです。
筆者も6年制薬学部を卒業して、現在薬剤師として勤務しております。リアルな経験談などを交え、学力低下が叫ばれるイマドキの薬剤師の卵たちがどんな苦労をしているのかご紹介します。
留年の危機
薬学部には、前述の通り簡単に入学することが出来ます。しかしそれは、偏差値の高い昔ながらの薬学部や、学費の安い国公立の薬学部には当てはまらないことです。
奨学金を利用できたり、両親が経済的に余裕があったりすると、多少高校までの授業についていけなくとも私立の新設薬学部には入学できます。
薬学部卒の方はご存知かと思いますが、薬学部は他の学部と異なりほぼ全ての講義や実習が必修科目となっています。
大学によりその単位を取得する期限の基準は異なるものの、すべて履修しなければ進級することが出来ません。
もし1つでも履修漏れがあると?1つでも試験の成績が「不可」だと?こうなると残念ながら留年となります。そのため、薬学部の学生たちは留年することが多いのです。
薬学部は1年間の学費が膨大です。大学によって1年間で300万円を超える大学も存在します。1年留年することで、経済的に困難になってしまい退学を余儀なくされる学生も一定数存在します。
卒業の危機
薬学部は毎年「国家試験合格率」というデータを公開しています。これが上がると次の年の入学志願者数に直接影響してくるため、大学側はこのステータスを上げようと必死です。
しかし新設薬学部の6年生たちは少し学力に心配がある…。このまま受験させたら合格率が半分を割ってしまうかもしれない…。
そう考えた大学が行うのは「卒業保留」です。薬剤師国家試験の受験資格は、「薬学部を卒業済みまたは卒業見込み」の場合です。
その時点で「卒業見込み」を受験生から奪ってしまえば、その受験生はその年国家試験を受けることが不可能になってしまいます。
こうして成績の振るわない6年生は、それまできちんと単位を取得していたとしても、大学により受験資格を奪われてしまうのです。
その後は半年後に卒業になるか、「その年の国家試験後」に卒業試験の再試験を行い卒業させるかなど様々ですが、最速で薬剤師になるのは1年後です。
実際受験することが出来るのは、成績上位者だけなのです。そうすることで「現役生」の合格率を高く維持することが出来るというカラクリです。
国家試験
無事に薬学部を卒業できても、最後に国家試験が待ち構えています。6年制最初でとても簡単だった97回、最大難度だった99回、難しかったけれど補正がかなり入った100回など年によって運も大きく関わる国家試験ですが、これに受かるとやっと夢にまで見た薬剤師になれます。
もしこれに落ちてしまった場合は、1年間国家試験浪人をすることになります。
専門の予備校に通ったり、勤務予定の企業でお手伝いとして働きながら勉強したりと、色々な浪人生を見て参りましたが、かなり精神的に辛い戦いをしていた方が多かったです。
まとめ
薬学部に入ったのはいいけれど、授業についていけなくなったり経済的に厳しくなってきたりと、薬剤師への道を断念する学生が増えています。
薬学部の授業はとにかく机に向かい、教授の話を聞き洩らさず、授業後まで自ら学ばなければならない場面が多いです。
高校までに自己学習の習慣がしっかりついていないと、進級や卒業は難しいでしょう。
薬学部では一定以上の学力や考える力が求められますが、薬学部乱立で入学のハードルが下がったことが原因で、もともと薬学部の講義についていけないレベルの学生の入学が可能になってまいりました。
そのため、学生の面倒を見る教授たちも、入学した学生たちもどちらにも負担がかかっている場合が多いです。大学運営側がしっかり入学者を絞れば、不幸な学生がこれ以上増えることも防げると考えます。
薬剤師は人の命を預かる大変責任の伴う職業です。薬学生の皆さんにはしっかり大学で学べることを学び、研究など大学でしか経験のできないことをしてきて欲しいと思います。