介護業界へのAI導入が検討されています。
その背景と課題をお伝えします。
現在、2025年を目処に介護業界へのAI(人工知能)の導入が検討されています。
介護職は人と人が直接触れあう仕事であるため、最先端技術のAIの組み合わせに何だかイメージがつきにくい方もいるのではないでしょうか?
- 現在開発中の介護用AIとは一体どんなもの?
- 介護用AIが開発される背景には何があるの?
- 現場の介護スタッフはAI導入をどう受け止めている?
人工知能が作るケアプラン?
現在の介護現場における「ケアプランの作成」に介護用AIの導入が検討されています。ご利用者の情報をコンピューターに入力しさえすれば、基本となるケアプランをAIが作成してくれるというものです。
介護用AIの開発企業「シーディーアイ(CDI)」について
官民ファンドとは…
国の政策に基づいて、日本政府と民間が特定の目的のために、期限付きで出資する「政府系ファンド」のことです。もともとは、安倍政権が経済対策のために積極的に取り入れた政策と言われています。
産業革新機構とは…
次世代の国富を担う産業の育成を目的として制定された「官民ファンド」のことです。従来の枠にとらわれない産業構造の大きな転換が求められています。
2017年3月、度産業革新機構は「株式会社シーディーアイ」を設立しました。株式会社シーディーアイは、介護における過去のデータをAI(人工知能)に学習させて、利用者に合ったケアプランを自動作成できるソフトの開発に力を入れています。
介護現場のコストや労力を減らし、働きやすく効率のいい環境を作ることが、この取り組みの主な目的です。現在、介護業界大手のツクイ、セントケアホールディングス、日揮などが資本参加しています。
介護へのAI導入の背景とは?
ケアプランは高齢の方が介護保険を利用される際に必要なものです。ケアマネージャー(介護支援専門員)がご利用者の介護度や要望をケアプランとしてまとめ、介護サービスの利用につなげます。ご利用者ごとに作成されるケアプランはまさに一人一人異なる「オーダーメード」のものと言えます。
ケアマネージャーの負担増
ケアマネージャー、通称ケアマネはとにかく多忙です。ケアプラン作後は、ご利用者と実際に介護を担当する介護サービスとの間に入って調整を行います。介護サービスの提供が開始されてもまだ仕事は続きます。提供されている介護サービスが適正な内容か、不足はないかの検討を行います。
必要に応じてご利用者、介護サービスの担当者を一堂に集め「担当者会議」を開催、意見交換をします。1人のケアマネが複数のご利用者を担当するのは普通ですから、その忙しさは容易に想像がつきます。介護用AI導入はそんな多忙なケアマネの負担軽減が期待されています。
介護保険制度の複雑化
介護保険の制度が平成12年(2000年)に開始されてから既に17年が経過しています。その間に国による制度改変が何度も行われています。ケアプラン作成を担当するケアマネは毎回その変更に対応していかねばなりません。新しい介護サービスの追加設定もされています。
そのため「介護保険制度のサービスのひとつとして名前は知っているけれど、ケアプランに採り入れたことがない」介護サービスも多くなっているようです。介護用AIはそんなケアマネの良きサポーターとしての役割にもなりえるでしょう。
その一方、ケアプランの作成はケアマネ業務の根幹であるために、「介護用AIがあればケアマネはいらなくなるのでは?」という戸惑いや不安も生まれてしまっています。
介護へのAI導入のメリットは?
実際に介護現場に介護用AIが導入されるとどんなメリットがあるのか、次に見ていきましょう。
介護保険サービスの有効活用
現在の介護保険サービスは度重なる改変の結果、現場で働く介護スタッフでさえ理解が追いつかない場合が起きてしまっています。ケアプランを作成し運用する立場のケアマネもすべての制度を熟知することが難しい場合が時折見受けられます。
介護保険のサービスとして制度名や内容は知っていても、担当地域にその介護サービスを実施する事業所がない場合もあります。担当地域に実施事業所がなければケアプランに盛り込みたくても出来ません。
いざ新しい介護サービスが使える状況になっても「あまりよくわからないので使えない」状況を生んでしまっています。介護用AIがケアプランを作成し現場のケアマネがその補正をすることで、ご利用者により最適なケアプランの作成が行われることが期待されます。
ケアマネの業務省力化
ケアマネはケアプランの作成、実施に関わる大量の書類作成も担っています。「事務作業が多く、なかなかご利用者に会いに行けない」というケアマネの声が介護から聴こえてきます。
介護へのAI導入のデメリットは?
ご利用者の状況に臨機応変に対応出来るか?
ご利用者の状態はまさに十人十色。仮に同じ要介護度、認知症でも皆さん、異なります。介護度だけでなくご利用者の生活状態も当然異なります。そんな細かな「ご利用者個別の状況」に介護用AIはどこまできめ細かく対応出来るでしょうか?
ケアマネの力量が落ちてしまう?
介護用AIにご利用者の状態を入力すれば、ケアプランが出来てくる。便利でスピーディな対応が可能となるでしょう。
果たしてその時ケアマネの「ケアプラン作成力」は現在のレベルを維持し続けているでしょうか?介護用AIの利用が当たり前になった頃、ケアマネは現在のように独力でケアプランの作成が出来ているでしょうか?
事業者への金銭的な負担増加
介護事業所が介護用AIの導入をする際の費用負担等はまだわかりません。場合によって介護事業所の経営を圧迫しかねません。費用負担のため介護用AI導入を見送る事業所が多ければ、利用も広がらず「絵に描いた餅」になりかねません。
AIは介護士の代わりになる?
介護は人を預かる仕事です。しかも、介護職員のほんの些細な判断の違いが、利用者によっては一生を左右することにもなり得るのです。対人だからこそわかることもあれば、常に見ているからこそ気が付く違和感もあります。
そう考えると、介護の仕事をAIが代わるというのは難しいのかもしれません。しかしAIにできる仕事が増えれば、それだけ介護職員にかかる負担が軽減されるのも事実です。
例えば…
AIが、利用者を介護士の代わりにモニタリングすることができるようになれば、人手が少なくなる夜勤においては、介護士の負担軽減に繋がります。
利用者が身体を動かしたときにセンサーが発動し、画像が保存され、それをAIがインプットします。そして、インプットした画像を見て、“訪室するべきか?”を判断してくれる機能が備われば、介護職員が利用者の変化を見落とす心配も減り、その分ストレスや負担軽減にもつながるでしょう。
更に言うと、定時の巡回を減らす効果もあるかるかもしれません。
介護現場におけるAIの位置付けと今後について
AIを活用すると介護士の負担を減らす効果がありますが、AIは介護士にはなれません。緊急の場合は介護士の迅速な対応が利用者の人生を左右することとなりますし、人間の心を癒すのは「人」の温かみであることは間違いないからです。
しかし、マンパワーにこだわりすぎて介護士の負担が増え、その結果人手不足から以下のような悪循環に陥っては、本末転倒です。
- 利用者と適切なコミュニケーションが取れない
- 忙しさのあまり虐待まがいの対応をしてしまう
- 労働環境の悪さから離職者が増え、さらに人手不足に
AIとロボットの違いとは?
AIとは、人間の知的機能を代行できるような、処理プログラムのことをさします。一方ロボットは、決められた作業を自動でこなす機械のことをいいます。
また、ロボットは、プログラムを入れ替えることで、異なった動きをすることが可能です。AIとロボットが「脳」と「身体」の関係となることで、人間の知能に近い、柔軟な対応が出来るようになるのです。
現在開発されている介護ロボットについて
介護支援型ロボット
介護支援型ロボットは、介護支援を行う介護士が直接使用する商品です。移乗、入浴、排泄介助などを行う時、身体に負担がかかりにくくするロボットです。
自立支援型ロボット
2.自立支援型ロボットは、要介護者のリハビリをサポートし、自立支援を行うロボットです。手の不自由な方が自力で食事をすることができる商品や、歩行をサポートしてくれる商品などがあります。
コミュニケーション型ロボット
コミュニケーション型ロボットは、利用者とコミュニケーションをとることで、利用者の活動を促進する商品です。その方に合った計算や脳トレなどを出題することができ、介護予防ロボットとして期待されています。
セキュリティ型ロボット
セキュリティ型ロボットとは、利用者の動きを察知して介護者に知らせ危険を予防し、離れた場所からでも見守りが可能となる商品です。
介護ロボットがあまり普及していない理由
- コストが高い
- 慣れるまで時間がかかる
- 効果が得られない
コストが高い
介護ロボットはとても高額です。福祉用具より割高なことはもちろん、介護保険の対象外なので、利用料金に上乗せする形をとらなければなりません。
また購入したとしても、使用する上で利用者や介護職員のケガに繋がらないように、メンテナンスを定期的に行う必要も出てくるでしょう。そのため、導入することに抵抗があるようです。
慣れるまで時間がかかる
ロボットの使い方に慣れるまでに時間がかかってしまい、煩わしく感じるケースがあるようです。ロボットに慣れるまでの時間のロスやそれに対するコストを考えなくてはなりません。
効果が得られない
高い費用をかけて購入しても、実際に結果に結びつかないと継続することが難しいようです。効果に対する客観的なデータを増やしていくことが課題です。
介護現場ではどちらが利用しやすい?
現在、介護現場で利用しやすいのは介護ロボットでしょう。与えられた機能を発揮してくれるロボットは、介護士の“もう一つの身体”として活躍しています。
AIは知能が備わるので、人間のような知識や理解力に期待が持てます。ただ現段階では、細かな危険予測や臨機応変に対応することが難しく、課題は多いと考えられるでしょう。
介護現場でのケアマネの思いとは?
介護業界へのAI導入の流れは今後加速していくようですが、現場のスタッフはどんな思いを抱きながら業務に当たっているのでしょうか?介護士カモの声を聴いてみましょう。
平成28年、厚生労働省のデータによるとケアマネが抱いている悩みには、以下のようなものが挙げられます。
- 自分の能力や資質に不安がある(45、9%)
- 相談できる相手がいない(31、3%)
多忙な業務の中で1人で悩みや不安を抱えつつご利用者に向き合っているケアマネの姿が見えてきます。事業所によっては1人しかケアマネがいない場合もあります。
口コミ「介護現場におけるAIの導入についてどう思いますか?」
以前、介護福祉士として働いていた者です。
介護は人と人の繋がりが特に大事な仕事なので、人がすべて行った方がやりやすい部分もあるのかもしれませんが、自分はやってもらえるところはAIに助けてもらうことで、よりよい介護サービスを提供することが出来ると思うので、導入することのメリットは大きいと感じています。
AIや介護ロボットに代わってほしい業務は何かありますか?
身体の大きな要介護者への入浴介助。またベッドや車椅子等への移乗動作などロボットにやってもらえると助かります。
理由をお聞かせください。
身体の大きな要介護者への介助は要介護者本人の危険もより伴うし、介助者への身体の負担も大きくなってしまうので、力の特に必要な場面などでロボットに代わってもらえると、安全面でも安心だし介助も楽に行えるようになるのでありがたいと思うからです。
理学療法士をしています。
これから超高齢者社会に突入していく中で、介護者への負担は増していくと考えています。その中で介護用のAIが向上していく事に関しては素晴らしい技術の発展と今後の向上に繋がるものと考えています。是非ともAIを積極的に導入してもらいたいです。
AIや介護ロボットに代わってほしい業務は何かありますか?
寝たきりの方の体位変換や車椅子への移乗
理由をお聞かせください。
やはり寝たきりの方に対して介護者が寝返りや車椅子への移乗を行う事は負担が大きいものです。これを介護用AIが出来るようになれば時間の短縮と介護者負担軽減につながるものと考えられるので是非とも代わってほしい業務です。
自分の親の介護を真剣に考えざるを得ない状況で、介護用AIの開発が進められていることを知って少し頼もしく思いました。身近で寝たきりの親の介護を続けている人の苦労をいろいろ聞いこともありました。
ケアマネージャーのスキルによっては介護現場の負担も大きく変わります。健康な人に快適さをプラスするAI技術より、介護現場の様に過酷な仕事をアシストできるAI技術の開発を超高齢化社会が目前の日本は世界一を目指して取り組んで欲しいと思います。そして日本がこの分野で最先端技術を突き詰めていけば日本が世界中から称賛を受けて世界平和に貢献できることと思います。
AIや介護ロボットに代わってほしい業務は何かありますか?
実際に介護されるお年寄りの感情を理解できて話し相手になり認知症の進行を遅らせる業務
理由をお聞かせください。
実際にお年寄りと話しをすると同じ話をそれこそ何十回も繰り返します。でもその内容は話す本人とってはとても重要な記憶で話を聞いてもらえることが、とても嬉しく生きる気力に繋がります。
しかし実際にその話相手になる人にとっては精神的にも結構大きな負担になり、自らの精神を害してしまうことがあるのです。ですからAIには、まずは少しアシストしてもらえることから最終的には良き話相手、生きた日記帳の様な存在になってもらえればと思いました。
私自身、70代後半の実の両親を持つものとして考えさせられる事例だなと思いました。まだ両親は健在ですが実母は腰を悪くして車椅子を使い自宅で生活していますが、やはり、実弟とお嫁さんの手をなくしては生活できません。それでいてトラブルはちょくちょくおこし、お互いの神経をすり減らしている状態。これでは何のための人生なのか分からない。私は介護用AI導入を早く取り入れるべきだと思います。
AIや介護ロボットに代わってほしい業務は何かありますか?
やはり、排せつの介助ではないでしょうか。人一倍体力のいる入浴にも必要と思います。
理由をお聞かせください。
やはり排せつというというのは、介護されるほうも人間の尊厳にかかわる問題があります。もちろん、介護するほうも心理的負担が少なからずあります。実母は実際それに関して惨めだと泣いたこともありました。
入浴介助は私自身も経験ありますが、いくら痩せた年寄りでも大人の体というものはかなり重力があります。介助し終わった私自身も毎回ぐったりです。AIや介護ロボットというものがあれば心理的肉体的にも介護者+被介護者を解放すると思えます。
現在、看護師として働いています。
「ケアプラン」という個別の計画作成には、相当な時間が費やされています。それを解消するひとつの手段としてはとても効率がいいと思います。
あくまでも介護計画作成の支援という立場ですが…、スマホやタブレットの利用によりビッグデータ化を進めやすい環境になってきていていると聞きます。だれもが使いやすいものが一度世に出されてしまえば、進化は予想以上に進むと予想されます。高齢化社会である日本は、今後もITを上手に取り入れ馴染む時代になると思います。
AIや介護ロボットに代わってほしい業務は何かありますか?
マンツーマンでの認知症患者の会話相手が欲しい。
理由をお聞かせください。
今後も認知症患者は増えていくことが予想されます。長寿の国においてそれは避けられない現実だと私は思います。そんななか看護・介護の現場では、認知症の初発の方もいれば、未治療の方もいます。しかし、現場では人手不足が深刻化し、より対応が困難な状況になると予想されています。
そんな中で、AI技術が発達し対話型のAI介護ロボが導入されると、ある程度の業務の負担は減ると考えられるからです。ペットロボではなく、人型の介護ロボの導入を切に希望しています。ビッグデータと並列化に期待します。
特別養護老人ホームで介護職員として勤務しています。
AI の導入には期待しています。AIの知能を生かして、基本的な介護業務を利用者の状態に合わせて行えるようになり、1人の介護士として活躍してもらえると嬉しいです。ロボットは故障してしまうリスク以外は体力の心配がなく無限に動かすことができるからです。
また、AIの知能で利用者の記録を保存し、情報を共有できるロボットがあると、介護業務外の雑務が大幅に減り、残業をすることなくスムーズに帰宅できるメリットがあるのではないでしょうか。
AIや介護ロボットに代わってほしい業務は何かありますか?
以下3つを代わってもらえるととても助かります。
- 排泄介助や着脱介助
- 日々の記録や介護計画の作成
- 利用者とのコミュニケーション
理由をお聞かせください。
排泄介助と着脱介助は利用者の羞恥心に関わる行為です。そのため、介護ロボットに代わってもらうことで、利用者も気兼ねなく介助を受けられるのではないでしょうか。介護士の負担の軽減にもつながり、その時間をコミュニケーションにあてることができます。
日々の記録・計画をロボットに作成してもらい、正確な情報を共有することで、記録ミスや紙の紛失を予防でき、介護業務の負担減少につながります。
忙しくなかなかコミュニケーションがとれない介護現場で、ロボットが代わりに利用者との会話を行うことで、利用者の活性化を図りたいです。