高齢者の3大介護といえば、食事・排泄・入浴です。
その中でも、生活の質を高める重要な役割をもつ一方で、様々なリスクが潜んでいるのが入浴です。
介護職の中では、入浴介助は必須といえます。
しかし中には、
「入浴介助のポイントは?」
「入浴を拒否されるんだけど、どうすればいいの?」
などといった方もいるでしょう。
そこで今回は、入浴の必要性や介助のポイント、そして入浴拒否されたときの対策等について詳しくご紹介します。
これを読めば、安全かつスムーズに入浴介助ができますのでぜひ読み進めてくださいね。
入浴介助が要介護者にもたらす4つの効果とは?
入浴は、要介護者にとって体の清潔を保つだけではなく、感染症の予防にもなります。
また、身体的な健康の維持だけではなく、これからご紹介する4つの効果も期待できます。
新陳代謝を促す
入浴をした後、体がポカポカして温まった経験がある方も多いでしょう。
入浴をすることによって、血行が促進され血のめぐりがよくなります。
血のめぐりがよくなるということは、細胞への栄養などがいきわたり新陳代謝が促されるということです。
これによって、むくみの改善も期待できます。
睡眠促進効果
血行が良くなると、体の奥の深部体温が下がります。
体温が下がると聞くと、体に悪いといったイメージを持ちがちですが、深部対応が下がるとそれだけ睡眠が深くなり、安眠を促すことが可能です。
中には、いつもよりぐっすり長く睡眠をとることができたという方も多くいます。
機能訓練の効果もある
水の中は、水の浮力を利用して体に負担をかけず間接運動等を行うことが可能です。
これによって、筋肉の萎縮や関節の拘縮の防止、筋力トレーニングにもなるため、運動機能の向上が見込めます。
筋肉が衰え、関節などに痛みを感じている方でも、水の浮力を利用することで痛みが軽減され運動がしやすくなるため、入浴は機能訓練にもつながるのです。
入浴介助には、どのような方法があるの?
入浴と言っても、お風呂につかるだけが入浴介助とは言いません。
そこで、入浴介助とはどんな方法があるのか、お話ししていきましょう。
一般浴
一般浴とは、自分の力で歩行ができる、手すりを利用すると歩くことができるといった人が共同浴場を利用して入浴する方法を言います。
この場合、介護士は背中を流すといった最低限の介助しかせず、できるだけ自分で済ませるという方向で入浴をします。
そうすることで、自然と体を動かし、残された機能をできるだけ生かすことが可能です。
シャワー浴
湯船に入る全身浴ではなく、シャワーチェアなどに座った状態でシャワーを浴びて体を温めたり、清潔にすることです。
温まりづらいので、足浴を併用する場合もあります。体力が落ちているときや、夏場にはよいでしょう。
リフト浴
リフト浴は中間浴ともいわれ、リフトを使用して入浴する方法を言います。
上下左右に動く椅子のリフトを使用し、介護士が介助しながら入浴を行うため、立つことが難しいが安定して座ることができる人が、利用する入浴方法です。
機械浴
機械浴には、
- チェアー浴
- ストレッチャー浴
の2種類があり、それぞれ要介護者の状況に応じて異なります。
それぞれについてご紹介しましょう。
座って行う機械浴
座って行う機械浴をチェアー浴と言います。
チェアー浴は、浴槽の壁が開いて機会浴専用の椅子に座ったまま入浴する手法です。
浴槽へ入ると椅子が動くことがないので、安定して入浴できます。
足を上げて浴槽に入ることはできないが、安定して座ることができるといった場合などに利用されます。
寝た状態で行う機械浴
ストレッチャー浴は、寝た状態のまま入浴できる機械浴になります。
ストレッチャーに体を固定し、ストレチャーが上下に電動で動くことでお湯につかる手法になります。
安定して椅子に座ることが難しい方や、寝たきりの方の入浴に用いる手法です。
基本的な手順とポイントについて
入浴介助は、介護士にとっては日常的に行う介助の一つです。
しかし、自分の体を洗うのとは違い、人の体を洗うというのは難しくそして気を使わなくてはいけません。
そこで、入浴介助の基本的な手順やポイントをご紹介します。
事前に準備すべき道具
入浴介助に入る前に、必ず必要な道具は用意しておかなくてはいけません。
主な道具としては次の6つがあります。
- タオル
- 着替え(オムツも含む)
- ボディソープ
- 体を洗うもの
- 要介護者に合わせた介助器具
- 要介護者に応じた薬や保湿剤など
もし必要なものがなく、入浴を中断しなくてはいけなくなると、
- 要介護者の体が冷えてしまい風邪をひく
- 要介護者を一人にして転倒などの危険が生まれる
といったこともあるので注意しましょう。
もちろん、介助するにあたって必要な自分の道具も用意することを忘れないでくださいね。
入浴介助において重要な4つの心構え
入浴介助をする場合、これからご紹介する4つのポイントを押さえておきましょう。
そうすることで、要介護者の状態などを把握することができます。
状態観察
入浴をするということは、全身を観察するのに絶好のチャンスです。
頭から足の先まで観察し、傷や褥瘡、皮膚の乾燥などといった状態をチェックしましょう。
入浴介助は要介護者の外見的な体調の変化を早々に発見し、対処することが可能です。
体調が悪いときは無理をしない
体を清潔に保つことは大切です。
しかし、体調が悪い場合は、無理に入浴をする必要はありません。
入浴は、想像以上に体力をつかうものです。
そのため、体調が悪いときに無理に入浴をすると、より体調を悪化させることもあります。
体調が悪いときは、体を拭く・足湯などをしてリフレッシュにとどめるようにしましょう。
安全第一で
入浴場所の条件によっては、設備や広さなどによってできる介助方法も異なります。
特に、訪問介護での入浴介助ではどうしても移設と同じようにとはいきません。
そのため、安全には十分に配慮をして入浴を行う必要があります。
安全を考慮し、介助に当たる人員を増やすなどといった工夫が大切です。
できないところだけを介助する
先に少しふれましたが、今できることを衰えさせないためにも、入浴介助は要介護者ができないところだけを手伝う形で行います。
動作が辛そうであったり、不便そうに見えてしまうとどうしても手を差し伸べてしまいがちですが、それでは本人のためにはなりません。
要介護者ができることを自分でやることこそ、本人のためになるので、できるだけ手を出さないようにするといいでしょう。
入浴介助における入浴前の大事な3つのポイント
次に、入浴前に重要となるポイント3つをご紹介します。
入浴前の事前準備をすることで、事故防止にもつながるのでぜひ覚えておきましょう。
空腹時や食事直後は避ける
空腹時や食事の直後に入浴をすると、血圧や血糖値などに影響をし体調を崩しやすいです。
空腹時に入浴をすると、血糖値が低くなり貧血を起こしやすくなります。
また、食事直後に入浴をすると、消化不良を起こすこともあります。
特に高齢者は、体調をくずしやすいので気をつけましょう。
浴室と脱衣場を温める
浴室と脱衣所の準備は大切です。
特に冬など寒い時期に浴室と脱衣所の温度差が激しいと「ヒートショック」がおこる可能性があります。
ヒートショックとは、温度差によって血圧が急降下し、急性心筋梗塞などといった病気を引き起こしてしまうことをいいます。
最悪は死亡してしまう例も少なくないので、脱衣所と浴室の温度差がないようにしましょう。
体調を確認する・入浴の可否を見極める
「入浴介助において重要な4つの心構え」でお話ししたように、体調が悪いときには入浴は進めません。
そのため、入浴前に要介護者の体調の確認は必須です。
血圧は問題ないか、そのほかに体調が悪いところはないかなどチェックし、入浴可能かどうか判断してください。
入浴中の4つのポイント
入浴中にも注意するべき点が4つあるのでご紹介します。
入浴中は、要介護者も不安に思うことも多いので声掛けが大切になります。
かけ湯はゆっくりと
まず、お湯につかる前にかけ湯を行いましょう。
安定して座れる方であれば椅子に座り、近くに手すりがある場合はつかまっても大丈夫です。
すぐに首からかけ湯を行うのではなく、足から徐々にかけ湯を行い、温度は適温かなど確認していきます。
会話をしつつ様子を見ながら行うようにしてくださいね。
洗髪
全身にかけ湯を行い、ある程度体が温まったら、まずは頭から洗います。
指の腹を使って頭皮をマッサージするように洗いましょう。この時に、爪を立てないように気をつけてくださいね。
爪が長いようでしたら、入浴前に必ず切るように注意しましょう。
洗体
体を洗う時は、優しくスポンジやボディタオルなどを利用して洗います。
高齢者の皮膚は弱く、タオルの摩擦などによって赤くなったり傷つきやすいです。
また、汗をかきやすいところや汚れやすいところは、特に洗い残しがないように優しくしっかり洗ってくださいね。
いざ、浴槽へ
髪・体と洗い終わったら、浴槽でお湯につかります。
心臓に遠い部分である足から徐々にお湯につかるようにしましょう。
その際には、手すりを利用したり、転倒しないよう体を支えてあげながらスローペースでお湯につかるよう心がけて下さいね。
また、のぼせてしまうことも考えられるため、お湯につかるのは5分程度で済ませるようにしましょう。
入浴後の大事な4つのポイント
入浴後は、要介護者の体調の変化やケアが大切になります。
4つのポイントをご紹介しましょう。
しっかり拭く
髪の毛や体の水分を充分に拭き取りましょう。
けしてタオルでこすって拭かないようにしてくださいね。
特に足の裏は、濡れていると転倒の原因になるので十分に拭くようにします。
着衣は座って行う
水分を拭いたら、下着など着替えをします。
要介護者が立って着替えることができる方でも、入浴後の血圧の変化等でふらつく可能性も考えられます。
必ず、椅子に座って着替えるように促しましょう。
爪切り・塗薬
塗る薬が処方されている場合は、部位に合わせて着替える前もしくは着替えた後に塗布するようにしましょう。
爪は入浴後が柔らかく切りやすいです。
着替え終わったら、爪は伸びていないか確認し必要に応じて切るようにしてくださいね。
体調確認・水分補給
全て終わった後は、体調に変化がないかなど確認しましょう。
血圧や体温、そして要介護者に体調を訪ねたりと変わりがないかどうかチェックしてくださいね。
入浴事故を防ぐための4つのポイントとは
入浴事故は、介護ミスの中でも死に至ることもある重大な事故です。
そこで、入浴事故を防ぐためにはどうしたらいいのか、覚えておいてほしいポイントを4つお話しするので確認してください。
入浴前の体調確認は念入りに
入浴前の体調の確認は必須です。
入浴前の時点で体調不良の場合は、入浴は断念してください。
まず、次の4つの項目をチェックしましょう。
- 顔色
- 皮膚に異常がないかどうか
- 睡眠はとれているか
- 食欲はあるか
このほかにバイタルチェックなども怠らず、入浴しても問題がないかどうか念入りに確認が必要です。
浴室や浴槽、使用する福祉用具などの安全確認を
入浴に利用する福祉用具や、浴室などの安全確認も行いましょう。
次の4つのポイントをチェックするのがいいですね。
- 浴室・浴槽は滑りやすくないか
- 浴室と脱衣所の温度差が激しくないか
- お湯の温度は適切か
- 福祉用具に不備はないか
これら確認は、入浴前に済ませるようにしてください。
入浴中及び入浴後の状態観察を徹底
中には入浴中に具合が悪くなる方や、入浴後に体調不良になる方もいます。
入浴中の時点で無理をしていないか、体調に変化はないかなど声かけや観察が必要です。
また、入浴後はバイタルを確認したりと体調の変化に敏感になることが大切になります。
適切な声掛けと配慮を忘れずに
介護者は、人の裸を見て介助をすることに抵抗を感じないという人も多いです。
しかし、要介護者にとって人に体を洗ってもらう、職員に裸を見られるといったことは自尊心を傷つけることもあります。
また、体が思うように動かない中での入浴に不安を感じる方もいるでしょう。
入浴前・中・後それぞれで適切な言葉かけが必要です。
これからやることを、ひとつひとつ伝えてから介助するなど、配慮をするようにしてくださいね。
認知症患者を入浴介助するときのコツ
介護者の中には、認知症患者の入浴介助が難しいと感じている人も多いですよね。
意思の疎通がうまくいかず、その結果入浴事故につながってしまうといったケースもあります。
そこで、認知症患者の入浴介助のコツをご紹介します。
その方の性格や特性に応じた細かな配慮を
認知症患者によって、反応はさまざまです。
そのため、要介護者の性格や特性等を把握し、配慮する必要があります。
特に、安心・安全を伝えるように入浴介助をするといいでしょう。
認知症患者の中には、音やにおいなどといった五感が過敏になっている方も多くいます。
そのため、浴室の床や椅子を温めてから座らせ、足元にそっとお湯をかけることから始めましょう。
「温かい」「気持ちがいい」と認識してもらうことで、安心してスムーズに入浴することができるケースが多いです。
できること・できないことを把握して対応する
認知症患者それぞれで症状が異なるように、できること・できないこともそれぞれ異なります。
体を洗うという行為ができる方と、洗い方自体を忘れてしまったといった方もいるのです。
また、「次は○○を洗ってくださいね」と伝えると、自分で洗うことができる人もいます。
人それぞれできることを把握し、できないことを手伝うようにしましょう。
Myルールやこだわりを尊重しよう
介護者の中には、Myルールを持っている方もいます。
お湯の温度から、洗い方までこだわっている場合もあります。
まずは、要介護者のこだわりを確認し、把握することが大切です。
衣類着脱は丁寧に
認知症の方の中には、入浴に服の脱着が必要だとわからない方もいます。
そのため、「右手をあげますね」「右足あげますよ」など声をかけながら行うといいでしょう。
急がずに、丁寧に脱着するようにしてくださいね。
入浴拒否への対応について
要介護者の中には、入浴拒否をする方もいます。
その日の気分であったり、そもそも入浴をしたくないなどといった理由で、週に数回も入らない方も。
その場合はどうしたらいいのか、お話ししましょう。
原因を探ろう
どうして入浴をしたくないのか、原因を探る必要があります。
高齢になると体力も落ち、入浴自体に気がすすまないといった理由もあります。
また、認知症の方の中には、入浴をするという行動が理解できず抵抗を感じることもあり、入浴を拒否する理由は人それぞれです。
考えられる主な理由としては、次のような4つがあります。
- 入浴自体が理解できず不安を感じる
- 入浴の仕方がわからない
- 人に裸を見られることに抵抗がある
- 今はお風呂に入りたくない
どうして入浴をしたくないのか、会話をするなど探ることが必要です。
声掛けや誘導方法を工夫しよう
入浴をするには、まず本人が入浴をすると理解し納得することが大切です。
もし納得しないまま入浴をすると、浴室で暴れて転倒したりといった事故につながります。
そこで、声掛けや誘導方法に工夫することが大切です。
入浴を理解している | 「今日は入浴剤入れましたよ」など、本人が興味を持ちそうなことを話し、お風呂に入りましょうと声をかけましょう。 |
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入浴を理解していない |
浴室の写真を見せたり、タオル・石けんなど入浴で使う道具を持たせると、入浴を思い出す人もいます。 「入浴するとさっぱりするよ」など入浴はどういったものなのか簡単にお話しするのもおすすめです。 |
お湯につかることを拒否 |
まずは足湯などからはじめ、入浴の気持ちよさを思い出してもらう方法もあります。 足湯をしながら、お風呂やシャワーをあびますかと声をかけてみると、納得して入浴する方もおいます。 |
入浴することを拒否 |
「明日病院の先生に会うから体をきれいにしましょう。」など、入浴することの必要性を伝えるのもいいです。 ただし、嘘はいけません。明日の予定を伝え入浴をすすめるときには、事実を伝えましょう。 |
明日の予定を伝え入浴をすすめるときには、事実を伝えましょう。
要介護者が入浴に興味が持つように声をかけ、誘導するようにしましょう。
まとめ
基本的に入浴介助では、自分でできる範囲のことは自分で行ってもらうことが大切です。
歩行など不安定な場合はきっちりと怪我のないように介助を行う必要性があります。
また浴槽に跨いで入浴できない場合は、ボードや入浴介助用の手すりを使用するとできるようになる場合があります。
安易に機械浴に頼るのは止めましょう。しかしその一方で、入浴の場所は滑りやすく危険が多い場所です。
危険を冒すことは避けるべきと考えることも重要です。
認知症などで理解が難しい場合でも、できる範囲内のことを自分でして頂き、説明しながら丁寧に着脱や洗体を介助することで納得してもらえることがあります。
言葉で分からない場合は身振り手振りで伝える方法もあります。
入浴前のバイタルなどを確認していても体調などが急変する場合もありますので、普段の様子と少しでも違う場合は無理しないようにしてください。
他の人助けを呼び、また看護師などによって応急判断をしてもらう必要なケースもありますので充分注意が必要となるでしょう。
入浴時に急変や怪我などがあった場合でも慌てず、まず利用者の方の安全を考えた対応が必要となってくるのではないでしょうか。
身体的に介助が必要な場合、その人のADLにそった最低限の介助が基本になりますが、時間内に数をこなさなければならないという事情によって過剰に介助してしまう場合もあります。
どうしても人数などによって、こちら側主導の入浴介助になってしまうことも事実です。
特に認知症の方について、入浴拒否がある人ではなおさら大変です。そういった人に限って家族の方の入浴のニーズが高い傾向があるからです。
基本的には、バイタルサインに従って、看護師指示によって判断になりますが、言葉による誘導や入浴のお誘いなどの工夫によって入浴をしてもらう事にしています。
どうしてもニーズが強い場合であっても強制的にする事はできませんので、難しい所かもしれません。
入浴は、利用者の方の健康状態をチェックする場所でもある為、大切なものです。
また清潔維持と身体の皮膚状態の維持、血行促進による効果など、様々な効果がありますが、入浴拒否がある認知症の方ですと、着脱時に叩かれたり、爪で書かれたり、噛まれたりする事もあります。
ある意味、入浴は戦場だと表現する気持ちも分かりますね。