最近話題となっている、“ゼロ次予防”って何だろう?
日本の高齢者人口は約3500万人であると言われ、全人口の30%と推定されています。そのため、高齢者にかかる医療費や社会保障の費用が国の財源を圧迫しており、大きな社会問題となっています。
そこで国や地方公共団体は、介護が必要な状態になる前に予防しようという取り組みの一つである、“介護予防”を推進しています。その中でも“ゼロ次予防”は、介護予防の段階の一つとして今注目を集めているのです。
ここでは、ゼロ次予防とは何だろう? ゼロ次予防がなぜ注目されるのか?
“一次予防”“二次予防”“三次予防”との違いや、ゼロ次予防に対する地方自治体・介護施設の取り組み等、詳しくお伝えします。
介護予防の段階と種類について
病気や介護状態になるのを予防する介護予防。
介護予防は厚生労働省が「一次予防」「二次予防」「三次予防」の 3つの段階に分けています。まずはこの3つを簡単に説明しましょう。
一次予防とは
病気などで身体の調子を崩し、介護が必要な状態にならないように、健康なうちから自分たちで食事の管理や運動を行って生活習慣を整えることで、病気や介護状態となるのを予防することです。
地域で行っている介護予防体操教室に参加したり、食事のアドバイスを聞いたりするなど、本人が日々努力をする必要があります。
二次予防とは
病気となる原因を検査したり、要介護状態に陥る可能性のある高齢者を発見し、状態が進行しないように予防することです。
例えば健診や人間ドックをすることで原因を早期発見・治療を行ったり、保健師による健康管理の指導、歯科栄養士からの口腔ケアの指導、管理栄養士からの栄養指導やバランスの良い食事を提供する配食サービスを受けます。
また、閉じこもりがちな高齢者に対しては、外出する機会を目的とした外出支援なども行います。
三次予防とは
病気や介護状態になったあとに、その症状が悪化しないように状態を維持・回復させることです。
例えば訪問介護・看護・通所リハビリやデイサービスを利用する、身体の状態・口腔機能・栄養状態のアドバイスを受けてもらい、社会参加を促します。
他の予防とは違う視点から ゼロ次予防とは?
では本題である、“ゼロ次予防”とはどの段階での予防策となるのでしょうか?
ゼロ次予防は簡単に言いますと、一次予防よりもさらに前の段階で症状を予防する取り組みです。
ゼロ次予防は、気軽に体操ができるように運動公園の整備を行ったり、塩分を控える食品の開発や外食産業を取り入れるなどして、本人が強い意識をしなくても健康に気を配れる環境を整えることで自然に介護予防が行えることです。
ゼロ次予防がなぜ注目されるのか?
では、なぜゼロ次予防が注目されているのでしょうか?
確かに一次予防のように介護状態にならないように予防することは大切なことです。
しかし、自分の意思で長く続けることは難しく、人間は途中で飽きが来たり、怠けてしまうことも。特に高齢になると、やる気はあっても思う様に身体が動かないこともありますよね。
ゼロ次予防は“出かけてみようと思える環境”“生活の中で自然にリハビリをしている環境が出来上がる”という考えを持っています。高齢者が“やってみたい”“外に出てみたい”と思えるような街を整備していくことが、現在“ゼロ次予防”として注目されているのです。
ゼロ次予防の取り組みについて教えて
実際にゼロ次予防に取り組む地方公共団体は、どのような活動をしているのでしょうか?
定年後の再雇用への斡旋
定年退職しても、心身ともに健康で働き続けることができる高齢者を対象に再雇用を増やしていけば、働ける人の全体の割合が増えます。担税する能力がある高齢者が増えることで財政面にゆとりが生まれます。
働き続けることで社会的関わりを増やすことで、高齢者の虚弱化を防ぐ社会をつくることができるのです。
バスなど交通機関が使いやすい環境
バスなどの交通機関が充実している環境は、街を活性化します。
マイカーよりもバスや交通機関を使って、“歩く“ことを意識した取り組みをすれば、健康にも効果的です。交通機関だけではなく、街の公園や歩道の整備を充実させ、歩いてみたいと思える街づくりをしています。
また、高齢者は心身機能の低下により、マイカーを手放す人も増えているので、バスなどの交通機関が充実していると外出する機会も増えていきます。
気軽に運動できる公園や施設の整備
老朽化した運動公園や施設の環境整備が進んでいる自治体が増えています。
運動器具を置いて誰でも使用できるようにしたり、公共施設の中で低料金でジムの運動器具を利用できたりなど、地域の人が気軽に身体を動かすことができる環境づくりをしています。
通いの場や携わるボランティア活動の増加
出かけに行きたくなるような地域サロンやアクティビティなど、通いの場を工夫することで、地域の交流を深め、高齢者の閉じこもりを予防します。
また、それに携わる地域住民のボランティア活動を斡旋することで、歳を取っても人や社会の役に立てる地域社会を目指しています。何かの役に立てることが生活の一部となれるような、活発な明るい地域社会を目指しています。
外出など社会参加への声かけや相談窓口の普及
環境の整備だけがゼロ次予防ではありません。閉じこもりがちな高齢者に対して介護予防の必要性をしっかりと説明し、外出するように促しています。
自分の健康について相談できるような窓口を整備し、気軽に相談しやすい環境づくりにつとめています。
介護施設や介護サービスでも“ゼロ次予防“はできるの?
介護施設や介護サービスでゼロ次予防をするにはどのように取り組めばいいのでしょうか?介護施設などでは主に介護が必要な人が利用しているため、本来なら悪化させないための“三次予防”への取り組みがメインです。
しかし、ゼロ次予防の考え方を取り入れることで、利用者が自ら負荷をかけて努力しなくても、生活の中で自然に身体を鍛えることができるのです。では、どのようなものがあるのでしょうか?
廊下に段差のあるものを設置する
施設内では職員が見守りできることを確認したうえで、廊下に“手すり付きの段差”を設置します。居室から食堂に移動するとき、自分で歩ける利用者にはそちらを通過してもらいます。
そこでは廊下を通るだけで、足を挙上する訓練が行えます。足先が上に上がらずに転倒するケースが多いので、とても有効です。本人が無理をして機材のあるところに行かなくても、移動しながら足を上げる運動をすることができるのです。
バイキング形式で食事提供
自ら食材を選択する“バイキング形式”。デイサービスでそのような取り組みを行っているところがあります。盛り付けや食事のバランスを考える力や、食材を取るときに手先を動かす訓練になります。
ただ配膳を待って食事をするだけでなく、いつもと違った雰囲気を味わえるので食事が楽しくなる効果があります。
身体の状態によっては自分で食事が取れない利用者がいます。その時は職員が声をかけて一緒に選ぶこともリハビリになります。
入浴の浴槽を利用する
入浴は一般浴を利用する人に限りますが、またがって入浴するタイプの浴槽を使って運動機能を向上させます。入浴するという一連の流れの中で、足腰を鍛えることができます。ヒノキの浴槽を採用しているデイサービスもあり、利用者をもてなす工夫がされています。
ゼロ次予防で地域や介護施設を元気に!
病気や要介護状態になる前に予防する、今までの介護予防とまた視点を変えて取り組まれている“ゼロ次予防”。
ゼロ次予防のように、強く意識することなく自然に身体が鍛えられていたり、楽しく活動することで心も活性化できていれば、介護予防に対して興味がもてない、イマイチやる気が起きない、という方でも気軽に取り組めますよね。
地方自治体が中心となり、ゼロ次予防に向けた取り組みを行うことで、地域住民が生き生きと社会参加ができる街をつくることができるのです。
介護施設でもゼロ次予防の取り組みを採用し、要介護状態の悪化を予防、回復に向けて意識する姿勢が問われていくのではないでしょうか。