調剤薬局チェーン大手の日本調剤で、患者さんに対する応対に関するコンテストが実施されました。全国から101人の応募があり、5月から地区予選などが実施され、最終的に2017年8月6日にNo.1が決定したようです。
これまで調剤薬局チェーンでは同じような取り組みがなされていたと思いますが、ニュースに取り上げられることはなかったと思います。
このような形で薬剤師の接客にフューチャーされることは、薬剤師の仕事が世間一般から注目されていることの証明でもあると思います。
一度動画を見てください。6分弱の動画ですので、電車に乗っている時間や仕事の休憩時間などで十分見ることができますので、暇つぶしと思ってみてください。
これを見ていただいた上で、薬剤師の接客について一緒に考えて見ましょう。
この接客をみた率直な感想とは?
まず、筆者(私)の個人的で率直な感想は次の通りです。
「そんなに上手くいくわけない!」
「風邪で本当にしんどいときに、そんなに会話できないし、患者さんはしたくないよ。早く薬買って飲んで寝たいはずだから、その気持ちを理解してるのかな?」
「最後にお薬手帳のアピールをしてるけど、風邪でしんどいのに呼び止めていいの?」
おそらく多くの方は、同じような感想を持たれたと思います。
実際、ご自身が風邪でしんどいときに薬局を訪れて、あれこれ聞かれるのは、本当にしんどいですから、当然だと思います。
おそらく、普段の積極の際も、患者さんの体調や気持ちを最優先に考えて、対応されていると思います。
しんどそうな人、早く帰りたそうな人に対しては、必要最低限の指導や説明をして、終わらせていることがほとんどだと思います。
筆者(私)も同じです。それが最も良い対応だと思っていました。しかし、別の視点から見ると、そうではないと思う部分もあります。
でも、これが理想的な姿であることは間違いないのだカモ。
患者さんに聞くべきことを聞いていますでしょうか?
動画のロールプレイングにおいては、患者さんの全般的な症状、特に強い症状、合併症や併用薬の有無、過去のアレルギーなどの情報を事細かに聞いていました。
この背景には、何があるのでしょうか。
薬剤師法の第一条に次のように記載されています。
第一条 薬剤師は、調剤、医薬品の供給その他薬事衛生をつかさどることによつて、公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする。
大原則として、薬剤師は医薬品を通じて国民の健康な生活を確保しないといけません。例えば、間違った服薬方法をして健康被害がでるようなことはしてはいけないという意味があります。
要処方箋医薬品に関しては、薬剤師法第25条の2の中に次のように記載されています。
第二十五条の二 薬剤師は、調剤した薬剤の適正な使用のため、販売又は授与の目的で調剤したときは、患者又は現にその看護に当たつている者に対し、必要な情報を提供し、及び必要な薬学的知見に基づく指導を行わなければならない。
では、OTCに関してはどうでしょうか。
医薬品医療機器等法の第36条の6と36条の10にそれぞれ次の記載があります。
第三十六条の六
薬局開設者又は店舗販売業者は、要指導医薬品の適正な使用のため、要指導医薬品を販売し、又は授与する場合には、厚生労働省令で定めるところにより、その薬局又は店舗において医薬品の販売又は授与に従事する薬剤師に、対面により、厚生労働省令で定める事項を記載した書面(当該事項が電磁的記録に記録されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を厚生労働省令で定める方法により表示したものを含む。)を用いて必要な情報を提供させ、及び必要な薬学的知見に基づく指導を行わせなければならない。ただし、薬剤師等に販売し、又は授与するときは、この限りでない。
第三十六条の十
薬局開設者又は店舗販売業者は、第一類医薬品の適正な使用のため、第一類医薬品を販売し、又は授与する場合には、厚生労働省令で定めるところにより、その薬局又は店舗において医薬品の販売又は授与に従事する薬剤師に、厚生労働省令で定める事項を記載した書面(当該事項が電磁的記録に記録されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を厚生労働省令で定める方法により表示したものを含む。)を用いて必要な情報を提供させなければならない。ただし、薬剤師等に販売し、又は授与するときは、この限りでない。
要指導医薬品については情報提供義務と指導義務があります。OTCのうち第一類医薬品については、情報提供義務があります。
このような義務があるために、それをしっかりと理解しているために、接客No.1となった薬剤師さんは、事細かに聞いていたというわけです。
もし、過去にアレルギーがあるにもかかわらず、情報提供義務や指導義務を怠ったことで、重篤な副作用が発生した場合、もちろん薬剤師が責任を問われることになります。
そのようなことにならないためにも、しっかりとした聞き取りが大事なのです。
情報提供義務、指導義務という法令を遵守することは非常に大事なことだカモ。
薬剤師の医療に対する考え方やあり方を変えませんか?
みなさんが例えば風邪のために、病院で診察を受けたときのことを思い出してください。
(風邪でなくても良いです、何でも良いので、疾患で診察を受けた場面を想像してください。)
患者さん:「風邪を引いたみたいです。」
医師:「症状は何がありますか?」
患者さん:「喉の痛み、鼻水、痰が絡むというものがあります。」
医師:「熱はないですか?」
患者さん「熱はないです。」
医師:「今治療中の病気はありませんか?」
患者さん:「特にないです。」
医師:「これまで薬を飲んで、アレルギー反応がでたという経験はないですか?」
患者さん:「ないです。」
医師:「抗生剤と症状を抑えるお薬を出しておきますね。」
会話の間に、心臓や肺の音を聞いたり、喉の状態を確認するという診察がありますが、おおむねこのような形ですよね。
これに対して、「風邪でしんどいのによく会話できるな」と思う人は、まずいないと思います。
それは、適切に症状を伝えないと、適切な処置や医薬品を処方してもらえないことが、わかっているからです。
医療関係者以外のその他の人でも理解していることだからです。薬剤師が行っている聞き取りと比べると、どうでしょうか。ほぼ同じですよね。
薬剤師の聞き取りでは、患者さんはなぜお話をしてくれないことがあるのでしょうか。
それは、薬剤師には処方権がなく、患者さんは薬剤師に話しても無駄だと思っているからです。
確かに薬剤には処方権はありません。その通りです。これは現状ではどうすることもできません。
しかし、薬剤師は医薬品に対しては、非常に幅広く、医師よりも多くの知識を持っています。それを特に発揮することができる場所がOTC販売だと思います。
要処方箋医薬品のように1つの効果を持つOTCもあれば、複数の有効成分が配合されていて、同じ適応(例えば総合感冒薬)であっても、特にどの症状に良く効くという特徴があるものもあります。
患者さんの症状に応じて、より適切なOTCを販売することができれば、患者さんとの信頼が生まれます。そのようなことを積み上げることで、薬剤師全体の信頼につながります。
これを繰り返すことで、薬剤師の地位向上に一役買うことができるようになるはずです。
しっかりとした接客を行うことは、自身の保守にもつながる?
薬剤師の地位向上は、薬剤師全員の願いでもありますが、まずはしっかりとした接客(情報提供と指導)を行い、法令を遵守するようにしましょう。
法令順守を徹底することは、ご自身を守ることにつながるのです。