タイトルにあるように、カナダの薬局では、薬剤師一人で200枚以上の処方せんを応需することがあるそうです。
と聞くと、現場で働いている私たちから見ればとんでもないことのように思えます。しかしこれは、欧米と日本の制度の違いによるものなのです。
皆さんは「テクニシャン」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。調剤の現場におけるテクニシャンは、日本語に訳すと「調剤補助」です。
日本にはその制度はありませんが、欧米ではテクニシャンという資格・認定があり、調剤室で活躍しています。
ちなみに日本では医療事務などの無資格者が調剤することは、薬剤師法第19条で禁じられており、法律違反とされています。
水剤・軟膏の混合などは禁止の通知が厚生労働省から出ています。その通知にピッキングは載っておらず、グレーゾーンと解釈されていることが多いです。
「テクニシャンがもし調剤室にいてくれれば、私たちは監査・投薬だけすればいいのかな?」
「それとも投薬もしてくれるの?」
といった疑問に応えるため、薬剤師1人で処方せん200枚の応需の背景にいるテクニシャンについて解説します。
日本では一人で200枚はあり得ない
日本では一人の薬剤師につき応需できる処方箋は40枚です。(耳鼻科・眼科・歯科から応需した処方せんの場合は処方せん母数に2/3を掛けて算出)
それなので、200枚の処方せんを応需する場合は5名の薬剤師が必要となります。
5名の薬剤師の人件費はとんでもないものですし、地方や離島などで薬剤師を雇うことができない可能性もあります。
また実際調剤薬局で働いていると1人1日40枚の応対は激務です。
薬歴を満足に書いている時間もありませんので、残業なく帰宅することは不可能な枚数です。
そういった悩みを解決できるのがテクニシャンという制度カモ。
カナダのテクニシャンが出来る仕事
病院のテクニシャンは国家資格が必要で、薬局のテクニシャンは専門学校を卒業して認定が必要です。仕事内容も病院のテクニシャンのほうが注射剤や抗がん剤の混注などがあり、少し高度です。
テクニシャンが出来る仕事は、概ね日本の調剤薬局事務が行っている処方入力、レセプト業務にプラスして調剤業務(ピッキング、軟膏、水剤、散剤などを広く)です。
日本では無資格での軟膏や水剤の混合を明確に禁じていますので、日本の調剤薬局事務よりも幅広く仕事を行っています。
薬剤師は主にテクニシャンたちの監督や、薬剤の監査業務を行います。
カナダには日本のような処方せん枚数による薬剤師の人数についての法律は無いのため、薬局によっては薬剤師よりもテクニシャンのほうが多く働いていることもあります。
日本でのテクニシャン
冒頭でも述べた通り、日本にはまだテクニシャンという制度は存在しません。薬剤師は飽和すると言われ始めて早数年ですが、未だ薬剤師の就職は売り手市場で、私たち労働者に有利な状況が続いています。
それだけ薬剤師が足りておらず、人手が致命的に不足している職場が多くあります。そんな中で比較的資格の取りやすいテクニシャンが生まれてくれれば、私たち薬剤師はとても助かるのではないかと思います。
その一方で、薬剤師の仕事を任せることで、私たち薬剤師の職域の減少について危惧する声もあります。
現状調剤業務は薬剤師の独占業務ですので、薬剤師が調剤をテクニシャンに任せた後、どのように医療に関わっていくべきなのか、よく考えてから導入すべきという意見です。
私もこの間、どうしても忙しいときはテクニシャンが欲しいと同僚と話していたカモ。
まとめ
以上、欧米における薬剤師とテクニシャンについてご紹介させていただきました。
日本ではまだ現実的な制度ではありませんが、もしいつも苦労している軟膏の混合や、60日分を超える散剤の調剤などを代わりに請け負ってくれる人材がいれば、私たち薬剤師は患者さんとの時間をもっと持つことが出来ます。
確かに調剤行為は薬剤師の独占業務で、高い技術が必要です。しかし、それに時間を取られて患者さんのケアがおろそかになってしまうのなら、本末転倒です。
日本でもテクニシャン制度を導入するのなら、薬剤師は患者さんのケアに専念できるというメリットがあると同時に、薬剤師でなければできない仕事をしっかり行わなければならないでしょう。
調剤と監査が違う薬剤師で行うことで、処方せんを最低二人の薬剤師が目を通していたのを、テクニシャンと薬剤師一人の目にしてしまうことは見落としによる併用禁忌薬剤の投与などのリスクが大きくなります。
当然監査する薬剤師は責任が重くなります。テクニシャン導入に伴って、レセコンや電子薬歴の処方チェック機能についても見直しを行い、しっかり監査してくれるものを導入する必要がありそうです。
テクニシャンの導入に伴って、日本でも薬剤師一人当たりの処方箋数が今後増える可能性があります。
そうなってもならなくても、私たち薬剤師は患者さんにきちんとしたケアを提供できるよう努力していきたいものです。