最近、薬剤師が在宅の現場に出ることが多くなって参りました。
それに伴い、薬剤師と患者さんとの距離がより近くなり、私たち薬剤師が患者さんの血圧を測定したり、酸素飽和濃度を測定したりして、日々の服薬・生活指導につなげることもできるようになりました。
いわゆる「フィジカルアセスメント」と言われる行為です。
フィジカルアセスメントとは、「フィジカル(からだ)」からの「アセスメント(情報収集)」という意味を持つ言葉で、医師や看護師では当たり前の概念です。
しかし、薬剤師のフィジカルアセスメントへの介入については、このような声もあります。
「確かに気になるけど、薬剤師はどの程度介入しても良いのかわからなくてできないよ」
「在宅に行ったら患者さんと濃密な会話ができるし、そのときに血圧くらい測れたらいいのになあ。器具も持っていないから無理だよ」
今回は、薬剤師が無理なくフィジカルアセスメントを行うための、考え方や心構え、必要なものについて紹介させていただきます。
そもそも薬剤師がフィジカルアセスメントを行うのはOK?
OKかNGかと言えば、OKです。フィジカルアセスメントを行う上で、薬剤師の行うべきことは「飲んでいる薬がしっかり効いているのか?」「副作用が現れていないか?」を確認することです。
これは薬剤が適正使用されているのか、またこの処方はそもそも適正なのかということを評価するという薬剤師の仕事に繋がるため、問題はありません。
しかし薬剤師は、その検査値を使用して病名を導き出す「診断」をすることはできません。
これは医師の仕事ですので、例えば血圧が高かったからと言って患者さんに「高血圧ですね、治療しなくてはいけません」と言ってはいけません。
在宅の現場で検査値以上があれば、次回診察時医師に相談することを勧めると共に、訪問報告書などで医師に報告するようにしましょう。
薬剤師がフィジカルアセスメントを行う上で必要なツール
薬剤師は学生時代フィジカルアセスメントについて学んできている方が少ないです。(筆者は6年制卒ですが、フィジカルアセスメントの講義・実習は数時間のみでした。)
そのため聴診器を使った血圧測定などは個人によりスキル差が大きく出ますので、自動で測定できるようなものをお勧めします。
市販のもので結構ですし、あまりフィジカルアセスメントを行ってこなかった施設の場合は、最初は比較的手に入りやすい体温計での体温測定と薬局に置いてある血圧計で血圧と脈拍測定だけでも良いと考えます。
より重点的に行いたい場合は、例えば在宅酸素を行っているCOPDの患者さんに酸素飽和濃度測定なども視野に入れても良いかもしれません。
フィジカルアセスメントを行う上での注意点
もちろん患者さんに負担が無い範囲で行うことがいちばんです。体調が悪そうなときや、血圧を測るために体を起こすのが辛いような患者さんには無理して行う必要はありません。
また、医師から不審の目で見られるのが嫌でこっそり行うというのもあまりお勧めできません。出来れば医師の了承のもと、そこで得た検査結果を医師にフィードバックできるくらいの心持ちで臨みたいものです。
また、もし薬剤師が行ったフィジカルアセスメントの中で異常が見つかったとき、主治医にはなるべく早くフィードバックする方が良いでしょう。
在宅でフィジカルアセスメントを行う意義
今回は薬剤師がどのくらいフィジカルアセスメントに介入していくべきか解説させていただきました。
薬剤師は在宅の現場に進出してきているとはいえ、患者さんの体に実際に触れてバイタルサインを取るという行為はまだ浸透してきていないです。
しかし考えていただきたいのは、例えば降圧薬を服用している患者さんが窓口に来た時に、私たちはその薬がしっかり効いているか確かめるために、患者さんに血圧を聞き取ることがあります。
患者さんがあいまいな結果を言ったり、覚えていなかったり、話してくれなかったりした場合は正確な情報を得ることが出来ません。
しかし、私たち薬剤師がフィジカルアセスメントとして血圧を測定することが出来れば、数値を具体的に得ることが出来ます。
その数値を見て、薬剤が適切に服用できているのか、処方は妥当なのか判断することが出来ます。血圧の薬が処方された患者さんの血圧が目に見えて下がるのは大変うれしいことです。
薬剤師がフィジカルアセスメントを行うことは、服薬指導に加えて他の医療関係者との連携や、疾患の早期発見など様々なメリットがあります。
「検査値を見るのは医師の仕事」と思わず、私たち薬剤師も積極的に参加していきましょう。