「人に教えることが好き!」
「自身の知識やスキルを、今後の医療貢献に役立てたい!」
とお考えの薬剤師の皆様へ。
一般的に、「教える仕事」とは無縁な存在だとイメージされがちな薬剤師ですが、実は、実習生への指導・評価に携わることのできる選択肢が存在していることをご存知でしょうか。
ここでは、認定実務実習指導薬剤師として活躍する、薬剤師の役割や業務内容、年収、目指し方について分かりやすく説明します。やりがいや達成感溢れるお仕事を紹介するので、キャリア・スキルアップに興味をお持ちであれば、ぜひ今後の参考にしてください。
認定実務実習指導薬剤師とは…
認定実務実習指導薬剤師とは、そのネーミングから受けるイメージのとおり、実務実習を受ける実習生への指導にあたる薬剤師のことを指しています。
JPEC(日本薬剤師研修センター)が実施する認定資格の一つで、「実習へやってきた薬学部生への指導や評価を行うことができる薬剤師である」と、認定された人へ与えられます。
6年制へ移行した薬学教育では、長期間にわたる病院・薬局での実務実習が導入されるようになりました。
この長期間の実務実習は、より質の高い臨床薬剤師の育成へとつながり、昨今では、新卒薬剤師でも比較的早く戦力として活躍をスタートさせることが可能になってきています。
現場では実習生への指導ができる薬剤師の必要性が高まり、これを受けて厚生労働省は2005年から、補助事業として「実務実習指導薬剤師」の認定資格を創設しました。
次世代の薬剤師を育成する実務実習の場において、なくてはならない重要な存在だと言えるでしょう。
JPECの独自事業として実施されるようになったのは、2010年以降のことです。現在では、23,605名(病院…7,876名、薬局…15,729名)もの方々が、認定実務実習指導薬剤師として薬剤師のタマゴたちへの指導にあたっています。
業務内容について
認定実務実習指導薬剤師の業務内容は、基本的に実習カリキュラムの作成や、実習生への現場指導、評価を行うことです。しかし、実務実習は病院と薬局で行われていて、それぞれの職場ごとに指導内容なども異なるでしょう。
たとえば病院での実務実習の場合、病院薬剤師としての基本的な知識やスキルなどを指導すると同時に、チーム医療の一員として他の医療従事者らと連携を取る際の姿勢や態度などについても教えます。
調剤や製剤、患者さんへの服薬指導・アドバイスなどの、細かな業務内容についてはもちろん、薬剤師が持つ医療人としての役割や、異なる立場の方々とのコミュニケーションの取り方、理解の集め方など、教える内容も病院薬剤師に準じたものとなるでしょう。
対して薬局での実務実習であれば、薬局薬剤師としての基本的な知識・スキルなどを教えることはもちろん、地域医療への貢献につながる考え方や、役割についても指導していきます。
薬局で活躍する薬剤師は、「地域」という、医療現場とは異なる形のチームに参画しています。多様な立場の方々と連携を取り合う…、という意味では、病院薬剤師とも類似していますが、その相手や、細かな心構えの面では異なることも多いでしょう。
このように、病院と薬局とでは、業務内容はもちろん、薬剤師の立場や役割も少しづつ違ってきます。
認定実務実習指導薬剤師は、それぞれの職場で務める薬剤師としての業務に取り組みつつ、実習生へ適正な指導をリードしています。多忙で責任も大きくなりますが、その分達成感や、やりがいに満ちた働き方なのではないでしょうか。
認定実務実習指導薬剤師の需要・年収について
それぞれの研修機関(実務研修を受け入れている病院・薬局)には、少なくとも一人は指導にあたることのできる薬剤師がいる状態が望ましい…と、言われており、したがって認定実務実習指導薬剤師にはある程度の需要が保たれていると考えられます。
とはいえ、必ずしも「認定実務実習指導薬剤師である=収入に好影響がある」とは断言できないので、年収アップを夢見て資格取得を目指すことはあまりオススメできません。
ケースによっては資格に手当がつくこともあるようですが、認定実務実習指導薬剤師を目指すなら「収入アップ」よりも「やりがい」を重視するタイプの方が向いていると言えるでしょう。
認定実務実習指導薬剤師の目指し方…
認定実務実習指導薬剤師になるためのステップは、以下のとおりです。
- 定められた受講資格を満たす(研修の受講資格は以下(『研修の受講に必要な資格や条件について』)で説明します。)
- 養成研修をすべて修了する
- 申請手続きをする
受講資格を満たした薬剤師は「認定実務実習指導薬剤師養成ワークショップ」、「認定実務実習指導薬剤師養成講習会」の養成研修をすべて修了させ、必要な書類を揃えて所定の申請手続きを行います。試験などはありません。
研修の受講に必要な資格や条件について
認定実務実習指導薬剤師の養成研修を受けるためには、以下の受講資格を満たしておく必要があります。
- 実務経験:薬剤師実務経験が5年以上ある。(ただし、6年制の薬学教育を受けた薬剤師は、実務経験が3年以上あれば、前もって養成研修の受講をスタートさせることが可能です。しかしこの場合も、認定申請は実務経験が5年以上になるまで待たなければいけません。)
- 勤務状況:受講しようとする時点で、病院か薬局で継続して3年以上の実務経験があること。(かつ、受講しようとする時点で、その病院か薬局で働いていることが必要です。)
また、勤務先として望ましい条件は、以下のようになります。
病院の場合は…
- 薬剤管理指導業務を実施し、院外処方箋の発行を推進している
- 病棟薬剤業務実施加算の届出を行っている
- 一般社団法人日本病院薬剤師会賠償責任保険(施設契約) 、あるいは、同等の賠償責任保険に加入している
薬局の場合は…
- 「薬学実務実習に関するガイドライン」が求める地域保健、医療、福祉等に関する業務を積極的に行っている
- 「健康サポート薬局」の基準と同等の体制を有している
- 改訂・薬学教育モデル・コアカリキュラムにある「代表的な疾患(がん・高血圧症・糖尿病・心疾患・脳血管障害・精神神経疾患・免疫アレルギー疾患・及び感染症)」に関する症例を実習できる体制を整備している
- 薬剤師賠償責任保険に加入している
くわえて、これも必須ではありませんが、JPALS(日本薬剤師会生涯学習支援システム)、日本病院薬剤師会生涯研修認定薬剤師、日本薬剤師研修センター研修認定薬剤師などの生涯学習システムに参加しているか、認定を受けている薬剤師であることが望ましいとされています。
認定実務実習指導薬剤師に求められる資質・スキルについて
認定実務実習指導薬剤師として活躍する薬剤師には、以下のような資質やスキルが必要です。
- 薬剤師としての基本的な実務能力
- 指導力
- 評価する能力
実習生に指導を行うわけですので、第一に、薬剤師業務に関する基本的な技術や知識が求められるでしょう。
すでに業務指導を受けている実習生に対しての指導なので、「実習の場でイチから教える事なんてないのでは?」と感じられる方も多いでしょうが、そもそもスキルを持たない状態では指導を行う事もできません。
また、実習生への指導力も必要になってきます。
単に「薬剤師として優れた人材である」だけでは、実習生への指導をこなす事は困難カモしれません。知っている事や、持っている技術、また業務との向き合い方などを、正しく教える能力も重要となるでしょう。
多くの方がご存知のとおり、薬剤師に必要なのは知識や技術のみではありませんね。コミュニケーション能力の重要性や、医療人としての倫理観を正しく指導する事も、認定実務実習指導薬剤師の大切な仕事の一つです。
さらに、指導者として実習生を正しく評価する能力も求められる事になるでしょう。
人を評価するとなると、どうしても主観的な私情に囚われてしまいがちです。しかし、指導する薬剤師から下された評価によって、実習生たちが今後持ち続けるであろう考え方や、仕事との向き合い方に関する土台は、良くも悪くも影響されてしまいます。
指導にあたる薬剤師は、その自覚を持ち、客観的かつ適正に評価する目を持って務めることが重要だと言えるでしょう。
人へ教える業務には、自分にとってもメリットが多く存在します!
とうぜんですが、認定実務実習指導薬剤師が行う指導は、実習生へ向けて行われています。しかし、そこで学んでいるのは、将来の薬剤師だけだとは限りません。
そもそも人へ教えることができるだけの知識を持つためには、それ以上に「知っておく」ことが求められるでしょう。
教えるために改めて学びなおすことは、薬剤師としての知識や技術をより確かなものへする重要なステップとなるはずです。
また、自分を頼りにしてくれている実習生の成長は、自分自身が成長すること以上の、やりがいや達成感をあたえてくれるカモしれません。
患者さんとのつながりとは一味違う、「教える立場」ならではの魅力に興味をお持ちであれば、ぜひ認定実務実習指導薬剤師の資格取得を視野に入れてみてはいかがでしょうか。