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転倒・転落事故はなぜ起きる?リスクマネジメントの視点で考える原因と対策まとめ

介護で転倒ヒヤリ

介護中の転倒や転落などは介護事故全体の8割を占めるとも言われています。その原因や対策について考えていきましょう。

ハインリッヒの法則という法則を聞いた事があるでしょうか?

労働災害の分野でよく知られている、事故の発生についての経験則で、1件の重大事故の背後には、重大事故に至らなかった29件の軽微な事故が隠れており、さらにその背後には事故寸前だった300件の異常、いわゆるヒヤリハット事案が隠れているという考え方です。

転倒して骨折したという重大事故を例にすると、その骨折が起こるまでに29回の軽微な転倒事故があり、そこに至るまでには300回のヒヤリハット事例が隠れているということです。

介護事故を防ぐには、要因をヒヤリハット等から分析してリスク管理を徹底する必要があります。

今回は、介護事故によって生じる様々なトラブルや原因・対策などについてお伝えします。

介護事故の中で圧倒的に多いもの

介護事故と一言で言ってもその種類は、多岐に渡り、その中でも圧倒的に多いのが転倒・転落になります。

介護による事故と言えば食べ物を喉に詰まらせて窒息がよく挙がりますが、それは食事形態や嚥下能力に注意すれば防げ、発生し得る場面も限られます。

対して、転倒・転落というのは24時間いつでも起こり得る可能性がある事故です。

朝起きようとして端座位から滑り落ちた・床が濡れていた・視空間の失認がある・下肢筋力の低下からフラツキがある等転倒や転落は常に隣り合わせで潜んでいます。

車椅子を使用していても注意が必要で一見、車椅子なら転倒や転落なんて心配ないと思いがちですが、少し待ってください。

ある程度ADLが低下していると、座っている時に姿勢を崩して滑り落ちて転落の危険性があります。

まず人は外的圧力を継続的に集中して掛けられると、その部位に褥瘡(じょくそう)※が発生します。

これを防ぐ為に人は寝たきりで動く事が出来ない場合を除き、無意識か否かに関わらず姿勢をずらして圧力が掛かる部位を分散しています。

例えば長時間同じ姿勢でいると痛くなり動いたり、座っている場合は座り直しますよね。

高齢者も同じで車椅子の上でお尻全体で身体を支えていたものが、徐々にふんぞり返るような姿勢に崩れ、しまいにはそのまま前方に滑り落ちるようにして転落に至る可能性があるのです。

転倒が原因で骨折までに至ってしまうと、それを引き金として寝たきりになったり、入院による環境の変化や幹部の固定や手術といった本人が受け入れ難い出来事によって認知症状の増悪にも繋がる恐れもあり大変危険です。

たかが転倒・転落と侮ってはいけません、体がふらついていないかなどよく見て注意を心掛けましょう。

※褥瘡(じょくそう)とは、寝たきりが原因で、体重で圧迫されている場所の血流が悪くなったり滞ること

頭を打った場合は、最悪死に至りますし、脳出血や硬膜下血腫等の後遺症として血管性認知症を発症するケースもあります

事故発生後にしなければならない各種への対応

どんなに対策をしていても、事故は発生してしまうことがあります。

事故によっては、即座に動けなくなるという方も多いです。

中には、適切な行動をとれなかったがために、訴訟問題につながるケースもあります。

また、介護施設への悪評へもつながり、経営も危ぶまれる可能性も出てくるのです。

そこで、万が一事故が起こってしまった場合、どう対処してしかなくてはいけないのか、お話ししていきましょう。

適切な対処をすることが、利用者だけではなく施設で働く職員を守ることにもつながるのです。

事故発生直後の対応

事故発生直後は、気が動転して俊敏に動くことは難しいケースもあるはずです。

しかし、そのような時だからこそ、迅速な対応は必要です。

迅速に動くことで、利用者の安全、または他の利用者への安全にもつながります。

そこで、事故発生直後は、次の3つのポイントを意識して動きましょう。

状況の把握

事故発生直後は、まず状況の把握が大切です。

利用者のケガなど状況の把握、どういった状況で事故になったのか、何をすべきかなど判断します。

特に利用者がケガをしている場合は、気持ちが焦りがちです。

冷静になることを心がけ、落ちついて職員への指示などを行い対応するようにしましょう。

応急処置

まず事故が起こった場合に最優先で考えなくてはいけないのが、利用者の身の安全です。

ケガをしているようであれば応急処置など手当をし、必要に応じて救急車を呼ぶなどの対処をしましょう。

日頃から、事故が起こった場合の対処方法など職員同士で話し合う、救命講習などに参加するなどといった対策を取っているといいですね。

マニュアルに沿っての対応

事故が起こった場合の対処方法を、「事故対応マニュアル」として周知徹底することも大切です。

また、急な事故に冷静にかつ迅速に対応できるよう、職員間での訓練も行うようにしましょう。

そして、事故が起こってしまった場合は、事故検証としてどうして事故は起きたのか、どう対応するべきだったのかなど職員全員で話し合い、今後の防止策として共通認識することも大切になります。

行政への対応

事故が起こってしまった場合、施設の“汚点”として隠してしまうケースは少なくありません。

しかし、それではクリーンな介護施設とはならず、何か問題が起きればかくしてしまえばいいといった意識を持ちやすくなります。

そこで、事故が起こってしまった場合、どう行政へ対処するべきなのかお話ししましょう。

事故報告

重大な事故が起こった場合、介護施設は各市区町村(保険者)に対して「事故報告書」を提出することが義務づけられています。

報告しなくてはいけない事象としては、次の4つがあるので把握しておきましょう。

  • 介護中の重症になった事故や死亡事故
  • 食中毒や感染症の発生
  • 職員による不祥事(法令違反など)
  • そのほか重度の事故など報告が必要なもの

これらの事故が起こった場合、市町村は介護施設への対応や都道府県に報告する義務があります。

大事になると感じ隠ぺいしてしまうケースもありますが、事故が起きた場合はしかるべき対処を取ることが何よりも重要なため、必ず報告するようにしましょう。

行政指導への対応

事故報告後、行政の目線から判断して介護施設の対応に問題がある、もしくは不十分と判断された場合、行政指導があります。

事故が故意によるものか、不可抗力なのかなどあらゆる視点から考慮して、行政指導がされますが、ニュースで放送されるような職員による暴力事件などといった場合は、警察が同時に動くこともあります。

行政指導をされると、認定取り消しや業務停止などといった処分を受けることもあるので、適切に事故対応を行い、報告することが極めて重要です。

事故当時者となった職員への対応

利用者に対しての対応は、最も最優先で行うべきですが、同時に事故を起こした職員への対応も大切です。

再発防止のため、指導・教育の徹底といったことはもちろん、場合によっては自宅謹慎や懲戒処分などといった処分を下す必要もあります。

管理者は、冷静に事故の状況を見極め、状況に応じて解雇といった選択も迫られます。

ただし、解雇に関しては慎重に決めることが大切です。

労働基準法などを考慮し、検討しましょう。

利用者・家族への対応

利用者やその家族に対しての対応は、慎重かつ誠意をもって行わなくてはいけません。

ただ「事故があった」だけでは、誰も納得しませんよね。

「もし自分の家族が、安全であるはずの施設で事故にあったとしたら・・・」と考え、真摯に対応することが大切です。

そこで、次のように利用者とその家族への対応の仕方が、求められます。

誠意ある謝罪を速やかに

介護施設として、謝罪をすることに抵抗を感じる管理者・経営者も少なくありません。

「謝罪をしたことで、今後起こる可能性のある裁判・補償問題などで不利になる」と考える方が多いからです。

しかし、逆の立場で考えると、謝事故が起こった経緯だけ知らされ、謝罪が一切なしといった状況をどう思うでしょうか。

きちんと謝罪をされたうえで状況の説明をされると収まった感情が、謝罪がない状況では「この施設は、自分たちが悪いと思っていないのでは?」と神経を逆なですることにもつながります。

まず事故が起こった場合、施設として利用者・家族に対応するべきことは、

  • 事故の状況・原因を冷静に明確に説明
  • 誠意をもって事故が起こってしまったことの速やかな謝罪
  • 今後の対応の仕方

といった3つのポイントです。

損害賠償

事故は、生命に関わることもあります。

そのため謝罪をしたからといって、許されるとは限りません。

場合によっては、訴訟問題に発展することにもなります。

この場合、直接関わった介護職員、そして介護施設が相手になるケースが多いです。

問われるのは、事故の内容にもよりますが

  • 安全配慮義務違反
  • 不法行為の使用者責任

といった2つが主になります。

基本的に、利用者の弁護士から和解に向けての話合いを提案されますが、話し合いに応じない、介護施設が不誠実な対応をとると、社会的にも評判を落とすことになりかねないので注意が必要です。

転倒や転落事故の原因とは

ここまで、事故が起こってしまった場合の対処方などお話ししてきましたが、何よりも事故が起きないように対策をすることが重要です。

介護施設の中で、最も置きやすい事故としては、「転倒・転落事故」があります。

そこで、どういった場所・原因で事故が起きてしまうのか、お話ししましょう。

起きやすい場所

介護施設の場合、転倒・転落事故が起きやすいのは、次の5つのような“室内”です。

  • 茶の間、ホール
  • 自室
  • 階段
  • 廊下
  • 浴室

高齢者は身体機能が低下し、足を上げての歩行が難しくなります。

スリ足歩行になり、ちょっとした段差や障害物に躓きやすくなります。

時には、カーペットの段差でも躓くことがあるので、注意が必要です。

床に物を置かない、段差をなくすなどといった対処をしましょう。

また、浴室では滑りやすく転倒して頭を強打し重症を負うケースも少なくありません。

手すりの設置、不安がある利用者には寄り添うなどといったことも必要です。

よくある事故原因

転倒・転落事故の原因としては、障害物などの外的要因と、病気などの内的要因に分かれます。

それぞれの要因についてお話ししましょう。

外的要因

外的要因は、先にお話ししたように敷居などの段差などといった建物の構造や、すべりやすいフローリングなどといったものが含まれます。

躓いた・すべったなどといった理由で転倒してしまうため、手すりをつける、段差をなくすなどといった対策が必要です。

また、ベッドからの転落もあります。

寝るときに柵をつけるなど工夫をしましょう。

内的要因

建物の構造ではなく、病気や加齢によって身体的能力が低下し転倒しやすくなるといったこともあります。

また、薬を服用している方の場合、副作用によって足がふらつくなどといった症状が現れることもあるので注意が必要です。

特に、内的要因を持っている利用者は、


身体的機能が衰える→ちょっと段差にすぐ躓く
足がふらつく→何もないところで転ぶ

などといったように、外的要因と合わせて転倒事故を起こしやすくなるので、気をつけましょう。

転倒や転落事故を防ぐためには

では、転倒・転落事故を防ぐためにはどう対策を取るといいのか、まずは利用者の身体的な状態などを把握することが重要です。

そこで、転倒・転落事故防止対策についてお話しします。

環境を整える

転倒・転落事故を防ぐためには、施設の環境を整える必要があります。

躓きやすい段差はないか、廊下に障害物はないかなど普段気にならないことまでチェックしましょう。

ラグやカーペットに段差がある場合は、端をガムテープなどで床に止め、ひっかかりを少なくすることも有効です。

利用者の状況に合わせて、玄関等段差がある場所にスロープを設置する、つかまって歩けるように手すりをつけるなど対策をします。

特に、浴室では手すりにつかまって歩けるように手すりは必須です。

利用者にも手すりの使用を促しましょう。

靴や靴下を見直す

筋肉が低下しスリ足で歩く利用者には、つま先が自然に反り上がる構造の靴を選ぶようにおすすめしましょう。

つま先が上がることで、小さな段差に躓きにくくなります。

また、靴底・靴下の底に滑り止めがついているものを選ぶと、フローリングなどですべって転倒するといった防止策になります。

転倒予防の機能訓練を受ける

リハビリも兼ねて、筋肉の低下がみられる利用者には、転倒予防の機能訓練をするようにしましょう。

特に、足が上がらないといった場合、大腿四頭筋とふくらはぎの筋肉とトレーニングすると有効です。

とはいえ、無理は禁物です。

散歩や軽いストレッチから始め、徐々に体を慣らすことも大切になります。

リスクマネジメントの基本!なぜヒヤリハットや事故報告書が必要なのか?

例えば、事故にはならなかったものの、一歩間違えば重大な事故になっていたといった事象が起きた場合、「ヒヤリハット報告書」を責任者に提出します。

しかし、「事故にならなかったのにどうして提出する必要があるの?」といった疑問を持つ方もいますよね。

そこで、ヒヤリハット報告書はどうしてリスクマネジメントにおいても重要なものなのか、解説していきましょう。

「防げた事故」を無くすため

ヒヤリハット報告書は、極端に言えばいつ事故になっていてもおかしくないミスを、上司に報告することになります。

そうしたことを報告し、集約しデータ化することによってミスが起こりやすい傾向が見えてきます。

こうした傾向を改善することで、同時に事故を防ぐための対策も取ることが可能になるのです。

また、報告書を作成することで、事故を起こしそうになった職員にとっても印象深いものになり、原因を追究し注意深く対応することができます。

介護の質向上のため

ヒヤリハット報告書を、職員で検証することで、どうして事故が起こりやすいのか、今後どう対応すると事故を防げるのかなど共通意識を持ちやすくなります。

その結果、事故を防ぐことにもつながり、介護職員全体の質を高めることにもなるのです。

ヒヤリハット報告書を作成した職員が“悪い”ではなく、どうして起こってしまったのか、職員で認識し同じことを起こさないように、注意することが重要になります。

介護職員自身を守るため

日々ヒヤリハットと共有している中で、万が一事故が起こってしまった場合、先にお話ししたように市区町村へ「介護保険事業者事故報告書」を提出し、行政からのチェックされます。

ヒヤリハット報告書を、日頃から適切に記入していくことで、どうして事故が起こったのか、状況の説明など適切に行うことができるようになります。

その結果、介護保険事業者事故報告書を正確に記入することができるようになるため、ゆくゆくは職員を守ることにもつながるのです。

家族とのトラブルを防ぐため

どんなに気をつけていても事故は起きてしまうことがあります。

しかし、いざ事故が起こってしまった場合、利用者の家族が「きちんと見ていてくれない施設」と日頃から感じているのと、日々気をつけながら対応してくれている上での事故と感じるのでは印象は違いますよね。

ヒヤリハット報告書で記載した内容を、家族とも共有することによって、利用者に合わせ対策を取りながら対応しているといった信頼関係を築くことにもつながります。

介護員の質が問われる!?報告書作成時のポイントとは

実は、ヒヤリハット報告書は、ミスが起きてしまったことよりも、記載されている内容によって、介護士としての質が浮き彫りになることがあります。

適当に記載されている報告書では、「きちんと利用者を見ていない」「重要性がわかっていない」などといった印象を与えてしまいます。

また、原因などがを適切にとらえてないことで、今後も同じようなミスをし、重大な事故につながりかねません。

いい報告書を記載できるということは、自分の行動を冷静にとらえられるといった証拠でもあるのです。

そこで、どうやってヒヤリハット報告書を記載するといいのか、ご紹介していきます。

文章は短く

「文章は短く」が基本です。

ダラダラと文章をつなげていては、読みにくくなおかつ要点がわかりません。

「いつ、だれが、どうした」を基本に短い文章でまとめていきましょう。

客観的に

報告書に主観はいりません。

客観的に、第三者の立場で事実だけを文章を記載するようにしましょう。

例えば、

「午後9時頃、ベッドから〇〇さんが転落しているのを見つけた」
「声をかけると、返事があった」

などといったように、感情を記載する必要はありません。

もし憶測を記載する必要があれば、最後に入れるようにしてくださいね。

施設独自の呼称や略語は使用しない

略語やその施設で呼ばれている独自の呼称は使わないようにしましょう。

もし大きな事故が起こった場合、ヒヤリハット報告書も市区町村へ提出することになります。

そのためあくまで、第三者が読んでもすぐに理解できる報告書である必要があります。

介護事故を減らすための提言

介護事故を防ぐ為には、観察を怠らずヒヤっとハッとする感性が必要です。

ヒヤッとハッとする事が無ければ、大事故を防ぐ為の気付きを得られないからです。

このヒヤッとしたりハッとした時の事を書くのがヒヤリハットです。

ヒヤリハットには、ヒヤッとハッとした時の内容とその背景にあると思われるを記載します。

これを書面に挙げる事で、個人が今後気を付けるだけでなくチームで対策を講じる事が出来るので、事故の防止に繋がるのです。

施設で働く介護士の中には、起こっていない事を書いても気に留めていられない、面倒くさいと言い、出そうとしない人がいますが、それでは起らなかった事故も起こってしまいます。

介護事故の典型的パターンと直結する可能性がある悲惨な事態について、介護事故を防ぐ為のヒヤリハットを活用したリスク管理についてお伝えしましたが、最後に1つの考え方をお伝えしておきます。

介護事故を0にするという事はできません、必ず起きうるものだということを忘れずもし起きてしまった時は適切な対処法をお願いします。

事故が起きてしまったと嘆いてスルーするのか、起きた事故を検証し、再発を防ぐ為に今後どのような対策を講じるのかを検討するのかがリスクマネジメントの分かれ道です。必要なことをチームで共有出来れば、同様の事故は防ぎやすくなります。次第に同じ轍を踏まないプロらしさも備わります