高齢者の生活を語る上で最も重要視されるのが、QOLの向上を図るという考え方です。
そのために大切なことは、心と身体を動かすこと!ADLの大切さと廃用症候群にさせないためのポイントについて探ります。
QOLとADLの関係性を理解する
高齢者の生活で重要となるのがQOLとADLです。
まずはこれらの意味、そして関係性について知っていきましょう。
QOLとは?
QOLは「Quality of life」の略で、直訳すると“生活の質”という意味になります。
その概念は、歴史的に言えばソクラテスの発言である「なによりも大切にすべきは、ただ生きることでなく、よく生きることである」といった哲学的追求までさかのぼることができます。
人が精神的、社会活動的に生きがいを感じ、満足できる生活を目指す…ということを表しています。
要するに、人間らしく毎日をどれだけイキイキとした生活を送ることができているのか?という、心の満足度を評価するものです。
QOLとADLの関係性は?
現在の介護業界では、加齢に伴う障害や身体的な衰えを感じていても、本人が幸福な毎日を送ることができれば、QOL(生活の質)は向上するという考えが基本となっています。
いくらリハビリテーションを重ねてADLが向上しても、リハビリに対し多大な苦痛を感じていたり、いくらADLが自立しているといっても一つ一つの動作に時間を要してしまってはQOLの観点からいえば逆効果となってしまいます。
身体と心は繋がっています。まずは本人にとって良い刺激を与え、本人が安心できる援助を行えば心が満たされていくのです。
高齢者のQOL向上を図るために、私たちはどのような支援が必要なのでしょうか?
QOLが誕生した背景から、一緒に考えていきましょう。
QOLはリハビリテーションの考えが根源です
QOLは、障害によって身体の機能が回復しなくても、社会参加や自己実現が可能であるという考え方である、1970年代のアメリカで成立した『リハビリテーション法』の影響を受けたと言われています。
1980年代になると、QOLは医療分野で大きく広がりました。そのきっかけとなったのが末期がん患者への支援です。
限られた生命、がんに伴う痛み、家族との寄り添いなどの緩和ケアを中心とした考え方として注目されました。
そしてその考え方は、高齢化を迎えた現代、慢性疾患や身体の障害を抱えた福祉分野で大きく広がりを見せました。
高齢者が満足した生活を送り、少しでも楽しく余生を過ごすことができるようにという願いがあるのです。
高齢者QOL向上のための “ADL・IADL”の考え方
ADL(日常生活動作)から派生した類型に、IADL(手段的日常生活動作)という言葉があります。
これは「Instrumental Activities of Daily Living」の略称で、ADLの延長線上にある掃除や洗濯などの家事動作全般から金銭管理や内服管理などの応用的な動作を指します。
詳しくは以下の記事でも紹介しているので参考にしてみて下さい。
介護士が知っておくべきADL(日常生活動作)とIADL(手段的日常生活動作)の意味と考え方
在宅生活を送る高齢者には、ADL(日常生活動作)だけでなく、IADL(手段的日常生活動作)もしっかりと見つめて、本人の意思を尊重した適切な介護ケアを行うことで、QOL(生活の質)の向上を図ることが大切です。
人の生活は、食事・排泄・移動などの基本的な動作(ADL)と、家事・買い物・金銭管理・掃除などの生活手段(IADL)が相互的に作用して成り立っています。
過去の考え方では、ADLの機能ができていれば、自分で家事や掃除は自分でできるという考え方でした。
しかし、ADLの機能があっても、実際に『家事・掃除をやっている』とは限らず、その影響で栄養失調や汚れた部屋で過ごす…などの問題が発生し、生活の質が下がっていたという事態が起こったのです。
要するに、どれだけADLに問題がなくても、IADLがうまく実行できていなければ、QOL(生活の質)に問題が生まれてしまうのです。
高齢者の“悩み”を解消し、好循環につなげよう
高齢者が悩みを抱えると、QOLの質は下がってしまいます。
その原因として
- 身体が思うように動かなくなる不安
- これから生活をしていく不安
- 病気への不安
- 相談相手がいない
などがあります。
こうしたことから『なんとなく外出したくない』『生きていくのが辛い』と考えている方が多くいます。
それは加齢とともに、誰もが悩み、苦しむ壁です。
しかしこのまま過ごしてしまえば、人間らしく生き生きとした毎日を過ごすことができず、QOLが下がってしまいます。
介護の世界では、このQOLを高めるように支援することが大切だと言われています。
QOLを高めるためには、高齢者が前向きな気持ちになってもらわなければならないため、まずは少しでも身体を動かして身体機能を高めることで、心に元気を与えます。
人は前向きになると、うつうつとした気持ちが和らいていきます。
そうすることで、出かける意欲が湧き、“家で閉じこもり生活”から、“外に出ていって社会参加できる”につながるのです。
身体を動かすことは、ADL機能を高める効果があります。
ADL機能を高めると、心に元気を与えます。
このような好循環を作り出すことにより、QOL向上につながるのです。
日頃から“動く”ことが高齢者のQOLを高めるポイント
高齢者のQOLを高めるには、ADLが深く関係しているとお伝えしてきました。
そもそもADLの向上を図るには、“廃用症候群”にならないようにすることが大切です。
廃用症候群とは?
廃用症候群は、身体を動かせなくなったことで筋力が低下したり関節が動きづらくなったり、認知症状が悪化してしまうなどの弊害によって自分で動くことができなくなり、他の病気を併発してしまうことです。
高齢者には次のことが原因で、廃用症候群になりやすいと言われます。
- 病気や加齢により運動能力が低下する
- 怪我や病気の療養のため長期間離床できない生活が続く
- なんとなく元気がない…うつ傾向になる
外に出ず閉じこもりがちになる・ベッドで寝たまま過ごすことが、廃用性症候群を引き起こす原因となってしまいます。
病気になり絶対安静が2週間続くと、高齢者の筋力は2割も減少すると言われています。
よって身体を思う様に動かせなくなり、寝たきりになることも。
こうなってしまうと、生き生きとした生活を送ることができなくなってしまいますし、QOLの質が下がります。
廃用症候群を防ぐには、どのように支援すればいいのでしょうか。
ベッドから起き上がって生活する
寝たきりの生活を続けてしまうと、ますます廃用症候群を引き起こしてしまいます。
食事やトイレの時間には起き上がり、ベッドから離れてすごしてみるようにしてください。
寝たきりの高齢者には、オムツではなくトイレに座ってもらうことで、排泄の促進になり、体を動かすきっかけにもなり、オムツで不快な思いをしなくて済みます。トイレまで移動するのが大変なのであれば、ポータブルトイレを使用するのもよいでしょう。
ベッドから車椅子、車椅子から食事用の椅子に座り替えることで、美味しく食事ができますし、気分も明るくなります。
寝たきりで過ごすより、褥瘡(床ずれ)の悪化を予防することができるのです。
※褥瘡と床ずれは同義なので、表現の仕方を直しました。
閉じこもりの原因を見つけて、外に出てみるように促す
家に閉じこもりになってしまうと、外部の人との関係がなくなり、外に出るきっかけを無くしてしまいます。
そうなると、気持を前向きにできずうつ傾向になり、廃用症候群が起きてしまうことがあります。
少しずつ外に出るきっかけを作りましょう。
気持ちよく過ごせますし、気分が晴れやかになります。
まずはなぜ外に出たくないのか?原因を探ってみてください。
例えば…
- 歩行機能が低下して歩きたくない
- 外で転倒したことがあるから不安だ
- 外で活動をしなくなり、人との関わりが減った
解決方法
外出の際に介護士や家族などの支援者がサポートすることで、少しずつ外で歩くことをしてもらいましょう。
家の周りの段差の解消、歩行器や杖などを提案して、転倒しないようにしましょう。
デイサービスや趣味活動を提案して、外出に興味をもってもらいましょう。
外出も最初は無理のないように。週1~2回は外出してもらえるようにしましょう。
ADL・QOLについてまとめ
高齢者のQOLの質は、ADLやIADLと深く関係していました。
定年退職をして社会的役割を終えた方や、家族の自立・伴侶の死亡、友人と疎遠になることで外出するきっかけをなくし、身体を動かすことがなくなるなど、ほんのささいなきっかけで、気力をなくしてしまいます。
それは高齢者だけでなく、若い世代でもおこりうることです。
まずは少しでも身体を動かす、他者の力を借りて散歩してみるなど、身体に刺激を与えることで、効果が出てきます。
ほんの少しのきっかけで、QOL(生活の質)は向上します。
介護支援を行うときは、高齢者が少しでも前向きに身体を動かしてもらえるような声かけや支援づくりが大切です。