「勤続10年以上の職員を、月額8万円アップします」と発表されて大きな話題となった新たな介護職員の待遇改善の取り組みについて、いよいよ詳細が判明してきました。
発表時点から様々な議論の途中経過がニュースで報じられるたびに、一喜一憂している方も多いのではないでしょうか。
この新たな処遇改善加算の名称が、「介護職員等特定処遇改善加算」に決定し、その支給条件や支給方法についても大枠が発表されました。
私の周囲では、「勤続10年って、法人に10年?業界10年ならばいいの?」や、「10年に満たない職員や介護職員以外には何のメリットもないの?」という疑問の声が多く聞こえています。
中には転職するか、この加算に期待して留まって頑張るか迷っている方もいることでしょう。
そこで今回は、この「介護職員特定処遇改善加算」について徹底解説していきます。
今までの介護職員処遇改善加算って、どんな仕組み?
介護職員処遇改善加算が施行されたことによって、給料がアップした人と変わらなかったといった人と明暗が分かれましたね。
どうして、給料に大きく差が出てしまうのか、まずは、今までの「介護職員処遇改善加算」をおさらいしていきましょう。
どんな目的で作られたの?
そもそも、介護職員処遇改善加算は
- 職員のキャリアアップへの仕組みが充実している
- 職場環境の改善を実施
といったことに取り組んでいる事業所に対し、介護職員の賃金を上げるための手助けとしてお金を支給する制度です。
もともと、介護職の給料は安いというのは周知の事実ですよね。
そこで、人手不足を改善するべく賃上げし、そして仕事面でのやりがいや充実感をもてるよう、促す目的としてつくられたのが「介護職処遇改善加算」になります。
どういう流れで給料が上がるの?財源は?
この加算も利用者の自己負担分に含まれるため、自治体からの介護報酬だけでなく利用者自身も財源の一部を負担している点について触れてください。
介護職処遇改善加算が介護職員へ還元されるまでは、次のような流れになります。
- 事業所が職場改善計画・キャリアアップ計画などをたて、自治体へ報告
- 介護報酬に「給料の上乗せ分」を加え事業所へ支給
- 「給料の上乗せ分」を介護職員へ支給
ここで気になるのが、「給料の上乗せ分」の財源はどこからでているのかという点ではないでしょうか。
実は、介護職員処遇改善加算は利用者の自己負担額である1割に含まれています。
つまり、介護サービス利用料+介護職員処遇改善加算の1割を利用者が負担、残りの9割を自治体が事業所へ支払うことになります。
そのため、介護職員処遇改善加算の一部分は利用者も負担しているということになりますね。
対象者は?
介護職員処遇改善加算は、正規職員だけが対象と思われがちですが、契約社員はもちろんパート・アルバイトも対象の加算です。
多くの事業所では、パートやアルバイトで活躍している方も多いですよね。
介護職員処遇改善加算の対象者の定義としては、「現場で介護業務を行っている人」となっています。
つまり、雇用形態の指定や持っている資格の有無などは関係なく対象になるということです。
実際には、介護職員処遇改善加算の対象として事業所では、正規職員だけではなく契約社員やパートの方も給料が上がっていることが多いです。
ただ、どれくらい給料をアップさせるは事業所次第になるので、自分で思ったほど大幅に上がらなかったといった方もいます。
また、同じ事業所で働いていても、看護師や事務員などは加算の対象外になるので覚えておきましょう。
給料が上がること以外のメリットは?
そもそも介護職員処遇改善加算は、次の4つの条件を満たさなければ適用されません。
キャリアパス Ⅰ | 役職・職務内容などに応じた賃金の整備 |
---|---|
キャリアパス Ⅱ | 資格取得の支援などスキルアップの支援、研修の実施など |
キャリアパス Ⅲ | キャリアや資格などに応じて昇給する制度を設ける |
職場環境等要件 | 賃金以外(休日など)の職場の環境の改善の実地 |
介護職員処遇改善加算は、給料アップが一番わかりやすいメリットです。
しかし、加算を取得できるための要件を満たすことで、キャリアップを望めたり、職場の環境(休日の取得など)の改善など、介護職員にとってうれしいメリットも発生します。
結局、どのくらい給料が上がっているの?
最低限のルールが定められていて、詳細は事業所の裁量に任されていることが分かるように纏めてください。
介護職員処遇改善加算を受けることで、給料のアップが見込まれますが、実はどの事業所も一律で支給されるわけではありません。
実は、上記で説明した介護職員処遇改善加算を受けるための条件を、事業所がいくつクリアしたかによって変わります。
例えば、以下の表のように4つの条件のうち1つを満たすと13,500円、4つ全てを満たすと37,000円といったように支給金額が異なるのです。
加算 | 条件 | 一人当り/月 |
---|---|---|
加算Ⅰ | キャリアパスⅠ~Ⅲまで実施+職場環境等要件を満たす | 37,000円 |
加算Ⅱ | キャリアパスⅠ~Ⅱまで実施+職場環境等要件を満たす | 27,000円 |
加算Ⅲ | キャリアパスⅠorⅡ+職場環境等要件を満たす | 15,000円 |
加算Ⅳ※ | キャリアパスⅠorⅡor職場環境等要件を満たす | 13,500円 |
※加算Ⅳについては、今後廃止予定
加えて、どの職員にどの程度の給料アップを図るかは、その事業所の裁量に任せられています。
勤続年数や年齢、雇用形態によって基準を決めれている場合もあれば、賞与などの一時金として支給するなどさまざまです。
そのため、事業所によって給料のアップ率や方針が異なるので、同じ職場でももらえる金額が異なるのが特徴になります。
介護職員等特定処遇改善加算の概要について
これまで、介護職員処遇改善加算は実際に介護職員の給料アップに成功はしたものの、もう一つの目的である人材不足の改善には至っていません。
そこで、より新たな加算を設け介護職員の賃上げをし、人手不足の改善を図るため2019年の10月から「介護職員等特定処遇改善加算」が施行されます。
ここからは、介護職員等特定処遇改善加算の算定要件や対象の職員など、詳しくお話していきましょう。
介護職員等特定処遇改善加算の算定要件
介護職員等特定処遇改善加算は、全ての事業所が対象になるわけではありません。
次の表の条件を満たす事業所が、対象となります。
新加算Ⅱ | + | 新加算Ⅰ |
---|---|---|
・介護職員処遇改善加算Ⅰ~Ⅲまでを取得 ・職場環境等要件を満たす取り組みを複数行っている ・処遇の改善に対しての取り組みをホームページなどで公開し見えるようになっている |
サービス提供体制強化加算の最上位の区分などの算定をしている |
※介護職員等特定処遇改善加算=新加算
介護職員等特定処遇改善加算Ⅰは、加算Ⅱの条件に加え次の4つのうちいずれかを取得している必要があります。
- サービス提供体制強化加算(もっとも高い区分)
- 特定事業所加算
- 日常生活継続支援加算
- 入居継続支援加算
介護職員等特定処遇改善加算の配分対象になる職員や職種の考え方は?
介護職員等特定処遇改善加算の概要としては、
- 勤続10年以上
- 介護福祉士の資格を持っている
といったことが基本です。
しかしすでにある介護職員処遇改善加算とは違い、新加算の本来の目的としてはリーダー級のスキルを持つ介護職員の処遇の改善のため、厳密に10年ではなく、事業所の判断に任せられています。
結局、勤続10年の人はいくらくらいもらえるの?
国は、介護職員等特定処遇改善加算の予算として2,000億円を予定しています。
これは、勤続10年の介護福祉士に対して毎月8万円の支給をもとに計算された数字です。
そのため世間では、月8万円の収入アップが期待されていますが、実際はそう甘くありません。
勤続10年以上になる介護福祉士の人数とその事業所の介護報酬の金額と加算率に応じて変動されることになります。
例えば、介護報酬が600万円、勤続10年以上の介護福祉士が3人所属している特別養護老人ホームで新加算Ⅰを受ける場合は、
600万円×2.7%÷3人=54,000円/人
※2.7%は国が定める加算率(サービス区分と新加算Ⅰ・Ⅱに応じて決められている)
となり、給料アップとしては一人当たり54,000円ということになります。
事業所の介護報酬額と加算率によって、国から支給される介護職員等特定処遇改善加算給付額が決まります。
これは、事業所に勤続10年以上の方がどれだけいても変わりません。
そのため、上記の例では、162,000円給付されるのに対し、勤続10年以上の方が1人しかいない場合は8万円を給料アップとし、残りの82,000円を事業所の判断でリーダー級のスキルを持つ職員と配分しても問題ないのです。
つまり、介護職員等特定処遇改善加算として給付される金額は、介護報酬額と加算率によって変動し、また給付対象になる職員の人数に応じて、給料のアップ率が異なるということになります。
同じサービス区分の事業所であっても、加算によって受けられる給料アップ額は異なると覚えておいてくださいね。
ホントに8万もらえる!?過度な期待は禁物な点
このように、新加算の概要が決まりました。
結局のところ、どの職員がどのくらい実質賃金が上がるのでしょうか?
骨子は決まっても、実は具体的にこの加算による賃金向上額のイメージがわかない理由があるのです。
サービス毎に格差が生じる恐れ
介護職員等特定処遇改善加算は、前項でお話ししたように、サービス内容に応じて加算率が異なります。
そのため、サービス区分によって給付額の差が広がってしまうのが特徴としてあります。
そこで前項でご紹介した特別養護老人ホームとデイサービスを比べてみましょう。
特別養護老人ホーム | デイサービス | |
---|---|---|
対象介護福祉士 | 3人 | |
介護報酬額 | 600万円 | 200万円 |
加算率(新加算Ⅰ) | 2.7% | 1.2% |
支給額 | 162,000円 | 24,000円 |
1人当たりの支給額 | 54,000円 | 8,000円 |
表を見てもわかるように、サービス内容に応じて給付額の差が大きくなります。
特に、小規模の事業所では介護報酬額の金額も高額になることがなく、国が予算として挙げている8万円の給料アップは夢のまた夢ということです。
基準通り支給しなくてもよい、例外規定がある
介護職員等特定処遇改善加算を受けるためには、
- 月8万円の給料アップになる人
- 給料アップ後に年収が440万円を超える人
を設定しなくてはいけないといった規定があります。
しかし、前項でお話ししたように、小規模の事業所ではこの規定をクリアすることが難しいと考える方も多いです。
そのため、次の3つのような例外規定を設け、該当する事業所であれば、加算を受けることができるとされています。
- 加算額が少額により、440万円の規定を満たすことが難しい。
- 職員全体の賃金の水準が低い
- 440万円の規定を満たすための改善に期間が必要
この例外規定によって、小規模の事業所であっても加算を受ける対象となることができますね。
どう分配するか、事業所の決断が必要
介護職員等特定処遇改善加算は、勤続10年以上の介護福祉士が対象ではあるものの、給付の仕方は事業所の裁量に任せられています。
つまり、給付額として15万円が支給された場合、5万円を勤続10年以上の介護福祉士へ配分し、残りの10万円を業務態度や技能を考慮し、10年未満も勤続年数であっても配分することもできるということです。
ただ、お金が関わることでもあるため、職員からの不満がでる可能性もあります。
そのため、事業所としてもどう配分するのか、明確な決断が必要になるでしょう。
まとめ
ここまで、介護職員等特定処遇改善加算の概要などについてお話ししてきました。
しかし、既存の「介護職員処遇改善加算」と10月より新しく施行される「介護職員等特別処遇改善加算」は、名前も似ていることもあり、その違いや特徴がうまく受け止めていないという方も多いです。
そこで、簡単ですが、施行目的と対象となる職員についてまとめました。
介護職員等特定処遇改善加算 | 介護職員処遇改善加算 | |
---|---|---|
施行目的 |
・知識や技術、経験のあるリーダー級の職員への処遇改善 ・介護職でも他企業のような賃金を受け取れるといった表明 ・他の事業所への人材流出を防ぐ |
・介護職員の資質向上 ・賃金改善 ・労働環境の整備 ・人材の確保 |
対象職員 |
・勤続10年以上 ・介護福祉士の資格を持っている ・リーダー級のスキルがある ・他職種でも介護に携わってスキルがある |
介護職員のみ |
給付額 |
・月8万円 ・給付後440万円以上の年収 ※例外規定はあり |
13,500円~37,000円 |
介護職員処遇改善加算は、事業所の中でも介護職員にのみ支給される加算です。
しかし、介護職員等特定処遇改善加算は看護師や理学療法士なども対象にすることができます。
介護職員等特定処遇改善加算は、10年以上の経験と知識を持った介護職員への処遇改善だけではなく、これから介護福祉士になる方が将来的なビジョンとして、賃金的にも希望が持てる加算です。
介護職は万年人手不足、その要因の一つに「将来的に賃金が上がるような希望が持てない」といった声も多くあります。
介護職員特定処遇改善加算は、キャリアを積んだ介護職員が対象になり優遇される加算ではありますが、未来へ描く希望としても加算による賃金の改革は、介護職へ大きな影響を与えるのではないでしょうか。
次年度の処遇改善加算は見送り?
介護スタッフの賃金は、仕事内容と責任の重さに比較して低いと言われています。介護スタッフの賃金を他の業種と比較した平成25年度厚生労働省のデータで見てみましょう。
勤続1年未満の20歳から24歳の方の給与を比較すると産業全体では192万円の給与なのに対し、福祉職員の男性は179万円、女性は176万円と20万円近くの開きが出てしまっています。
国ではそんな状況を改善するための「処遇改善加算」という制度を設けています。 2016年、政府は「介護スタッフの月給を月1万円上げる」という考えを示しました。
その考えにのっとり処遇改善加算の拡充が行われています。
処遇改善加算における要件
処遇改善加算は事業所単位で支給されますが、加算を受けるため要件が設定されています。要件にはどんなものがあるか、そのいくつかを挙げると・・・
- 処遇改善計画を立てている、または処遇改善を行って適切に報告している
- 労働基準法の違反や、労働保険の未納がない
- 処遇改善の内容や、かかった費用を職場スタッフに周知している
- 介護スタッフの職責や職務内容に応じた要件を定めている
これらや他の要件を組み合わせて、処遇改善加算は全部で5区分に分けられています。
p>平成30年度の処遇改善加算をどうするかの議論はすでに始まっており、厚生労働省からは「平成29年度に行った処遇改善加算の上積みがどの程度効果があったのか調査したい」と要望が挙がっています。
そのための材料として、平成30年3月に結果がわかる「処遇改善加算の実態調査」を使いたいと厚生労働省は考えており、同時に処遇改善加算の加算要件のうち、加算率が低いのものの見直しや廃止も視野に入れているようです。
このことが自治体や介護が必要とする方々へ、大きな衝撃を与えることとなりました。
また、実際の介護現場を統括している自治体、介護を必要とする方たちはこの提案をどう受け止めているのでしょう。
介護の現場で高まる不安
県や市といった自治体では、介護保険の実際の運用や介護事業者の管理を行っています。
そんな介護の現場を取り仕切る全国市長会、全国知事会からは、平成30年度の処遇改善加算が見送りとなりかねない厚生労働省の提案に対し、反発の声が上がっています。
また、介護サービスを受ける、認知症の方と家族会等の当事者団体からも、同じく反発や不安の声が上がっています。自治体や当事者に共通しているのは「改善されない介護現場での人手不足」への不安と危機感です。
人手不足解消の大きな手段でもある処遇改善加算ですが、自治体では「まだ処遇の改善はなされていない」と処遇改善加算をさらに上積みする議論の続行を要求しています。
人手不足解消のためにさらなる賃金アップを行う必要性を訴え、厚労省と対立しています。 処遇改善加算を受け取る介護スタッフはこの制度をどう見ているのでしょうか。次にその声を聴いてみましょう。
介護スタッフから見た処遇改善加算
処遇改善加算は介護スタッフの待遇改善のためのものです。介護を行うスタッフであればパートやアルバイト等雇用条件に関わらず支給の対象となっています。 介護スタッフの給与への処遇改善加算の反映のされ方は、
- 毎月の給与に加わる
- ボーナス時にまとめて渡される
- 年度末にまとめて渡される
など、事業所により様々です。現場で働く介護スタッフの本音としては、「処遇改善加算をもらえるのはありがたいが、いつまでこの制度が続くかわからない」という少し諦めにも似た冷めた態度で見ているのが実情です。事業所の管理者も「いつまで処遇改善加算が続くかわからないので、給与とは別に考えざるえない」という声も聞かれています
処遇改善加算の行く末は?介護士カモのひと言
処遇改善加算は今後も続くのか、別の制度に変わっていくか等、どういう扱いになるのかはまだ決まっていないようです。
ですが現場の介護は365日休み無く続けられています。 ご利用者も介護スタッフも、介護保険や処遇改善加算のような国の制度の改変や追加に翻弄されています。
その為、下記のような不安や危機感は強くなるばかりです。
- 処遇改善加算の拡充はもうないのだろうか?
- この制度は今後どうなっていくのだろうか?
- 次年度の拡充は見送られてしまうのだろうか?
- 給与が減ってしまうことへの不安、介護スタッフの人手不足が改善されないのでは?
「ちょっと待って」てどのくらい?