新しい介護の形として話題を集めている『ユニットケア型介護施設』。
「名前は聞いたことがあるけれど、具体的にどんなサービスなのか」
「従来型との違いは何があるの?」
と気になる人も増えてきています。
そこで今回はユニットケア型施設の内容・特徴、メリット・デメリット、従来型との違い、介護職員の仕事内容などを詳しく解説していきます。
この記事を読めばユニットケアの仕組みがよく分かり、新しい介護のあり方として働く方向性を見出せる可能性が出てくるでしょう。
介護に携わる人はもちろん、身近に介護が必要な人がいる方も参考にしてみてください。
ユニットケアとは
まずは『ユニットケア』とはどのようなものなのか、その内容からみていきましょう。
地域の景観や「家」の雰囲気を持つ
ユニットケアを簡単に説明すると『自宅に近い環境の介護施設』です。
他の入居者、介護スタッフと共同生活をしながら介護が受けられるサービスとなっています。
従来の介護サービスだと、施設に入所して、集団的介護を受けるのが一般的でした。
しかしこれを嫌う利用者も多く
「ストレスになる」
「家に帰りたい」
といった声も。
ユニットケアは『いかにも施設』といった建物ではなく、地域の景観や集合住宅のような雰囲気の施設になっているところが多いです。
“一見するとただのマンションに見えるけれど、実は介護施設です”といった外見のところも多く存在しています。
玄関は普通の家と同じような作り、窓から緑が見えて外の景色を楽しめる、光が差し込み風を感じられる…など、まるで家にいるような安心感があります。
普段と変わらない暮らし
ユニットケアでは
- 食事
- 入浴
- 洗濯
- くつろぎ(お茶の間など)
といったことができる『暮らしの場』を1つのユニット(くくり)として扱います。
規模によりますが、だいたい10人前後で1ユニットとし、入居者メンバーは『暮らしの仲間』ということになりますね。
もちろん暮らしをサポートするための介護職員が固定配置されているため、介護面もバッチリです。
入居者は自分の役割を発揮し、ご飯を作ったり、お風呂に入ったり…と自分のペースで生活しやすい環境が優先されています。
台所仕事が難しい人でも、同じ入居者が料理する音を聞いたり、そばで見たりすると、普段と変わらない暮らしを実感できるでしょう。
自分の「居場所」
自分だけの空間を設けるため個室が用意されています。
ここが従来型の介護施設との大きな違いと言えるでしょう。
基本的に今まで使っていた家具や愛着のある品を持ち込んでOKなので安心感もバッチリです。
施設によっては個室トイレや洗面台が設置することで、より気軽に楽しく生活を送れるよう配慮しています。
他者との交流
施設によりますが、ユニットケアの仲間内だけでなく、外部との交流を積極的に行っている場合もあります。
例えば同じ趣味を持つ人が集まるサークルや、喫茶店などでお茶会をする、など。
入所系は利用者が寂しい思いをすることが多いですが、こういった交流を取り入れることで楽しく過ごせますね。
地域での暮らし
普段から通っている美容院や居酒屋に通うこともできますし、もちろん友人たちに会いに行ってもOK。
これまでの暮らし、地域での暮らしを大事にするユニットケアがほとんどです。
重度化して外出しづらい人も、施設内で交流ができるので安心。
ユニットケアの取り組み(目指すもの)
要介護者にとって幸せな生き方とは何でしょうか。
ご自身がその立場になったとして考えてみましょう。
多くの人は「今までと同じように生活できれば…」と思うのではないでしょうか。
ユニットケアは『介護が必要でも、普通の生活を送ること』を目指しています。
生活の基本である起床、食事、入浴、就寝は介護士の力を借りる。
趣味や友人との交流、美容院、家族と外食…といった日々の満足度に直結することは今まで通り。
これが理想的な介護生活ではないでしょうか。
- 利用者本人に自己決定権がある
- 継続性のある生活
- 残存機能をフルに活かせる
これら3つの要素を保ち、快適な暮らしを目指していく。
それがユニットケアの取り組みであり、目指すものです。
ユニットケア型 VS 従来型【施設の違い】
ここからはユニットケア型と従来型の介護施設の違いをみていきましょう。
ユニットケア型
図のとおり、ユニットケア型の入居者は『個室』で生活します。
プライバシーが保護され、1人でゆっくりと過ごせる空間が確保されているのが最大の特徴です。
またリビングスペースや共用スペース(キッチンなど)も同じ施設内にあるため、イメージとしては『介護サービスのあるシェアハウス』が近いでしょう。
従来型
従来型の場合、基本的に入居者の部屋は相部屋です。
1部屋あたりの人数は施設によって異なります。
食事はみんなで集まる食堂が基本となっていて、タイミング・スケジュールが決められ、一斉に食事をすることが多いです。
従来型施設だとどうしても『介護の効率化』が優先されるので、入居者のプライバシーや自由度が低くなってしまうのは仕方がありません。
ユニットケアのデメリットとメリット
新しい介護のあり方であるユニットケア。
利用者にとってメリットが大きいと感じられる側面が目立ちますが、少なからずデメリットもあります。
そこでここからは、施設利用者にとってのメリット・デメリット、そして介護現場で働く職員から見たメリット・デメリットをみていきましょう。
施設利用者にとってのデメリットとメリット
まずはユニットケアを利用する人にとってのデメリットとメリットを挙げます。
- トラブルが起こると居心地が悪い
- 個室があることでかえって孤独を感じる人もいる
- コストが高い
ユニットケアは介護士との距離が近いだけでなく、他の入居者との距離も近くなりやすいです。
みんなが仲良く生活できれば最高ですが、誰かと揉めるなどのトラブルが起こると、気まずい思いをしながら過ごさなくてはなりません。
トラブルの程度によっては住み替えに発展するケースもあります。
また個室があることが大きなメリットの1つですが、プライベートな時間を長く取れるからこそ「寂しい」と感じる人も。
さらに施設型と比べてコストが高く、利用者やその家族への金銭的負担が大きい点も見逃せないデメリットです。
- 個室があるのでプライベートの時間を確保できる
- 自分の都合に合わせた生活スタイルが可能
- スタッフとの距離が近く安心感が大きい
- 個室があるので家族や友人が訪問しやすい
- 少人数制なので介護が行き届きやすい
- 共有スペースで入居者同士の交流ができる
ユニットケア最大のメリットは『個室があること』で生まれる『プライベートな空間』です。
個室でゆっくりすることもできれば、リビングスペースで他の利用者とゆったり雑談を楽しんだり、趣味に打ち込んだり…と自由度が非常に高いのがメリット。
また基本的に自分のペースで生活ができるのも見逃せません。
従来型だと施設側で決められたスケジュールに沿った生活を送らねばならず、人によってはそれがストレスになることもありました。
介護施設よりも家庭環境に近い生活が送れるため、肉体的・精神的負担が小さい点が最大のメリットですね。
ユニットケアで働く介護士のデメリットとメリット
続いてユニットケアで働く介護士のデメリットとメリットをみていきましょう。
- 少人数制がほとんどで作業量、タスクが多い
- 同時に複数の仕事をこなさなくてはならない
- スタッフが1人で対応する場合もある
- 責任比率が高く、プレッシャーが重い
ユニットケアは配置される介護士の人数が少ないので、施設よりも忙しい傾向にあります。
例えば食事介助中に他の利用者をトイレに連れて行かなくなって…といった場面など。
施設によっては2ユニットを1人で対応するケースもあり、効率よく働くスキルと体力・精神力が必要と言えるでしょう。
- 入居者との距離が近く、1人1人に適切な介護ケアを行える
- 利用者に目が行き届きやすい
ユニットケアは介護士と利用者の距離がとても近いのがポイントです。
従来型では対応できなかった細かい部分にも対応できるようになり、介護の満足度が高くなります。
距離が近いため、入居者との信頼関係を築きやすく、本当の家族の介護をしているような気分で仕事に打ち込めるのもメリットといえますね。
ユニットケアで働く介護士の仕事内容
ユニットケアで働く介護士の仕事は従来の施設型とそこまで大きく変わることはありません。
基本は
- 着替え
- 食事介助
- 入浴介助
- トイレ介助
の4つです。
ユニットケア特有の仕事として次の4つなどが挙げられます。
- 部屋の掃除、シーツ交換など
- 食事の盛り付け
- 入居者や家族との会話
- 職員への伝達事項
施設とは異なり、入居者個々に合わせるスケジュールになるため、柔軟に対応しなくてはなりません。
例えば朝食。
従来介護施設は同じ時間に食堂に集まって一斉に朝食を取るのが一般的ですが、ユニットケアは起きた順に朝食の準備を進め、食べる…といった流れになります。
また食事内容も和食、洋食など利用者の好みに合わせたメニューを考えなくてはなりません。
このように「入居者が自宅で生活するように暮らせるサポート」を汲み取る能力が必要ですね。
ユニットケア型施設で勤務する際の3つの注意点
ユニットケア型の介護施設で勤務する際は次の3つに気を配るようにしましょう。
1.自身の体調管理を徹底する
ユニットケアは1ユニットを1人の介護士で見なければならないケースがあります。
人員も最低限で配置されていることがほとんどなので、1人の体調不良が他の介護士の大きな負担なりかねません。
常日頃から体調を崩すことがないように気をつけましょう。
2.些細な変化に気づく観察眼
ユニットケアのメリットは個々人に合わせた細やかな介護ケアです。
スタッフは入居者の些細な変化を察知し、適切に対応することが求められます。
普段から入念なコミュニケーションを取るのはもちろん、観察眼を養うことも意識して働きましょう。
3.細かい点もしっかり記録・共有
ユニットケアはスタッフ間の連携が大事です。
入居者の生活スタイル、食べ物の好き嫌い、好きな話題、テレビなどなど…できるだけ細かい情報を記録しておき、他のスタッフと共有するようにします。
もしもスタッフが病欠などで欠勤したときも、その間のことがしっかりと伝わるように配慮しましょう。
ユニットケアの3つの要素
ユニットケアの適切なサービスを実践するために次の3つの要素が必要不可欠とされます。
- ハード(環境)
- ソフト(生活、暮らしの支援)
- システム(施設運営)
ユニットケアの実践では『ハード』と『ソフト』を車のタイヤにたとえ、相互が両立して始めて成り立つとされます。
ここにもうひとつ『システム』を組み込むことで、さらなる推進力を得て、入居者にとって快適で満足度の高いサービスを提供できる、という考え方です。
ここからはユニットケアについてさらに深く理解するために、3つの要素の詳細を紹介していきます。
1.ハード(環境)
ユニットケアにおけるハード(環境)をみていきましょう。
まず『介護を受けられる場所』という大前提は従来型と同じです。
これに『普通の暮らしができる場所』という付加価値があってこそユニットケアを成立させています。
地域の集いの場と言える施設であり、入居者にとって家となる場所。
それらを正しく理解した上で、入居者、家族、スタッフ、訪れる人々と豊かな関係を築く施設を目指さなくてはなりません。
2.ソフト(生活や暮らしの支援)
ユニットケアは『入居者の暮らし』に沿った介護を提供します。
そのためには入居者のリズムや好みなどを理解し、入居者主体のケア…例えば起床時間は何時頃で、朝食は何時頃、寝るのは何時、といった細やかな対応が不可欠です。
従来の介護施設のように、職員の勤務に合わせて介護を行うのではなく、あくまでも入居者の暮らしに当てはめたケアを実践することが重要となります。
3.システム(施設運営の中での仕組みづくり)
ユニットケアを成立させるためには、事業としての方針や情報共有の方法、シフト、研修、チームのマネジメントなどなど、多数の『事業所的システム』が不可欠となります。
介護職員それぞれの力量を存分に発揮できる、働きやすい環境への工夫が重要です。
上記したハード(環境)、ソフト(生活・暮らしの支援)を効果的に発揮させるためのシステムは大きなカギと1つとなっています。
ユニットケアの問題点や課題
『これからの介護のあり方』として注目を集めるユニットケア。
しかしまだまだクリアしなくてはならない部分がたくさんあるのも事実です。
ここからはユニットケアが抱える問題点や課題について解説していきます。
施設運営者にとって改修費用や維持費の負担が大きい
介護施設のユニットケアは国が強く推進していて、従来の介護施設からユニットケアへの移行を検討する事業が増えてきています。
ところがどの施設も簡単に移行できるほど甘くないのが実情。
ひときわ大きな壁となっているのが修繕費・改修費・維持費といったコスト面です。
中には一度取り壊さなくてはならない施設もあり、簡単には移行できないケースも。
これらにかかる費用は利用者への負担となり、結果的にユニットケア型介護施設は高額な利用料が発生してしまいます。
施設利用料が高額になる
上記したようにユニットケア型介護施設は高額な利用料がネックです。
またユニットケアの『個室に入居』という特性上、部屋数が増え、光熱費が多くかかってしまいます。
従来のように複数人で1部屋、だと光熱費を割ることができましたが、ユニットケアではそれが通用しないことに。
維持費だけを見ても、従来の施設より割高になるのは避けようがありません。
月々の出費が増加し、入居できる人が限られてしまうのは今後解決しなくてはならない課題です。
まとめ
今回は新しい介護施設の形である『ユニットケア』について紹介しました。
最後にもう1度ポイントをおさらいしましょう。
- 個室入居タイプの介護施設で自宅にいるような感覚で介護サービスが受けられる
- 従来の施設のようにスケジュールが決められておらず、利用者は自分のペースで生活できる
- 介護士への役割が大きい、費用が割高など解決すべき課題も多い
以上3つが本記事の要点になります。
「ユニットケア型の施設に転職しようか悩んでいる」
「従来の働き方と新しい働き方、自分に合っているのはどちらだろう?」
といった人は、ぜひこの記事を参考にして、ユニットケア型施設で働く自身をイメージしてみてくださいね。