過労死自殺が新聞やテレビといったメディアに数多く載るようになり、ブラック企業という言葉が浸透している現代社会。労働人口が減少し、非正規として働く人材も増えたことによる正社員の負担の大きさは労働者を苦しめ、社会問題となっています。
そんな状況を改善すべく安倍首相が2016年に提唱したのが「働き方改革」です。
労働者・経営者問わず、働き方改革に感心を示す人は多いのではないでしょうか。そこで、そもそも働き方改革とは何か、実際に行われているのか、成果が出ているのかなど、気になる点をそれぞれ簡単に説明したいと思います。
そもそも、働き方改革って何?
働き方改革は、政府がしきりに唱える「一億総活躍社会」の実現に向けた取り組みです。多様な働き方を可能にして中間層の労働人口を増やし、労働格差が固定化されるのを会費するというのが目的となっています。
簡単に言えば「色んな働き方ができる働きやすい社会を作って、労働者を確保し、守ろう」ということですね。
そのために取り組まなければならないとされている課題が、長時間労働と非正規・正社員との格差問題、労働人口の不測問題の三つです。特に長時間労働に関しては問題視している会社と労働者が多く、働き方改革を実施する各社が最も力を入れている部分でしょう。
実際に行われている改革にはどんなものがある?
一億総活躍社会の実現に向けて、長時間労働などを減らす取り組みがされている働き方改革。それを実際に行っている会社は、いくつかあります。その中の一部を紹介しながら、実際に成果が出ているのかどうかを見てみましょう。
SCKS株式会社は在宅勤務制度の導入と推進を行っている
SCKS株式会社が行った「スマートワーク・チャレンジ」や、リクルートホールディングスが行った「リモートワクの推進」が、「在宅勤務制度の導入と推進」の例です。まずはSCSKの例から簡単に紹介しましょう。
SCSK株式会社は、2011年から取り組みを始めました。2013年10月、入社1年以上の社員全員を対象に「在宅勤務制度」を広め始め、2014年4月には所定就業時間を短縮、バックアップ休暇を年間3日から5日に拡大。
2015年にはインセンティブ制度を廃止して、残業の有無に関わらず残業代を支給すると取り決めました。「残業時間が減ると給料が減る」という不満や不安を、所定の残業代を支給することで払拭し、在宅ワークの定着を目指したわけです。
リクルートホールディングスはリモートワークをルール化
一方、リクルートホールディングスの例も見てみましょう。リクルートは育児や介護を理由として在宅勤務をすることを許す制度がありましたが、それがあまり浸透していませんでした。オフィスで働く社員の数に比べ、在宅の社員の数が圧倒的に少く足りていませんでした。
そのため、テレビ会議など在宅勤務者向けの取り組みを実施すると、「自分のために申し訳ない」という心理を生みました。
「それならオフィスにいる人の数のほうが、在宅勤務者より少なくなればいいのではないか?」と考え、リモートワークをルールとして制定しました。「在宅勤務してもいいよ」ではなく「オフィス以外で仕事しなさい」とルール化することで、半ば強引に定着させたわけです。
伊藤忠商事株式会社は朝型勤務を導入
伊藤忠商事株式会社が、朝型勤務を推進することで労働生産性の向上を図りました。この制度は、大きく分けて三つの要素から成り立っています。
元々フレックス制がありましたが、それを廃止して勤務時間を9:00~17:15としました。残業をする場合には20時までとし、終わらない場合は翌日の始業前に出勤することをルール化したんです。これが一つ目の要素。
次に、残業時間に関して細かい規定を設けました。深夜残業の完全禁止、20時から22時までの残業は原則禁止とし、終わらなかった分は翌日の出勤時刻前に行う。この規定のおかげで、「帰れない」ということがなくなります。
三つ目の要素が、残業代に関する取り決めです。早朝勤務をすると、深夜残業と同じだけの割り増し給料が得られるとしました。8時前に始業した社員には、軽食を無料で配布するというサポートも行いました。
3社の働き方改革の成果
紹介した3つの会社は、大なり小なり成果が出ているようです。
朝型勤務を推進した伊藤忠商事は、時間外勤務都心や残業が大幅に減りました。翌朝勤務にも同様の残業代を支給し、軽食まで出したものの、経費も大幅削減できたんです。ということは、仕事を時間内に終わらせる社員が増えたということですよね。
長時間労働是正と言う結果が、しっかりと得られています。
SCSK株式会社は3年間スマート・チャレンジを続け、2014年度には平均有給取得日数が19.2日、残業時間が月間18.1時間となったようです。これまで残業が多く休まない社員が多かったことを考えると、大きな成果でしょう。プライベートの充実を図る社員が多くなっています。人生の幸福度もあがりそうです。
リクルートも、リモートワークの推進で同様の結果が得られているようです。
働き方改革で重要なポイント
各社の例から、働き方改革では何が重要なのかというところが見えてきます。それは何かを、簡単に紹介しましょう。
生産性向上が一番大事
「長時間労働を減らす」と言うと、どこからともなく「業務量を減らせ」という声が聞こえてきます。それでは会社の利益が減ってしまいますよね。業務量を減らさずに残業を減らすというのが理想ですが、「それは無理だ」と語る労働者も多いです。
ただ、成果が上がった会社の例を見てみると、どの会社も「業務量を減らさず業務を減らす」ことを大切にしていることがわかります。
伊藤忠商事が、一番わかりやすい例でしょう。夜の残業を廃止、終わらなかった仕事は早朝に回すことで結果的に長時間労働が減ったというのです。業務量は減らしていません。不思議な話かもしれませんが、これは「生産性の向上」が理由となっています。
夜にしていた仕事を朝に回すと生産性が向上するのは、「夜は長いから」です。朝は9時が定時で、早朝勤務は早くても5時。長く見積もっても4時間しかありません。9時以降はその日の仕事が入ってくるので、ダラダラできません。
一方、夜はやろうと思えば朝までやれてしまいます。時間がたくさんあるからダラダラしてしまい、更に疲労のせいで生産性も落ちてしまいます。夜にしていた仕事を朝にするだけでも生産性が向上するわけです。
根底からの意識改革が大事
生産性を向上させるために大事なのは、意識改革です。
「仕事はオフィスでするものだ」「夜遅くまで仕事をするのが頑張りであり、偉いのだ」という意識が、日本社会には根付いています。前者の意識を改革するため、SCSK株式会社とリクルートは在宅勤務を推奨しました。
それによって「個々人にとって一番働きやすい場所を見つける」ことができ、生産性が向上したんです。
また、「残業の有無に関わらず残業代を支給する」ことで、「残業をする社員が偉い」という意識も変えました。給料はその人の「評価」ですから、「残業代」は残業を評価したことと言えます。だから「残業が偉い」という意識が生まれたんでしょう。
残業をしなくても給料が同じなら、そういう意識は生まれません。むしろ「残業しないほうがお得」という意識が生まれ、生産性が向上したんです。
働き方であり、休み方ではない
働き方改革を労働者が考える際、「プレミアムフライデー」などがメディアに取り沙汰されている中「どのように休むか」を主軸としがちです。SNSを見てみると「休みたい!」「こういう休暇があればいいのに」という意見は星の数ほど見られますが、それに比べて「こういう働き方がしたい」という意見は少ないですよね。
働き方改革と言いながら、労働者は休むことばかりを考えているわけです。
働き方改革を成功させるための考え方というのは、「どうやって休むか」ではなく「どう働くか」ということ。休みが増えるというのは、働き方改革をした結果にあるものです。大事なのはその結果に至る方法「働き方」を改革していくことではないでしょうか。
結局労働者は「働き方改革」をどう考えればいいか
労働者が働き方改革に対して、受動的でいれば労働者は守られません。労働者が守られ、楽になるためには労働者自身が率先して自らを改革する意識が大事です。働き方改革自体はマネジメント層の協力がないと実現できないことですが、逆にマネジメント層だけが張り切っても意味がありません。
また労働者第一主義で考えすぎると、「業務を減らすことで残業を減らす方向」に進みがち。会社からすれば、それは歓迎されることではありません。労働者が「業務量を減らそう」と主張する限り、会社は働き方改革に積極的になりにくいです。
労働者が守られる働き方改革の第一歩は、「生産性を向上して残業代が減り、経費削減に繋がること」。会社にとって旨みのある改革が、結果的に労働者を救うことになります。
そのために大事なのは、「いかにして生産性を上げるのか」を労働者一人ひとりが考えて意見することでしょう。
生産性の向上は会社単位で取り組む問題ではありますが、社員一人ひとりでもある程度は取り組めるものです。一人ひとりが取り組むことによって、会社全体に「生産性の向上に取り組もう」という気風が生まれます。
また先述のように「休むこと」ばかり考えてはいけませんよね。「こういう働き方をしたい!」という意見を、SNSなどで積極的に意見すべきです。そうすることで、日本社会全体が「働き方改革」にもっと感心を示すようになります。SNSの影響力は、今やとても大きいですからね。
ひとりひとりの働く意識を見直していくことが大切
働き方改革の成功例を見れば、働き方改革に大事なことは「生産性の向上による残業の削減」であることがわかります。そのために大事なのは「社員と経営者の意識改革」です。
働き方改革を成功させるためには、政府と経営陣だけでなく、労働者一人ひとりが「働き方」について考え、意見をすることが何よりも大切なのではないでしょうか。能動的に働き方を改革して自らを楽にするという、積極的な意識を持ちましょう。