施設の事故の一つとして、誤薬などの服薬管理のミスが報告されています。
飲み忘れ一つでも、利用者の命に関わる危険な行為です。
“あ、忘れてしまった”では絶対に済まさずに、医療職に報告し、施設職員と一緒に再発防止に努めなければなりません。
ここでは薬についての基本的な知識、服薬するとき職員が気を付けておきたいことを解説します。
服薬ミスが起きないようにするにはどうしたらいいのかを一緒に考えていきましょう。
服薬について知っておきたい3つのこと
服薬について知っておかなければならない、次のような3つのことがあります。
- 「なぜ薬の正しい服用が必要なのか?」を知る
- 服薬管理は看護師。利用者へ配薬は介護士にお願いすることもある
- 利用者の服薬の種類を知っておく
では、これらの詳細を具体的に見ていきましょう。
1.「なぜ薬の正しい服用が必要なのか?」を知る
薬は正しい服用によって効果を発揮します。
医師がその効果と副作用を考えながら服薬の量を調整しているからです。
適切な服薬をするには、医師の指示の下、正しい服用をすることが大切なのです。
本人の都合だけで服薬を中止することは厳禁。
薬は継続することで効果を発揮するものが多く、治療をするには継続服用がベストです。
医師に相談なく中止することは、その後の治療ができなくなることがあることも念頭に置かなくてはなりません。
そのためにも、看護師・介護士が正しい服薬をする意味を理解し、利用者に伝えるようにしましょう。
その場合は必ず医師や薬剤師に相談する必要があるから、勝手に服用しなかったら命に関わる危険性もあります。
身近にいる介護士や看護師の説明がより重要な役割を果たすのです。
2.服薬管理は看護師。利用者へ配薬は介護士にお願いすることもある
処方された服薬を管理するのは看護師の仕事です。
介護施設では医務室などで厳重に保管されています。
介護施設利用者は50~100人を越えるため、配薬の管理には十分に気を付けなければなりません。
服薬管理の仕事として、手元の服薬が残り少なくなる前に、利用者の家族に薬を取りに行ってもらい、病院受診の予約や受診の付き添いを生活相談員にお願いします。
利用者への配薬は介護士がする場合が多いです。
多忙な業務の中、少ない施設看護師の人数だけでは仕事が回らないことがあるからです。
しかし配りミスがあると、利用者が他の利用者の薬を服薬し、誤薬をしてしまう危険があります。
配りミスが無いように職員同士で2重・3重のチェックをしましょう。
ミスを防ぐための手順に“やりすぎだ”ってことはないんです。
3.利用者の服薬の種類を知っておく
利用者には薬を飲まない人や、1日に何十種類も服用する人まで様々です。
入所時に本人や家族に、既往歴、現病歴、どのような服薬を飲んでいるかなどを情報収集します。
一人一人にかかりつけ医がおり、指示薬があります。
介護士は服薬に関わる立場として情報ファイルに目を通すなどして理解しておきましょう。
服薬の基本知識
ここでは服薬に関する基礎知識を紹介します。
どれも役立つ情報なので、しっかり読んでみてください。
服薬は水で!お茶も可です。
服薬するとき基本的な飲み物は水です。
服薬は水を飲むことで効果を発揮できるように作られているため、ジュースやコーヒーなどは避けましょう。
薬によっては副作用が出る危険があります。
ではお茶はどうなのかという意見があると思います。
介護施設では水を好まない利用者や、利用者一人一人に水を用意する大変さが懸念されます。
お茶で服用しても可であり、薬の効果への影響は少ないとされています。
食直前・食前は違う!服用時間は守ろう
薬は決められた時間に服用しなければなりません。
間違えた服用の仕方をすると効果が出ず、副作用の危険があります。
▼特に分かりづらいのが『食直前』と『食前』の違い
食直前 | 食事を始めるときに服用すること |
---|---|
食前 | 食事の30分前に服用すること |
▼次に分かりにくいのが『食間』と明記されているもの
食間 | 食後2時間くらい(食事をしている間ではありません) |
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この2つの違いは分かりづらいので注意しましょう。
薬について分からないことは、命に係わることもあるので恥ずかしがらずに確認しましょう
▼上記以外の服薬時間
食直後 | 食事のすぐ後 |
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食後 | 食事の30分後 |
▼食事の時間とは関係なく服薬するもの
頓服 | 症状が現れたときに医師の指示で |
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時間ごとに | 食事に関係なく一定の間隔で |
起床時 | 起きたらすぐに |
就寝時 | 就寝する30分前 |
起床時・就寝時の服薬は、夜勤業務で疲れていて注意散漫になっている時に配薬するため、服薬漏れがないように気を付けましょう。
食べ物に混ぜたり砕かない
食べ物に混ぜたり砕いて服薬させることはやめましょう。
薬を砕くと、本来の効果を失わせる可能性があります。
また、食べ物に混ぜると本来の食事の風味を失わせてしまい、せっかくの食事が美味しく食べられなくなりますのでやめましょう。
ただし、認知症の方や服薬を拒否する利用者に対しては対応に苦しみます。
薬を本能的に口から出したり、嫌がったりするからです。
お茶や汁物などに使用するとろみ剤を使って上手く薬を服用していただくか、服薬をしやすくするゼリーなどを使用(医師・看護師に相談)し、工夫することが大切です。
現場の人はすごく努力していますよね。
安心・安全な薬管理方法4つ
薬は保管管理によって質が変わってしまい、効果の低下や間違いの原因になります。
そのため安全で分かりやすい管理が重要です。
薬は安全のためにも次に紹介する4つのポイントをおさえて、手間はかからずに確実に管理をするのがおすすめです。
1.かかりつけ医ならぬ“かかりつけ薬局”をつくっておく
薬も飲み合わせによっては副作用が出たり、知らぬ間に重複した成分を摂ってしまい体に負担になるケースもあります。
それを専門家の目でチェックできるようにすれば、気づいてもらえる可能性が高くなります。
そこで「かかりつけの薬局」をつくるのがおすすめです。
過去の履歴も残っているのでチェックしてもらえますし、正しい飲み方や以前の薬について声掛けを行ってくれることもあります。
かかりつけ医はよく耳にしますが、その先の薬の処方をしてくれる薬局でも、同じ薬局にまとめおくと管理がしやすく、自分と薬剤師とでダブルチェックができます。
2.一包化してもらうと楽になる
いくつかの薬を飲んでいる場合は、薬の飲む量やタイミングがさまざまになるので管理も大変です。
薬は色や形が似ていますのでうっかり間違えることも珍しくありません。
そこで飲むときに考えずに済むのが一包にまとめてもらうことです。
例えば、朝に飲む薬、昼に飲む薬のように1回のタイミングで飲むべき薬を、1つの包みにパックした状態でもらいます。
そうすれば1回ごとに薬を選んで飲む量もチェックしてという、面倒で間違いの起こりやすい作業が不要になります。
3.服薬管理グッズを活用する
服薬の管理はアイテムも充実して生きているので、それらを使っても助けになります。
よくあるのが1回ごとに飲む薬を仕分けておいて、取り出していく保管ボックスがあります。
またスマートフォンのアプリでも、登録した内容でお知らせが来るので確認や気づくことができます。
介護や医療機関だけではなく、通販や100円ショップなどでも扱っていますので、すぐに手に入りますので取り入れやすいでしょう。
服薬管理グッズもさまざま出ていますから、自分に合ったお助けアイテムで補助していくと確実に、でも負担を減らしながら管理ができます。
4.管理を手伝ってもらう
家族などがいれば、薬の管理を手伝ってもらうことも有効です。
自分とは別の視点でチェックしてもらったり、管理に役立つツールを作ったりとヒントを貰うことで、わかりやすい管理方法が思いつくかもしれません。
また一緒に管理してくれる人がいれば、自分がうっかり見落としていてもダブルチェックで間違いを防ぐことができます。
自分だけで管理しようとすると負担も大きいですが、助けがあると精神的にもラクです。
一緒に管理することで習慣が身に付きやすくなります。
服薬で注意したいこと
服薬で注意すべきポイントは必ず押さえておくことが大切です。
ここでは万一の事態に陥らないためにも、その注意点を詳しく説明していきます。
誤薬に注意しよう!
薬を配るときに最も気を付けなければならないのが『誤薬』です。
誤薬を防止するポイントは3つあります。
- 利用者同士の薬の保管場所を隣接させない
- 服薬させる直前に2名で名前を読んでダブルチェックする
- その後当該利用者に間違えずに渡すか目で追って確認する
利用者同士の薬の保管場所を近くに置いておくと、知らないうちに違う利用者の薬が混ざっているという危険があります。
また、棚などに放置するのも忘れてしまう可能性があるため、服薬の時間になったら日勤の当番が直接服薬させるなどの徹底が必要です。
ただし、それも一人の負担が大きいため、「担当職員に手渡して周り、」→「担当職員が確実に服薬させ、」→「それを再度当番職員が確認し、」→「チェック表に記入する」など2重・3重チェックが必要です。
また、朝食後に服用する薬を昼食後に飲ませてしまったなど、服薬時間のミスも誤薬の一つです。
服薬忘れがあった場合も、速やかに看護師に報告して指示を仰ぎましょう。
飲み忘れは次の服用時間を確認し、次の服用が近い場合は飲み忘れた薬は服用せず、次の服用から服薬します。
ただし、薬の種類によって違いがあるため、医師・薬剤師にあらかじめ相談することが大切です。
薬を飲みこんだかまでしっかり見守る
利用者に薬を配り、薬を飲んでいただく場合に気を付けることは、
- 目の前で封を開けるのを確認するもしくはこちらが封を開けて渡す
- 口の中に入ったことを確認する
- 薬を飲み込んだか最後までしっかり確認する
です。
介護施設の利用者の中には疾患がありうまく飲み込めない人や、認知症があるなどで薬の服用が難しい人、薬を服用することに拒否的な人など様々な人がいます。
利用者本人に手渡し、ポケットの中に隠してそのまま飲まなかったり、口の中に入れて吐き出す人もいます。
そのようなことにならないよう、薬の袋を開封する・口の中に入れる・飲み込むまでを見守り・介助しましょう。
食事介助をする担当者や、薬を配薬する職員が責任を持って確認しましょう。
服薬介助を行う際の注意点
誤嚥を防ぐ工夫をし飲みやすくしたり、また、片麻痺の場合には、飲めていないことに気が付かない事もあるため、薬が残っている可能性もあります。
そこで、ここでは服薬介助を行う際の注意点を詳しく紹介していきます。
飲み込みやすくなる工夫をし、誤嚥を防ごう
服薬介助では薬を飲みやすくするための工夫を施すのが思いのほか大切になります。
なるべく体を起こした状態で服薬する
まず、なるべく体を起こした状態で服薬することで誤嚥を防ぐことができます。
起き上がることが難しい場合頭を下に向ける
一方、起き上がることが難しい場合、臥位(がい)で服薬する必要があるときは、頭を持ち上げ少し下を向いた状態にすると、薬を飲み込みやすくできます。
椅子に座った状態の場合に服薬させる方法
また、椅子に座ることが可能なら座った状態でかかとを床面にがっしり密接させて体を安定させ、お尻をずらして上体を少し後へと倒すと重力で飲み込みやすくなるため、誤嚥を防げます。
このときの首の角度は、あごを引きうつむいた状態で飲むとよいです。
錠剤はオブラートを用いる
そして錠剤などの薬が飲みにくい場合は、ゼリー状のオブラートを使うと飲みや込やすくなります。
片麻痺の場合は飲み込めていないことに気付かないことも
片麻痺の方の場合、薬が飲め込めてないことに気が付かないこともあるため注意が必要です。
それは散剤が気管に入り薬が飲み込めていない場合があるからです。
また薬が患者側にあると、食道に引っかかり炎症を起こすケースもあります。
そのため片麻痺の方を服薬介助する場合には、健側(けんそく・麻痺がない側)のベッドサイドに立つことが重要です。
そして薬を飲む方には、以下のイラストのように健側を床側に接してもらい側臥位を取ってもらいます。
なぜなら健側を下にすることで、重力で薬が咽頭に移動するからです。
このようにすることで、嚥下しやすくなるともに誤嚥も防ぐことが可能になります。
認知症患者の服薬拒否対策
認知症患者の方の中には、服薬拒否をする場合も多いのが実態です。
服薬拒否対策をするときには、なぜ服薬拒否をするのか考えなければなりません。
ここでは、なぜ服薬拒否をするのかその対策と原因について紹介していきます。
なぜ拒否するのか考えてみよう
まず拒否する理由としては、薬を飲む理由が分からないということが挙げられます。
このときの対策は、認知症が原因と受けとめることで冷静さを保てます。
また被害妄想が原因で拒否する場合もあります。
その際は時間を置いてから対応したり、日頃からの関わりを大切にして信頼関係を築くことが大切です。
嚥下機能が低下しているのも原因です。
この場合は医師に相談すると、錠剤をシロップに変えるなどしてくれるため相談することが重要です。
さらに副作用の自覚があり、本当に飲みたくないというのも原因にあるので注意が必要です。
原因と対策① 薬を飲む理由が分からない
そもそもご自身が病気であることを忘れている場合は、薬を飲むことに対して疑問を抱くことは普通のことでしょう。
無理やり薬を飲ませてしまうと、悲しいことに毒を飲まされたと勘違いしてしまう可能性もあります。
病院に通っている記憶がない場合でも、覚えている範囲の症状をご本人に確認してから、それを改善するための薬であることを伝えてみて、納得してから飲んでもらうのがベストです。
原因と対策② 薬を飲みこむのが大変
理由もなく服薬拒否をしているのではなく、よくよく話を聞いてみると、ご本人なりの原因が判明することもあります。
例えば、錠剤の大きさが自分には合わなくて飲み込むのが苦しかったり、粉薬が苦くてしんどいといったことです。
ゼリー状、液状など、可能な限り希望に寄り添った薬を処方してもらうといいでしょう。
原因と対策③ 薬が嫌い
以前から服薬することに抵抗がある方は、処方された薬の数が増えてくるにつれて、自分の弱みを見せているという気持ちから服薬拒否をしていることもあります。
薬を飲むときには、見守っている人が「薬の数が減ってすごい」など、肯定的な声かけでサポートをするのもひとつの手です。
原因と対策④ 薬を飲む気分にならない
薬を飲む気分にならない原因として、必要性が分からない、薬に否定的な考えがあるといったことが挙げられます。
必要性が分からない点については、ご本人に病気の自覚がなくそもそも薬を認知していないケースがあります。
次に薬に否定的な考えを持っているのは、もともとの性格や手技によって、医療にかかったり薬を飲むこと自体に拒否反応を示したり、否定的だったりします。
このケースの対処法として薬の種類を最小限に絞ってもらうといったことが有効に働きます。
元気だから薬が減った、他の方より少ないと声をかけると本人も飲む気が起こりやすいでしょう。
原因と対策⑤ 介助者と波長が合わない・相性が悪い
介助者と波長が合わなかったり、そもそも相性が悪いといった原因もあります。
これは飲むタイミングが悪かったり、服薬を勧める人との相性が悪いといったことが理由です。
タイミングとしては、食後のリラックスした時間に薬は飲みたくないという考えや意思が働いている可能性があります。
自律神経が乱れやすいレビー小体型認知症の場合、食後に血圧が下がるので服薬自体困難なタイミングになっているケースも少なくありません。
次に服薬を勧める人との相性が悪いというのは、勧める人を嫌っているのではなく、
「その人に弱みを見せたくない…」
「不健康なところを見せたくない…」
といった意思が働いています。
こういったケースに対しては、他の家族や訪問介護のスタッフなどに勧めてもらうのがポイントです。
原因と対策⑥ 副作用の自覚症状があり、本当に飲みたくない
最後に副作用の自覚症状などで本当に飲みたくないという原因があります。
これは、実際に副作用が出ていたり、そもそも飲み込みにくかったりといった理由が挙げられます。
まず、薬で本当に具合が悪くなるケースとしては、代謝が衰えたり腎機能が落ちている場合もあり、薬の副作用が出やすいことです。
次に飲み込みにくいといったことも少なくありません。
飲み込む力が低下したために、薬がうまく飲めなくて拒否しているのです。
例えば、小粒すぎてもだめで、粉薬はむせるといった感じです。
この場合は、医師と相談しすぐ解ける口崩剤や液体の薬に変えてもらうといった方法が効果を発揮します。
まとめ:服薬について知識をもって確認を徹底しよう
薬は利用者にとって大事な生命線となる大切なものです。
間違った飲み方や管理をしてしまうと命に関わり大変危険です。
日頃から職員が正しい知識を持ち、責任をもって服薬管理をしましょう。
介護施設は100人の入所者を管理する大変多忙な職場です。
中にはたくさんの薬を服薬する利用者もいるため介助に戸惑いますし、慌てて介助をしがちです。
「そのようなことのないように、しっかり飲み込んだか?」
を確認し、他の職員と連携をしながら2重・3重チェックを行いましょう。
↓医療従事者と介護士についても知っておこう↓
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