転職活動をしていると内定を辞退するシーンに遭遇します。理由としては、複数の会社から内定をもらい、どちらかを選ばなければならなくなるというのが一般的でしょう。
中には「内定はもらったけど、やはりこの会社は自分に合いそうもない」と考え直すという理由での辞退もあります。
理由に限らず、どちらにしても速やかに内定を辞退することが大切です。あなたを信頼し、見込んで採用を決断してくれた会社です。マナーと礼儀を踏まえた態度で申し出ることがなにより肝心です。
今回は内定辞退の対応方法について解説していきます。
意外に重い「内定」の定義。内定だからといって適当に対応するのはNG
ところで内定とは、どういった定義を持つものなのでしょうか。実は、なんとなく軽い印象も受けるこの2文字の表す意味は、意外に重いのです。
内定=労働契約
内定とは、すなわち労働契約(雇用契約ともよく言います)の成立を意味しています。それが法的な解釈です。
さらに詳しく言えば、内定とは『始期付・解約権留保付労働契約』が成立したことをいう」との考え方が、判例などによってほぼ確立しています。
ここでの「始期」とは、たとえば「4月1日から」といった就労開始日のことです。つまり、内定とは、繰り返しますが、労働契約(雇用契約)の成立そのものです。
労働契約なので企業側からの内定取り消しは簡単ではない
内定は労働契約ということなので企業側からの内定取り消しは、単なる通知の撤回であるとはみなされません。
解約権を行使する場合以外においては、労働者を「解雇」したものと解釈されてしまいます。
解約権留保とは
主に企業側が内定を取り消すことができる場合の条件が、契約に付随していることをいいます。
よくある例が、新卒者を採用する場合の「内定者が大学を卒業できなかった場合、企業はこの内定を取り消すことができる」というものです。
すなわち、そこで内定者と争いが生じた場合、企業は、「正当な解雇事由を有していての解雇だったかどうか?」を厳しく問われることとなるわけです。
そうした意味で、内定の通知というのは、実は企業にとってはかなりの重い決断です。
そのことをまずはしっかりと頭に入れておきましょう。
内定の前の内々定とは?
内定は労働契約の成立そのものを意味しますが、内定に似た内々定というのもはどこまでの効力があり、内定とどう違うのでしょうか?
内々定は新卒者と中途採用者では意味が少し変わる
一般的なのは、企業が新卒者を採用する過程でよく聞かれる「内々定」です。実はケースによって違った意味で使われることが多く、かなり曖昧な言葉なのです。
新卒者の内々定
経団連(一般社団法人 日本経済団体連合会)の「採用選考に関する指針」にもとづいて、会員企業などが採用内定日の規定を遵守しようとする場合、その日よりも前には内定を通知することができません。
内定=内々定
内々定という言葉を使って、入社希望者へ意向を伝えておくといったものがそれにあたります。つまり、実質的には内定ということになります。
中途採用者の内々定
転職・中途採用の場合、企業側の事情によって、内々定の言葉を使う理由はさまざまです。
「まだ労働契約は結ばれていませんよ」という念押しの意味で内々定を通知してくる場合も多くあります。
内定≧内々定
法解釈上では内定と通知してしまえば、労働契約が成立したものとみなされてしまいますので、何かあったときのためにということです。
たとえば企業側が「あなたの採用は内々定していますので、他社の面接はもう受けないでください」と、内々定者へ要請していたとしたら、もはやそれは実質上内定と判断されることになるでしょう。つまり、その場合の取り消しイコール、解雇です。
ちなみに、解約権を行使する場合であっても、もしも争いになれば、企業側は、解雇の客観的な合理性と社会通念上の妥当性を追及されることとなります。
解約(内定取り消し=解雇)の条件がたとえ内定通知書などに明記されていたとしても、そこに合理性・妥当性がきちんと備えられていなければ、企業側は裁判に負ける可能性が高いのです。
つまり、内定の2文字に絡んでは、内定者は判例などを含む強力な法的保護のもと、手厚く守られているといってもいいでしょう。
内定辞退はいつまでに申し出るべき?
これは、民法第627条により定められています。雇用は被雇用者からの解約の申入れの日から、「2週間を経過することによって終了」することが明記されています。(一定条件の付いた規定ですが、通常、企業の社員として雇用される場合はこの規定が当てはまります)
仮に入社日の3日前に「内定を辞退したい」と申し出た場合、内定は労働契約の成立そのものであるため、雇用が終了する日は、入社日から1週間を大きく超えたあととなるわけです。
もしもここで企業側と辞退の申し出に対して問題となった場合、労働契約満了日までの出社や賠償を求められるといった事態もありえることです。
ここでの「2週間前の前日まで」は、マナー云々という以上に、自らを守るための心得として忘れずに覚えておきましょう。
伝え方の基本は電話で、内定のお礼も忘れずに!
内定辞退を決めたとして、どのような方法でそのことを企業側へ伝えるのがよいのでしょうか。
先に結論を言いますが、ベストは、「電話で直接伝える」ことです。メールは簡単に送ることができますが、あまりおすすめはできません。
言い出しにくいことだからといって、手軽なやり方で済ませてしまおうとする安易な姿勢が相手に伝わってしまいます。
また、以下のことを合わせて伝える必要があるので、メールでは難しくなります。
内定辞退で企業に伝えるべき4つのポイント
以下の4つのポイントに注意して内定辞退を伝えましょう。
- 「内定をもらったことへのお礼」
- 「辞退する理由」
- 「内定辞退のお詫び」
- 「内定辞退を受け容れてくれたことへのお礼」
企業はあなたを信頼し、人物を見込んで、仲間にすることを望んでくれていたです。丁寧に、礼儀を尽くすことを忘れてはいけません。お詫びとお礼は丁寧に伝えることが大切です。
内定辞退の意志については、毅然とこれを伝えます。妙にへりくだったり、言葉に詰まって苦しんだりする必要はありません。
「相手に手間を負わせ、申し訳ないことにはなったが、悪意の行為ではない」ことを自らに言い聞かせてから臨むのがよいでしょう。
内定辞退の理由は正直に伝える
内定辞退を伝えると多くの場合、その理由を聞かれることになります。その質問に対しては、正直に理由を答えることがまずは基本です。
- 他社の内定も出て、そちらを選んだ
- 給料面で、家族を養うにはやはり厳しいと考え直した
もし、どうしても理由を伝えたくない場合は、理由の詳細を聞かれて押し黙ってしまうのではなく、「大変心苦しいが、理由は伏せさせてほしい」という旨を伝えましょう。
内定辞退について決心したならば、とにかく早く先方に伝えることがなによりも肝心です。その次には誤解を生ませないこと。さらには、礼を失しないことが重要です。
実際の内定辞退の理由を聞いてみた!
複数の介護職の求人に応募していて落ちていたことから、同時に2つの事業所の求人に応募していました。
すると同時期に両方から内定をもらったのですが、片方は最初は非正規採用で勤務状況を見て正規採用するかどうかを決めたいと言われていたことから途中で解雇されることも予想されました。
なのでもう1つの最初から正規採用すると言った事業所にした方が安心して勤められると思い、非正規採用で内定をもらった事業所に内定辞退を申し出ました。
辞退した業界・職種:福祉 介護職
私自身の最低限の給料として月給23万円というものがありました。なので転職活活動をしている際もその条件をクリアできそうな企業にだけ応募していました。
そこで実際に仕事内容にも関心を持ち入社を考えいたのですが、最終面談にて給料の交渉で、提示してきた金額が23万円を下回っていたので辞退することに致しました。
同じ教育業界でもう少し給料が高いところも見てきたので、正直仕事内容と給料が合わないと感じました。自分の価値観を曲げることができませんでしたが、これで良かったと思っています。
辞退した業界・職種:教育業界 教室長候補 営業職
私は県外の職場の面接を受けて見事内定しました。一人暮らしをしながら働くことを決意して準備もこれからするつもりでした。面接時には4月に出社と聞いていたからです。
それなのに内定が決まった途端向こうから「すぐに明日から来てほしい」と言われて困惑しました。アパートだって内定もらってから決めようと思って何も準備していなかったからです。
アパートが決まるまではホテル代を出してくれるとか言っていましたが、突然のことに驚いたし急にこのようなことを言われてかなりこの職場が不安になりました。
これはちょっとと不信感を持ってそのまま内定を辞退しました。後から聞くとあまりいい噂がない職場だと知って、辞退して良かったなと心から思いました。
辞退した業界・職種:アパレル 販売員
まだまだたくさん内定辞退理由情報
何がやりたいか明確なビジョンをもちましょう(47歳・男性)
一応、知り合いの会社から声を掛けてもらっていたものの、不合格だと無職になってしまう可能性もあったので、同職種を受験しました。
現在の会社の事務所は、広くて非常に明るい感じだったのですが、辞退した方の会社の事務所は日当たりが悪いところにあったのか非常に薄暗い雰囲気がしました。
あと、受付で対応くださった方も今のところは明るかったですが、辞退した方は結構ぶっきらぼうな対応でした。提示された報酬の条件も現在の会社のほうが若干ですが良かったです。この辺の差で辞退しました。
辞退した業界・職種:経営コンサルタント
人生全体を考えた就職活動をしていませんでした(36歳・女性)
就職と同時に一人暮らしをする気でいたので、国内ならば場所を問わず、気になった会社の就職を希望していました。その後無事地元から遠く離れた企業から内定を頂きました。
実際にその土地へ行ってみて、転勤がないために一生をここで過ごすことになるんだと想像してみたところ、どうしても具体的な未来を思い描く事が出来ませんでした。
その会社での未来は明るく想像できたのですが、人生にはプライベートの時間も多くあり、その部分を考えずに就職活動をしてしまっていました。もう一度一から考える為に、内定を頂いた会社には申し訳なかったのですが、内定を辞退させて頂きました。
辞退した業界・職種:製薬会社 研究開発
内定出た後に辞退するかギリギリまで待ってもらった結果(26歳・男性)
同時期に2つ内定をいただいたのですが、もう片方の会社が親が就職についてほしかった業種だった上に祖父母の家からの通勤が可能でアパートを借りる等のお金がかからないということから親と言い合いになり最終的に自分が折れた形で決めてしまいました。
辞退の連絡もギリギリまでしていなかったせいで大学に問い合わせがあり、慌てて連絡したことをよく覚えています。辞退の際には家庭の事情とは言いづらて第1志望での会社が決まったためと伝えたのですが特に何も言われることもありませんでした。
辞退した業界・職種:食品製造業 営業
何をさせたいのか全く分からなかった(35歳・女性)
メディア系ベンチャーのスタートアップメンバーの経験を買われ、IT系企業のホールディングス化の中心として内定しました。六本木のかなり有名なオフィスビルに入っているベンチャー系の企業です。
これからホールディングスを作りたいので、まずは第一号として是非あなたに、と言われたものの、ビジョンや概要を語ることなく「すべてあなたに任せる」と言われたことから、悪い意味での放任主義なのではと不安になり、内定辞退いたしました。
辞退した業界・職種:IT ホールディングス主任
やっぱり職種が嫌だと感じ内定辞退(27歳・女性)
理由は、債権回収の仕事がしたくないと、内定が出てから強く思うようになったからです。こちらの求人は収入も、労働時間も、通勤場所などの条件はすべて良く、転職時期も長くなってきたため応募したのですが、いざ内定が出ると急に不安になりました。
納得して応募したはずだったのですが、この仕事は、恥ずかしい仕事ではないのだろうかと思い始めました。
面接官の人も丁寧で、好印象だったのですが、自分がここで働いていて親や友達は喜ぶだろうかと考えたら、勤めることにたいして前向きに考えられなくなりました。そのため、内定を出してくれたのに申し訳ないのですが、辞退をいたしました。
辞退した業界・職種:債権回収 事務
内定はいつの時点で成立するのか?
内定が労働契約の成立を意味することについては、最初に説明したとおりですが、内定にともなう労働契約は、いつの時点で成立するのでしょうか。
内定後は、内定通知書などの書面が内定者のもとへ届いたのち、内定者が企業側へ、入社承諾書を返送するという流れが一般的です。
- 内定通知連絡
- 内定通知書が届く
- 入社承諾書を返送
入社承諾書の提出を書面で求める企業の側にあっては、実際には入社承諾書の受理をもって、内定者の最終的な意思確認ができたものとみなす場合がほとんどでしょう。
そのため、入社承諾書の受理前に内定者から内定辞退の申し出があった場合と、受理後にあった場合とでは、それに対して担当者が腹を立てて苦言を述べたり、述べなかったりという感情的な面も含め、対応に違いが生じるケースが多いはずです。
しかし、労働契約を成立させるためには、書面の取り交わしが絶対必要な訳ではありません。
たとえば、企業の人事担当者から「あなたの採用を内定します」という電話が入り、内定者が「ありがとうございます。よろしくお願いします」と同意を示せば、口頭のみでも労働契約は成立します。
その場合、書面は契約の成立を証明するために、あとから作成される形式上のものとなるわけです。
↓辞退の前に通常の内定後の流れも知っておこう↓
入社承諾書提出後の内定辞退
入社承諾書を提出してしまうと、もう内定を辞退できなくなると思いがちですが、それは誤解です。
提出後であっても、労働契約の解約を申し出ることは可能です。憲法に定められている「職業選択の自由」(第22条)が、労働契約に優先するかたちで、そのことを保証してくれています。
同業界内での転職の場合など、内定を辞退した相手の企業と、あとで仕事上の関係を持つことも考えられます。入社承諾書提出後の内定辞退となればさらに礼儀を持った対応が必要となります。
入社承諾書の名称
- 内定承諾書
- 内定受諾書
- 入社誓約書
入社承諾書については、企業によって名称がバラバラです。さまざまな呼び名があることも知っておいてください。
強引な引き止めにあったら場合の対応
内定の辞退を申し出た際、場合によっては強引な引き留めにあうこともあります。
電話をかけたところ、「大事なことなので直接会って話をしたい」となった場合などは、引き止めを断る覚悟が必要になりそうです。
懇願タイプの引き止め
「そんなこと言わずにぜひウチに入社してください」と頼み込まれるケースです。
圧迫・威迫タイプの引き止め
「別の会社に内定ですって?そっちは断ってください。あなたを採用するためにどれだけ手間とコストと人手をかけたと思っているのですか。全部無駄にさせるつもりですか」。「損害賠償してもらうことになりますよ」など。
後者のケースは、新卒採用のシーンにおいて時折耳に入ってくるなどするものですが、人手が不足し、企業側が求人に血眼になっているような場合、中途採用でもありえないことではないでしょう。
ちなみにこの場合、話に乗る必要はありません。落ち着いて、毅然と要求を断りましょう。
内定辞退の意志を一度でも示したならば撤回はタブー。もはや後戻りする道は無い、と心得ておくのがよいでしょう。
内定辞退方法まとめ
内定辞退はポイントを抑え、礼儀をもって毅然とした態度で企業に伝えるようにしましょう。
- 連絡方法…電話
- 期限…入社日の2週間前まで(なるべく早くが良い)
- 理由…正直に伝える
- 内容…お礼の気持ちも忘れずに
- 引き止め対応…撤回はおすすめできません
真面目な人ほど、苦しい想いをすることになるのカモね。
転職エージェントにサポートしてもらっている場合は、内定辞退を伝えるプロセスについても、エージェントに力になってもらうことはできます。
自分の代わりに、エージェントから内定辞退の意志を伝えてもらうと、心情的にはとても楽でしょう。
「自らも電話をかける、あるいはエージェントの担当者に託すなど」迷った場合は、担当者に相談してみてください。
状況に応じて、「あなたは動かなくても大丈夫。すべてこちらに任せて下さい」との提案があるかもしれませんね。